【インタビュー・後編】電気の完全自給自足生活を送るサトウチカさんと、そこから見えてきた新しい未来の形

外観

電力会社と一切繋がらず電気を自給自足する、完全オフグリッド生活を始めて1年半。この生活がもたらしてくれた一番のものは気持ちの変化だというサトウチカさん。後編では電力会社から自立することで得られた自信と誇りについて語っていただいた。

前編はこちら ⇒ 【インタビュー・前編】電力の完全自給自足。「オフグリッド」という未来の暮らし方:サトウチカさん

12782117_10206010291758572_1180056490_n
サトウチカ
慶應義塾大学法学部政治学科卒。大手通信会社からの転職を経て結婚を機に退職。自然治癒力を高めるハーブやアロマについて勉強し、現在は自然療法士として自宅でカウンセリングや教室、セミナーを行う。現在、光文社『女性自身』web版で「サトウさんちの〝オフグリッドで暮らす知恵〟」をブログ連載中。
・日本メディカルハーブ協会認定ハーバルセラピスト
・日本メディカルハーブ協会認定ホリスティックハーバルプラクティショナー

より豊かで満足できる気持ち良い生活

福島第一原子力発電所の事故以来、電気の作られ方に疑問を感じたサトウさん。しかしオフグリッド生活を始めたことで「同じ電気でも、作り方と使い方が変わるだけで、ここまで気持ちが変わるのか」と驚いていると語る。当初は発電したエネルギーの一部を電力会社に売ることも検討したが、自分たちの暮らしのコンセプトに合わないと却下した。

「私たちが電力を売った代金は皆さんが支払う再生エネルギー賦課金(太陽光発電で得られた余剰電力を電力会社が買い取り、その費用を電気利用者が負担する制度)であると知り、それは誰かの犠牲の上に生活があることにほかならないと、却下しました。この潔さがお金に代えられない喜びであり、満足して気持ち良く暮らすことに繋がるのだと思います」

さらにサトウさんはこう続ける。

「今思うと、以前はすごく狭い世界で生きていたように感じます。家事と仕事だけで1日が終わり視点が外へ向いていませんでした。しかし完全オフグリッドを始めてから地球目線で物事を捉えることができるようになりました。そうするとガスやゴミや排水など、ひとつひとつの事案がたくさんの問題をはらんでいることがよく見えてきました。それをどう解決すれば良いのか。自分たちに何ができるのか。そんな意識の転換が起きたことで、人生がより豊かになったと感じます」

家庭菜園で実った野菜を収穫するサトウさん
約11畳の家庭菜園で実った野菜を収穫するサトウさん

「すべてが完結する循環型の家」を目指す

昨年に引き続きガスについても自立を目指すサトウさんだが、最近はトイレの汚水やキッチンの排水も気になりだしたという。

「電気やガスがどう作られ、どう届いているのかが見えてくると、今度は家から出て行くものが気になります。電力のオフグリッド生活を通じて誇りを持って凛として生きることの気持ち良さを知ってしまったので、さらにいろいろな面で自立してこの家の中で完結させていきたい。様々な方の知恵を拝借して取り入れていくことで、外から入って来るものと出て行くものに責任を持てる家にして『サトウさんの家は美しい未来への実験室』だと言われるようになればいいですね」

サトウさんはすべて杉材で作られた「天然住宅」で家を建てた
杉材を使い「組み方・建て方が300年もつ」という「天然住宅」で家を建てた

良いものをどんどん生活に取り入れていく力

ブログでの発信やメディアの取材、セミナーや講演会等でオフグリッド生活について語ると、いつも驚くほどの反響があると語るサトウさん。そのくらい電力自給自足の生活は世間の関心を集めているが、現時点では完全オフグリッドをしている家庭は日本に100軒もないのが実情だ。

自宅でオフグリッドな暮らしについてセミナーも行っている
自宅でオフグリッドな暮らしについてセミナーも行っている

いったい、ライフラインを切ることに二の足を踏んでしまう人と、思い切りよく決断できたサトウさんでは何が違うのだろうか?

「満足できなかったらどうしよう、失敗したらどうしよう、損したらどうしよう、という不安がないから実践できるのだと思います。私は良いと思ったことを生活に取り入れることで得られる喜びや希望、ワクワクの方に目が向いて、やりたくてウズウズしてしまうほどです。不安に生きるのか、喜びに生きるのか。その違いなのだと思います」

加えて、サトウさんには見えない力に背中を押されている感覚もあったという。

「私たちのオフグリッド生活に賛同してくれる人、応援してくれる人、付いてきてくれる人が必ずいる! 絶対にムーブメントが起こせる! という根拠のない自信がありました。福島第一原子力発電所の事故で、これだけの問題があらわになったにもかかわらず見て見ぬ振りをして生きることに終止符を打ち、できることから一歩始めてみる。だからまずは電力会社との関係を絶つことが可能なのだと私たちが証明してみせる。その心意気は絶対に誰かが認めてくれる。お天道様が見ていてくれる。そう信じていたので、一歩踏み出すことへの不安は感じませんでした」

平和で豊かな自立した世界で生きていくという宣言

オフグリッドとは、電線をカットして電力会社と繋がらない、という本来の言葉の意味以外のものもあるとサトウさんはいう。

「電力のオフグリッドを始めたことで、電気・ガス・水道そしてお金という『ライフライン』に縛られた世界に生きていたのだと感じるようになりました。今回、そのグリッドのひとつを切ったことは、豊かで自立した『別の世界で生きていく』という意思表示。以前よりも自然と調和して、楽しみながら満足して暮らすことができ、『自分』を生きられるようになりました」

また、自らの価値観が根底から覆った福島第一原子力発電所の事故についてこう語る。

「なぜあの事故を経験する時代に生きているのかということをよく考えます。私は何かの役割や使命が一人一人にあるのではないかと思います。だから10年後、20年後、もしくは30年後に『あの事故があったから、今、世の中がこんなに良くなったんだよ。みんなの生き方、考え方が変わったんだよ』と言えるような社会にしていきたいと思います。電力のオフグリッドに限りませんが、信念を持って動き出せばきっと世の中は変わっていきます」

「自給エネルギーチーム(自エネ組)」とともにバッテリーを搬入するご主人
「自給エネルギーチーム(自エネ組)」とともにバッテリーを設置するご主人

インタビューの合間にもご主人への感謝の言葉を欠かさなかったサトウさん。ふたりで話し合って決めたことはインターネットや書籍を読んでとても良く勉強し、節電も一緒に楽しみながら積極的に取り組んでくれるという。そんなご主人がいるからこそ、サトウさんは凛とした姿勢を貫き、新しいことにもどんどんチャレンジしていける。『美しい未来の実験室』は、夫婦の足並みがキチンと揃っているからこそ実現可能なのだろう。

写真提供:サトウチカ
サトウチカさんブログ「Green note」