【対談・前編】多拠点居住でネットワークを広げる。ジャーナリスト・佐々木俊尚さん×YADOKARI|未来をつくるひと〈100 People〉Vol.3

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YADOKARIメンバーが未来をつくる100人に会いに行く対談企画「100 PEOPLE 未来をつくるひと。」VOL.003は、ジャーナリストで作家の佐々木俊尚さん。佐々木さんは2011年から東京の他に軽井沢にも拠点を持ち、東京と2拠点居住の生活をされています。さらに今年は福井県にも拠点を増やしたとのこと。YADOKARIの提唱する多拠点居住の実践者である佐々木さんに、YADOKARI代表のさわだいっせいとメンバーのスズキガクがお話をうかがいました。(進行・構成 蜂谷智子)

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佐々木俊尚さんプロフィール

1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社で記者を務めたあと、月刊アスキー編集部を経て、フリージャーナリストとして活躍。著書に『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)、『自分でつくるセーフティネット』(大和書房)など。

多拠点居住のきっかけは、東日本大震災によって得た気づき。

YADOKARIさわだ(以下、さわだ) 佐々木さんは、福井、軽井沢、東京と3つの拠点を持たれていますが、多くの土地に拠点を持つライフスタイルに移行されたきっかけはどういったことなのでしょうか。

佐々木俊尚さん(以下、佐々木) 震災以前は東京にしか拠点を持っていなかったんです。ところが震災をきっかけに、今後首都直下型の地震が起きる可能性を考えるようになりました。もし首都直下型地震が起きたら私たち夫婦は居場所がなくなるんです。お互いの実家が遠方で、戻るのも大変ですし。じゃあ、東京以外に1カ所拠点を増やそうという考えに至りました。妻は絵を描いていて、私は文筆業。2人ともフリーランスなのですが、お互い事務所を借りずに自宅で作業しています。その分家賃の負担も少ないから、もうひとつの拠点を地方に持つこともできるだろうと。震災後の夏には新たな拠点を探し始めました。

さわだ YADOKARIは震災以降、家とはなにかを再定義する実験を行っています。今考えると震災が起こる前は、それを考えないでも生きてこられたんですね。311はそれを考えるきっかけになりました。

佐々木 やはり、リスクヘッジをみんなが考えるきっかけになったのでしょう。

── 佐々木さんが多拠点の住まいを始めたのは、YADOKARIが活動を始めたのと同じく震災がきっかけ。現代社会の変化をいちはやく切り取る佐々木さんと、直感力にあふれたYADOKARIの間に生まれた、意義深いシンクロニシティです。

佐々木さんの東京の拠点、代々木上原のご自宅でお話をうかがった。
佐々木さんの東京の拠点、代々木上原のご自宅でお話をうかがった。

軽井沢と福井。拠点にしてみて分かったこと。

YADOKARIスズキ(以下、スズキ) 拠点とする土地を選ぶにあたってどんなことを重視されましたか。

佐々木 最初は飛行機ですぐだから、いっそ北海道や仙台がいいんじゃないかと探してみたんですが、当時は大きい犬を飼っていたので車でしか移動できない。伊豆も候補にあがりましたが、地震が恐いなら伊豆は距離が近すぎる。あれこれ考えた結果、軽井沢が一番良いんじゃないかと考えました。東京から来た居住者にとって、軽井沢はメリットがたくさんあります。

・新幹線で1時間なので、近い。車でも2時間半。
・東京から来る人で産業が成り立っている街だから、よそ者に優しい。
・東京の感覚に近いパン屋さんや肉屋さんなどのお店が多い。
・冬は寒いけれど、豪雪ではない。

などのポイントから、最初の拠点を軽井沢に決めました。

スズキ 軽井沢の住まいはすんなりと決まったのでしょうか。

佐々木 買うのか借りるのかという問題はありますね。私は賃貸派なので、持ち家は嫌なんです。そのような考えを持ちながら、実際に軽井沢に行ってみて、運よく優秀な不動産屋さんに出会えました。その不動産屋さんが紹介してくれたのが、”シーズン貸し”と”通年貸し”のふたつの別荘だったんです。シーズン貸しは、7〜10月の期間で別荘を借りられます。家財道具も全て付いているんですが、シーズンオフは持って来た物をすべて引き払わなきゃいけない。それは手間なので通年で借りました。

ただし最初に借りた別荘はその後すぐに住み替えることになります。その別荘は200平米くらいで月額19万円と破格の家賃でした。ただし80年代に建てられたもので古いから、寒い時には水抜きをしないといけないんです。だから冬のあいだには行かないことが多くなる。それだと冬場の家賃が無駄になりますよね。

スズキ 気候や風土など、その土地ならではの事情というのは、住んでみないと分からないですね。

佐々木 そのタイミングで、例の不動産屋さんから、別の形で別荘を貸し出しますよと打診が来たんです。お金持ちのオーナーさんがいて、住んでくれると決めれば、間取りや内装を好きなようにしますというお話でした。90平米くらいで、家賃は22万円。今はその家に住んでいます。こちらは床暖房が入っているので、冬場も水が凍らず、冬もよく行っています。

賃貸ながら佐々木さんご夫婦の希望通りにカスタマイズされた軽井沢の別荘。書籍などのまとまった執筆はこの場所で行うそう。
賃貸ながら佐々木さんご夫婦の希望通りにカスタマイズされた軽井沢の別荘。書籍などのまとまった執筆はこの場所で行うそう。

さわだ 福井の拠点に関しては、どのように探されたのでしょうか。

佐々木 福井に家を借りることになったきっかけは、妻が福井の会社と組んで、陶器の板に絵を描く”陶画”を始めて、それから向こうに行くことになりました。福井で建築屋さんをやっている北山大志郎さんという友人がいるんですが、彼が敦賀の限界集落の元お医者さんの家をリノベーションし、そこをイベントスペースに使っているんです*1。そこを妻の福井の拠点として泊まって良いよという話をいただきました。

この家は敦賀の駅から20分くらいの土地で、周りになにもないところなので、取り壊しに300万円かかるから、300万円で売りに出していたのですが、だれも買わない。それでも、固定資産税が毎年かかるから、最終的に北山さんが無料で引き受けたんです。北山さんはこの家を取り壊さず、1000万円ほどの資金を入れてリノベーションしました。この家の周りは渋い漁村で、古い家が2〜30軒並んでいる雰囲気のいい場所。けれど、夜になると、家の明かりが点いているのがわずかな数の家だけ。他はかなりの家が無人なんです。

実際、限界集落に住んでいる人は、大正や昭和一桁生まれの人が多くて、年齢が80歳くらいの人が多い。団塊の世代は大都市に越してしまっているから、あと10年くらいもすると、限界集落って、消滅してしまうところが多いんです。そのような状況の中で、今度は空き家再生の人達と知り合いになって、工房で釜があって空き家になっている家があるので住んでみませんか? という提案をいただいたので、5月からそこに住みはじめることにしました。家賃は月額1万8000円です。工房部分を福井の友人とシェアしてるので、実際支払ってるのは半額の9千円。この前まとめて、1年間分支払いました。

福井県のお住まいは窯付きの工房。奥さまの松尾たいこさんは、ここで陶画の作品制作に没頭している。
福井県のお住まいは窯付きの工房。奥さまの松尾たいこさんは、ここで陶画の作品制作に没頭している。

佐々木 住んでみるとさまざまな可能性が見えてきます。軽井沢も見てみると空き家だらけなんです。元々は外国人が別荘を建てはじめた由緒ある避暑地で、家もいっぱい建っているんですが、ほとんど無人。人が来てもお盆とゴールデンウィークくらい。これだとすごくもったいない、もっとみんな住めばいいのにと思います。

さわだ 貸すのもまた様々なハードルがあり、その手間を考えると空き家でもいい……というお話も聞きますね。

佐々木 そうですね、家の中に家財道具が山ほどあって、片付けなければいけないとか……。ただし地元住人の多くは、新しく人に住んで欲しいと感じていると思います。活性化されなきゃマズいという意識の人は多いようです。

駅前にアウトレットができて、観光客で盛り上がっているけれど、別荘自体はすごく衰退してしまっている。日本中を見ても、場所はいいのに、空き家が増えている土地は多い。そういったことは軽井沢に住んで初めて気づきましたね。

さわだ 僕らは”休日不動産”という全国の空き別荘や空き家を紹介するメディアを運営しています。ところがそこに出て来ない、不動産屋さんが扱いたがらない数百万円の空き家も世の中に山ほどあって……。そういう物件は相続するのにもコストがかかるし、取り壊すのにもコストがかかる。今はそれをもう一度どうにか日の目を浴びるようにできないかと考えています。例えば、ウェブ上で直接、オーナーと購入希望者をマッチングし、契約時のみ行政書士さんに入ってもらい売買成立、という仕組みができないかなと。

佐々木 タダでいいからもらって欲しいという話はよく聞くんです。放っておけば固定資産税がかかりますから。固定資産税を払えないから、持っている限り、マイナスになる。

さわだ 持っているだけでマイナスになるのに、物件を抱え込んでしまっている人が多い。そういった土地のオーナーと、購入希望者をつなげるシンプルな仕組みをつくりたいんです。

YADOKARIが運営に参加する、空き別荘や空き家を紹介するサイト。贅沢なつくりの別荘も、驚くほど手頃な値段で紹介されている。
YADOKARIが運営に参加する、空き別荘や空き家を紹介するサイト。贅沢なつくりの別荘も、驚くほど手頃な値段で紹介されている。

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── 都心では考えられないような住環境が実現する可能性があるのが地方暮らしの醍醐味。とはいえ、こういったスペースに住む幸運にめぐりあうには、信頼できる不動産業者や地方に住む友人など、人と人とのつながりが大切になってくるようです。

多拠点居住によって生まれる新たなコミュニケーションとは?

スズキ 3つの拠点の間をどのようなペースで行き来されるのですか?

佐々木 妻は製作のために、月の3分の1は福井にいくことになるでしょう。僕は1か月に3、4日しか福井には行けなさそうですね。僕は本を書く時は軽井沢で書くと決めているんです。だれも来ないし、集中できるんですよ。月のうち1週間は軽井沢にいます。東京は人と会うところですね。東京に行かないと人と会えなくなってしまいます。だから東京は中心で、他の土地で別の経験をする。

スズキ 多くの拠点を持つことによって経験値があがり、人生の幅が広がりそうですね。

佐々木 それはありますね、あとは人間関係が広くなる。軽井沢ではまだ横のつながりができていないのですが、福井では人間関係の構築ができていて。福井というコミィニティがあり、東京というコミュニティがあり、それは分離しているわけではなくて、あちこち重なりあっているわけです。

さわだ 僕は逗子に住んでいるんですが、仕事の中心がまだ東京にあるので、週に3回は出てきます。以前は打ち合わせもスカイプで済ませたり、やりとりもオンライン上のみでやっていたのですが、チーム内で温度感が上手く伝わらないことでアウトプットの質が下がったことがありました。やはり膝を突き合わせて、無駄なことも含めて、直接話をするというは重要なんだと思った経緯があります。

たとえば飛行機で2、3時間の場所へ引っ越すなら、東京に依存しない仕事であったり、ローカルで自ら仕事が作れないと……とは思いますね。働き方も時代に合ったものに変わっていくと、多拠点居住が実行できる人は増えるでしょうね。

佐々木 都心でしか得られないものは、確かにあります。例えば僕のいま住んでいる代々木上原って特殊なんです。ニューヨークのブルックリンみたいな感じっていえばいいんでしょうか。ヒゲモジャで短パン、みたいな不思議な人が多い。この感じは都心の、しかも代々木上原独特のものですね。

元々目黒に住んでいたんですが、TABI LABOのオフィスが代々木上原にあって、僕も今年の1月に引っ越してきたんです。目黒に住み始めたのが2008年で、そこで150平米のテラスハウスに住んでいました。3拠点を得た時に、この家は広すぎるよねという話になり、上原に越して来たんです。いままで1カ所に払っていた家賃を、いくつかに分散させる形です。

スッキリと片付いた佐々木さんの仕事場。
「その土地でしか得られない経験があり、拠点を増やすことで人生の幅が広がる」と佐々木さん。

さわだ そちらのほうが人生の充実度が上がりそうですね。僕もいきなり移住というよりも、まずはいろんな場所にトライアルで多拠点居住をして、その場所を知るというのがいいんじゃないかと。誰でも自分に最適な場所があると考えていて、たとえば僕は海が好きなので、東京から逗子駅に帰って来て電車から降りた瞬間に潮の香りが漂ってくると、それだけで一日の疲れが吹き飛ぶし、そんな自分が大好きな場所で、家族と暮らしたり、子どもを育てていきたいと思います。各々がもっと貪欲に自分に合った場所を見つける、選ぶということができれば充実度や幸福度は上がると思うんです。

ただ、その拠点づくりは、地域に友達や好きな場所などのご縁がないとなかなか住むという選択肢には至らない。そこで、移住希望者と地域との接点になるものやご縁を作り出せないかなと考えています。今は、スモールハウスと空き家の再生が面白いテーマなので、それを軸に、人生の拠点を全国に増やす提案をしていくつもりです。

佐々木 人間関係がないと移住してもきついですよね。

さわだ そうですね。ですから僕らが地域でコミュニティを作らせてもらう時に重要視しているのは、その地域のキーパーソンと一緒に活動をすることなんです。

この前YADOKARI でスモールハウスを軸にコミュニティをつくる土地を募集しました。全国から応募があったのですが、単純に土地を持っているだけの人と組んでも相乗効果がないでしょう。コミュニティ作りはその地域をどうにかしたいと考えている若者だとか、熱がある人とやっていくのが重要だと思っています。

佐々木 熊本で「エコビレッジ サイハテ」というヒッピーコミューンをやってるシンクという友人がいるのですが、彼は、閉鎖的なコミュニティを作るんじゃなくて、隣の人とどう繋がるのかが重要だと言うんです。たまにそのコミューンでフェスなどを行うと、大きな音が出るじゃないですか、その時近くの農家さんに挨拶に行くんだそうです、”来てくださいよ”とか言って。そういう横のつながりが重要ですよね。

また、パーマカルチャーデザインという、ヒッピーコミューンをデザインする仕事をしている30歳のチコという若者は、外部とどう仲良くするかという”接続性”が重要だと言っていました。パーマカルチャーデザインの中に、他のコミュニティといかに繋がるかという課題解決も含まれていると。

さわだ スモールハウス、DIY、田舎暮らしというキーワードでくくられると、森の中で社会性を断って仙人のように暮らす人を思い浮かべられることもあるのですが、それは僕らが目指しているものはではないし、そうなってはいけないと感じています。つながることを意識して暮らしていかないと、広がりがないと思いますし、一般的な選択肢にはなり得ないと思っているので。

佐々木 西表島に行くと、全裸で一人で暮らしているおじさんとかもいるみたいですよ。

さわだ えーっと。実は僕も気を抜くとそうなってしまいそうなところがあるので余計に自戒しています(笑)

── 住まいの拠点を増やすことによって、新たなコミュニケーションが生まれ、ネットワークが広がると指摘する佐々木さん。後編では、現代における理想的なコミュニティの在り方や、移住後の生業の作り方についてうかがっていきます。

*1 空き家利活用リノベーションモデルハウス「朱種shu-shu」。 

【お知らせ】佐々木俊尚さんとYADOKARIがトークイベントでお話します。

佐々木俊尚さんの有料会員制コミュニティ「LIFE MAKERS」のトークイベント「コンパスカレッジ」にYADOKARI代表のさわだ・ウエスギ両名が登壇します。

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<イベント概要>
テーマ:〜住まいから考える、これからの豊かさとは〜
登壇者:佐々木俊尚 × YADOKARIさわだ・ウエスギ
日時:6月27日(土)17時〜
※注:有料会員制コミュニティ「LIFE MAKERS」の会員限定イベントとなります。詳細は以下、オフィシャルサイトよりご確認下さい。

▼ LIFE MAKERS オフィシャルサイト
http://lifemakers.jp/
[/protected]