小屋×都市 #06 移動する小屋|都市を科学する〜小屋編〜 – オンデザインパートナーズ×YADOKARI

イラスト:千代田彩華

移動の可否や方法は、小屋の性格を大きく左右する。
「どんな」移動を「なぜ」したいのか。
不動産ではなく動産としての、小屋について、考えた。

 

まずは、小屋が移動する方法を、大まかに考えてみたい。

自走車両の内部を活用する、荷台部分を活用する、牽引する、輸送してもらう、解体して運ぶ、などがある。

自走車両をそのまま使う

たとえばキャンピングカーのように、移動能力がある車両の内部を小屋に改造すれば良い。

新しいライフスタイル作りを目指してバンライフに挑戦中の鈴木さん(photo:A. Tani)

走行中も小屋空間を利用できる、まさに「動く小屋」になる。

家族の時間は有限、みんなで旅する家「The Big Blue Bus」 Via:tinyhouseswoon.com

軽トラックの荷台を改造し、小屋を載せる方法もある。

軽トラックを改造してつくったコーヒースタンド

荷台の小屋部分は走行中には使えないけれど、安価に手に入れることができるし、小屋部分を着脱可能にすれば「普段は軽トラック、必要なときはモバイルハウス」という使い方が可能だ。

トレーラーを車で牽引する

牽引車両を使うトレーラーハウスも、ひとつの手だ。

タイニーハウスに車輪をつける理由より photo: Ben Matsunaga

牽引されるトレーラー部分には、いろいろな形がある。

USBメモリーのような回転するモバイルハウス「Romotow」 Via:romotow.com

走行中にトレーラー部分に乗車するのは現実的に難しいが、家と車の着脱は容易だ。

輸送しやすいコンテナを活用

もともと輸送用に作られた、コンテナを活用することもできる。

5分で完成!コンテナレストラン「popup-container」。壁もデッキとして有効活用する

コンテナに規格を合わせた家をつくるのも良い考えだ。

YADOKARIスモールハウス「INSPIRATION」。コンテナの規格に合っているので、トラックや船で輸送しやすい

車両をそのまま使うのに比べ、小回りは利かないが、トラックや船で移動させることができる。

解体して移動

解体と組み立てを容易にしておくのも、ひとつの考え方。

まさに「ヤドカリ」な家。移動可能なオフグリッドスモールハウス。取り付けを外せば、トラックでの移動が可能だ
Via:designboom.com

よく考えれば、遊牧民のゲルをはじめとするテントの系統に通じるところがあるかもしれない。

俗世を楽しむ、ラグジュアリーなテント生活「Oasis」。大きめの車で運べ、半日程度で組立可能という Via:http://www.mymodernmet.com

「移動する小屋」の形はいくつかあり、それぞれに長所と短所がある。

移動する小屋が「なぜ」ほしい?

「移動する」というのは、連載のテーマである「どんな小屋が、なぜほしい?」という問いの、「どんな」の部分への答えであることが多い。

では「なぜ」、移動する小屋がほしいのだろう?

人と交流したければ(連載#03で紹介)、いろいろな場に出かけられることが大きなアドバンテージになる。

本が好きな三田さんによる移動本屋「BOOK TRUCK」。様々なイベントに出店し、交流を楽しんでいる

旅をしながらの暮らしや、自由なキャンプを楽しみたい人もいるだろう。

軽量最新トレイラー「Airstream travel trailer Basecamp」 Via:dwell.com

ちょっとした隙間の土地を使うことにも向いているし、「車両」の条件を満たせば固定資産税がかからないという現実的なメリットもある。

鉄道の高架下の空間を動産・タイニーハウスで活用する複合施設「Tinys Yokohama Hinodecho」

将来は自動運転の普及により、運転席が不要になった自動車の空間そのものが小屋に進化し、移動時間を有効活用できるようになることだってあり得る。

IKEAが描く7つの「車上のスペース」。自動運転により、こんな車両も牽引されず自走することができるようになるはずだ
Via:foam.studio

土地に縛られない遊牧的な生き方

小屋が移動するということは、「住居」や「店舗」などといった機能が、人とともに移動することだ。

土地に根ざして農耕を営む人が大半だった時代から、仕事の内容が多様化し、通信とネットワークの発展で所在地の重みも小さくなりつつある現代。

加速する“遊牧的”な生き方への志向の高まりが、「移動する小屋」へのニーズに現れているのかもしれない。
(了)

【都市科学メモ】

小屋の魅力

移動力を備えることができる

生きる特性

車両との接続、小ささ、解体と組み立ての容易さ、規格

結果(得られるもの)

遊牧的な生き方(複数拠点での交流、旅する暮らし、自由なキャンプ)、遊休地の一時活用、建造物でないことによるメリット、有効活用できる移動時間

手段、方法、プロセスなど

最適な移動形態を選ぶ
自走車両の内部を活用する、荷台部分を活用する、牽引する、輸送してもらう、解体して運ぶ、などの移動形態がある。それぞれ移動しやすさや、実現可能な大きさなどが変わってくるので、メリットとデメリットを比較する必要がありそうだ。
必要な法規を確かめる
「車両」であることのメリットを享受したい場合は、「建造物」に該当しないための条件を確認する。「地面に固定していないこと(ジャッキアップ等により設置)」「電気、水道、ガス等の脱着が容易にできること」などがあり、日本RV輸入協会のサイトに詳しい。牽引については、750kg以下のトレーラーであれば牽引免許は必要ないが、安全には万全を期したい。走行中のトレーラー部分の乗車は、重量2,000kg以上で車検証に定員が記載された場合のみ可能となるので、現実的ではない。牽引するトレーラーの大きさによっては、「特殊車両通行許可」も必要となる。
このあたりは、【特集コラム】第4回:どうする?どうやる?日本でモバイルハウスを持つために(YADOKARI)にもまとめられている。
【Theory and Feeling(研究後記)】
「移動」自体はなかなか目的になりにくくて、どちらかと言えば「手段」の意味合いが強いからでしょうか。

今回は書いていて、頭の整理に近かったです。「移動の種類って、こう分けられるんだ」「関係する法規は何だろう」みたいな。

これを踏まえて次回以降であらためて、“遊牧的”な事例も含めて、「なぜ小屋なのか」に踏み込んでいきたいと思います。(たに)

 

「都市を科学する」の「小屋編」は、横浜市の建築設計事務所「オンデザイン」内で都市を科学する「アーバン・サイエンス・ラボ」と、「住」の視点から新たな豊かさを考え、実践し、発信するメディア「YADOKARI」の共同企画です。下記の4人で調査、研究、連載いたします。

谷 明洋(Akihiro Tani)
アーバン・サイエンス・ラボ主任研究員/科学コミュニケーター/星空と宇宙の案内人
1980年静岡市生まれ。天文少年→農学部→新聞記者→科学コミュニケーター(日本科学未来館)を経て、2018年からオンデザイン内の「アーバン・サイエンス・ラボ」主任研究員。「科学」して「伝える」活動を、「都市」をテーマに実践中。新たな「問い」や「視点」との出合いが楽しみ。個人活動で「星空と宇宙の案内人」などもやっています。

小泉 瑛一(Yoichi Koizumi)
建築家/ワークショップデザイナー/アーバン・サイエンス・ラボ研究員
1985年群馬県生まれ愛知県育ち、2010年横浜国立大学工学部卒業。2011年からオンデザイン。2011年ISHINOMAKI 2.0、2015年-2016年首都大学東京特任助教。参加型まちづくりやタクティカルアーバニズム、自転車交通を始めとしたモビリティといったキーワードを軸に、都市の未来を科学していきたいと考えています。

さわだいっせい / ウエスギセイタ
YADOKARI株式会社 共同代表取締役
住まいと暮らし・働き方の原点を問い直し、これからを考えるソーシャルデザインカンパニー「YADOKARI」。住まいや暮らしに関わる企画プロデュース、空き家・空き地の再活用、まちづくり支援、イベント・ワークショップなどを主に手がける。

また、世界中の小さな家やミニマルライフ事例を紹介する「YADOKARI(旧:未来住まい方会議)」、小さな暮らしを知る・体験する・実践するための「TINYHOUSE ORCHESTRA」を運営。250万円の移動式スモールハウス「INSPIRATION」や小屋型スモールハウス「THE SKELETON HUT」を発表。全国の遊休不動産・空き家のリユース情報を扱う「休日不動産」などを企画・運営。黒川紀章設計「中銀カプセルタワー」などの名建築の保全・再生や、可動産を活用した「TInys Yokohama Hinodecho」、「BETTARA STAND 日本橋(閉店)」などの施設を企画・運営。著書に「ニッポンの新しい小屋暮らし」「アイム・ミニマリスト」「未来住まい方会議」「月極本」などがある。