【インタビュー後編】モバイルハウスを自作!? ミニマリストの新たな挑戦 佐々木典士さんミニマリスト

移住すると、かつて住んでいた東京が“旅先”になり、街の新たな側面が見える。(青山のCOMMUNE 2ndにて撮影)

前回のインタビューでは、モノを最大限に持つマキシマリストだった佐々木典士さんが、ミニマリストになる過程で会得した「モノとの付き合い方」についてお伝えした。後編では京都に移住された佐々木さんの、進化したミニマルライフについてお話しをうかがう。

【インタビュー前編】モノとの付き合い方を変えると、新しい暮らしが見えてくる
【インタビュー後編】モバイルハウスを自作!? ミニマリストの新たな挑戦

【佐々木典士】
ささきふみお 編集者、中道ミニマリスト。1979年生まれ。香川県出身。学研『BOMB』編集部、INFASパブリケーションズ『STUDIO VOICE』編集部、ワニブックスを経て、2017年よりフリーランス。著書に『ぼくたちに、もうモノは必要ない –断捨離からミニマリストへ-』ワニブックスがある。すべてを保存し、何も捨てられない元マキシマリスト。Twitter @minimalandism

都会派ミニマリストを極めた次のステージで、目指すもの

京都では広大な敷地にひとりで住んでいるから、暮らしの実験もいろいろできるそう(撮影 佐々木典士)
都心住まいではないので、生活に必要なものは自分で賄う必要がある。今住んでいる部屋には備え付けの家具があり、それらも活用している(撮影 佐々木典士)

——今年、東京から関西へ移住されたのですね。 

佐々木典士さん(以下佐々木):京都の、奈良に近い地方に住んでいます。結構な田舎で敷地も広いので、野菜を育てたりできるんです。東京に住んでいたときとは、生活が一変しましたね。たとえば、今日表参道に来たら多くの人が白い服を着ていて「わ 都会だ!」と思いました。僕自身も東京に住んでいた頃は、白いシャツを何枚か揃えて制服のように着ていたのですが。

——便利ですよね。かしこまった場所にも行けますし、カジュアルにも着られますし。ミニマリストは白シャツのイメージがあります。

佐々木:都会ではそうですよね。でも今は畑仕事やDIYに興味があるので、すぐ汚れる白はほとんど着ません。移住してからは以前持っていた白シャツも手放しました。そうやって、暮らしは変わっていくんですね。

——前編では東京でミニマムな暮らしを実践することによって見えてきた「モノとの付き合い方」があるとうかがいました。今はそれも変わってきているということですね。

佐々木:前の段階からどんどん先に行っていると思います。次に僕が最小限にしたいものは、「誰かに何かをやってもらうこと」。それが次のミニマリズムだなんていうと、言葉遊びのようになってしまいますが。

——モノ以外の部分もミニマムにするということですね。

佐々木:今はご縁があってとっても大きな敷地に、僕ひとりで住んでいるんですが、月々3万円の賃料で借りています。今のところ僕ひとりしか住んでいませんから、畑をやったりDIYをしたりと、自由に実験できるんです。

キャンピングカーを自作して、住まいながら旅をする未来へ

——持たない暮らしから、一歩進んで何でも自分でできる暮らしを目指していらっしゃるようです。

佐々木:そうですね。そのためのツールを手に入れるようになってきているので、モノのミニマリズムからは、少しズレてきているのかもしれません。実は最近、電気自動車の軽トラックを買いました。その荷台に小屋を建てて、軽トラキャンパーをDIYする予定です。そうなるとお金もかかるし、モノも増えるんですけど。その出費は未来への投資だと考えています。

——キャンピングカーをDIYするなんて、ワクワクします!

佐々木:まだ完成には程遠いのですが、名前だけは決めていて「最小庵」というんです。空間の広さは、基本的に眠るだけ。ボディは金属で錆びていく経年変化が感じられるようにして、中には畳を敷こうと思っています。屋根はできるなら茅葺にしたいですが、走っていると茅が飛んでいってしまいそうで、危険かもしれないですね。本当に寝るだけの空間だけど、電気自動車だし、ランニングコストも安い。だから近い将来、車中で寝ながら旅ができるようにしたいと思っているんです。

 ——旅するミニマリストですね。一方で、車は大きな所有物だと思います。そのあたりはどう捉えられているのでしょうか。

 佐々木:自分が車を買うなんて「とんでもない」と思っていましたけど、いざ軽トラを買ってみらすごく楽しくて、夜な夜なドライブしています(笑)。でも所有にこだわるようになったかというと、違いますね。車はずっと持っていなければいけないモノではない。今は何でもリセールのお金が結構高いじゃないですか。買った金額と、ほとんど変わらない金額で売れてしまう。そういったモノは手放すことも容易です。だから車に関しては、所有というよりは借りるというような意識で、買うことができる。いつか売ることで”循環させる”という考え方です。「これは俺のモノ」という所有には、今もあまり興味がありません。

ミニマルライフに必要なのは、住まい方の変化に対応できる家

高品質な商品住宅を提案する「CASA」シリーズの新商品「CASA CAGO」は6畳のミニマルな平屋ユニット(撮影:東涌 宏和)

所有に興味がないという姿勢は一貫しながらも、軽トラックを手に入れるなど、未来への投資としてあえて“所有する”という新境地に至った佐々木さん。車と並び称されることの多い住宅には、どのような考えを持っているのだろうか。今回はカーサプロジェクトの新モデル「casa cago」を見ながら、お話しをうかがった。

——「casa cago」は6畳のユニットを、1カーゴ(cago)として、自由に組み合わせてカスタマイズできる家です。何カーゴか繋げて平屋タイプにすることもできますが、もちろん1カーゴだけで、タイニーハウスを建てることも可能です。佐々木さんはキャンピングカーのDIYにチャレンジされるなど、小さな家に興味を持っていますよね。こういった家はどう感じますか?

佐々木:ユニットひとつだけのタイプが、かわいいですね! 1カーゴのタイプが好きかもしれないです。これが6畳ということですか。ひとつだけだと値段はいくらぐらいするんですか。

「casa cago」1カーゴ分だとシンプルなスモールハウスに。もちろん水まわりも設置することができる

——ひとつだと、270万円ですね。いくつも繋げると施工の関係で割安になって、たとえば8カーゴつなげて90平米ぐらいの平屋にすると1510万円です。

佐々木:なるほど。将来的にカーゴを継ぎ足したいと思ったらできるんでしょうか?

——はい。たとえば最初はミニマルな組み合わせにして、将来子供ができたらカーゴを継ぎ足すということもできます。

佐々木:最小ユニットとか、交換可能なモジュールというのは、今の時代のキーワードですよね。最近よく仲間と話していることがあって、自分が寝起きする環境ってこのカーゴみたいな大きさでいいなと思うんです。それで真ん中に、みんなが入れるお風呂があって、巨大なキッチンがあって。その周りにはこのひとつのカーゴみたいな、ミニマルハウスがいっぱいある。お風呂や洗濯機やキッチンって、ずっとは使わないので、共有したほうが楽しく暮らせるような気がします。casa cago」はそんな使い方もいいかもしれないですね。

「外壁などのメンテナンスが手軽なのも高ポイント」と佐々木さん

——近しい仲間とコミュニティをつくりつつ、それぞれが独立したミニマルな空間に住まうのは、これからのライフスタイルとして注目ですね。

佐々木:僕個人はDIYに挑戦していますが、たとえミニマル志向の人でも、自分で建てる時間がない人もいるはずです。そういう人に「casa cago」はフィットすると思いますね。さらに、発売したばかりなのに欲張りなことを言うのですが、将来中古としてこの「casa cago」のユニットが出まわるようになったら、すごく面白いですよね。不要になったカーゴを手放す人がいて、これから必要になる人が購入する。「casa cago 3」はまだまだ高いけど「casa cago2」は最近手頃だな、とか。車やアップル製品なんかの世界では当たり前の、そんなわかりやすい循環が住宅でも実現できれば、家を買うことがぐっと身近になるのではないでしょうか。


京都に移住した佐々木典士さんは、持たざる暮らしを経て、自分の手で暮らしをつくることへと歩を進めていた。

「コンビニエンスストアが冷蔵庫代わりであり、Wi-Fi完備のカフェが書斎代わり」といった都市型ミニマリストから、「畑を耕し大工仕事をする」サバイバル型ミニマリストへ。その転換の背景には、有形無形に拘わらず依存する対象を減らし、生き物として自立するたくましさがあるようだ。

「casa cago」は6畳のミニマムユニットを、自由に組み合わせて構築する新しいスタイルのモジュールハウス。たとえば大自然のなかに1カーゴを建てて、サバイバル型ミニマルライフの軸とするもよし、地方移住の足がかりに利用するもよし、また数カーゴの組み合わせ方を工夫して、新しい家族の住まい方を模索するのも楽しい。

人間が今までの暮らし方の枠組みから飛び出すなら、家の形も変わらなければならない。ブロックを組み合わせるような自由さで住まいがつくれる「casa cago」なら、どんな暮らしにも寄り添うことができそうだ。

(提供:#casa