40万円で24時間で建つ。貧困住民を救う3Dプリント住宅

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発展途上国の貧困層の住宅支援のために、アメリカの2つのスタートアップが手を組みました。40万円の予算で24時間以内に建設できる、3Dプリント住宅を提供するプロジェクトです。コンクリートをケーキのクリームのように重ねていくプリンターはトラックで運ぶことができ、現場で稼働して家を出力していきます。

3Dプリントホームの最初のプロトタイプは、2018年3月にテキサス州オースティンで開かれたSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)で発表されました。概念実証として、33平方メートル(10坪)の広さの家を48時間ほどでプリントし、3Dプリント部分にかかった費用は1万ドルとのこと。屋根部分のみ手作業で取り付けられています。

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この3Dプリント住宅のプロジェクトは、サンフランシスコを拠点とするNPOのNew Storyと、オースティンの建設テクノロジー企業 ICONのパートナーシップによるもの。建設のために使用されたバルカンと呼ばれる大型3Dプリンターは、ICONが8カ月かけて開発しました。実際の製作時には、雨によってポンプが頻繁に詰まってしまうなどのトラブルもあり、想定以上の時間がかかってしまったとのこと。ICONはこのプロトタイプ住宅をオフィスとして使用して、居住性や断熱性、耐震性についてテストを続ける予定です。

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ルーフをわずかに斜めにして、天井との隙間に明り取りを設けています。設置環境によっては、網を貼ってオープンにして外気を取り入れることもできそうです。

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2014年設立のNew Storyは、NPOとしては空前の投資を集めた注目のチャリティ・スタートアップ。ハイチ、エルサルバドル、ボリビアなどの貧困地域で、2,000棟以上の住宅を建設し、6,000人以上の人たちに住居を提供してきた実績を持ちます。

2013年にハイチを訪れたブレット・ハグラーが、ブルーシートやトタン小屋に暮らす子供たちの姿にショックを受けたのがNew Story設立のきっかけ。東日本大震災の前年の2010年1月12日に起きたハイチ地震では、死者は31万人を超え、家屋10万戸が倒壊、その後の復興も遅々として進んでいなかった状況があったのです。

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New Storyは、地元の人から学び、コミュニティを理解することからスタートする住民参加型デザインを大切にしています。清潔な水へのアクセス、電力、基本的な衛生サービスを備えたコミュニティを創り出し、地域住民が「新しいストーリー」を描いていけるように、持続可能なサポートを続けています。

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現在New Storyが提供するコンクリートの壁とシンプルなデザインの住宅1軒には、6,500ドル(約70万円)の費用がかかっています。住宅100戸を建てるのには8カ月が必要で、ブロック構造の建築は耐震性が低いことも問題でした。膨大な数の仮設住居者に、どうすれば迅速に適正で安全な住宅を提供できるのか?これが、New Storyがテクノロジーによる住宅建設のブレークスルーを選んだ理由です。

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ICONが開発した3Dプリンターでは、56〜74平方メートルの住宅を、12〜24時間で4,000ドル(約43万円)以下で建設できる見込みです。使用されるセメント混合材料は、セメント・砂・水などのベーシックな材料を独自に配合したもので、世界中どこでも簡単に手に入れることができるのがポイントです。

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1戸の平屋建て3Dプリント住宅には、2つのベッドルーム、キッチン、バスルーム、ポーチが備わっています。CADソフトウェアで制御されているので、家族の規模や用途に応じたデザインや間取りのカスタマイズも可能。ICONでは10億円近い資金の調達に成功し、初期型プリンターを改良したバルカン2の開発に取り組んでいます。2019年には、この新型3Dプリンターをエルサルバドルに持ち込み、実際の住宅建設に取りかかる計画です。

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これまでの3Dプリンターを使った建築は、プレファブ式で部分的にプリントして、現場に運んで組み立てる方式がほとんどでした。一方、バルカンのように運搬できる大型3Dプリンターによる現地建設も、中国、中東、ロシアなどですでに実施されています。ドバイの2030年の目標プロジェクトでは、全交通機関の1/4に自動運転車を導入する計画とともに、建築物の1/4を3Dプリント技術を使って建てるプランが発表されています。

3Dプリント建築は、資材の廃棄物を高い割合まで削減可能で、工期を大幅に短縮できることから、エコロジカルなアプローチでもあります。エネルギー効率が良く、耐候性も高いので、厳しい環境の場所でも人々は快適に過ごすことができます。

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New Storyでは、将来的にはすべての住宅を3Dプリント住宅で提供していく予定とのこと。2つのスタートアップは、発展途上国だけではなく、全米で3Dプリント住宅を提供することも視野に入れています。ホームレスはアメリカでも深刻な問題ですからね。

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世界ではおよそ12億人の人々が、スラムなどの劣悪な住環境に暮らしていて、その数は今後さらに膨れ上がることとが予測されています。

「理想的には、世界中のNPOや政府がこの3Dプリントテクノロジーを利用できるようにして、多くの貧困地域のコミュニティに暮らしの“新しい物語”をもたらすことを夢見ています」とNew Storyは語ります。

少人数のミレニアル世代によるNew Storyは、Yコンビネータを始めとして、数多くのファンドから資金を調達しています。スタートアップの活動資金は、ウィキペディアと同様の募金によるもので、寄付金の100%を現地提供することを約束しています。多くの人々が、世界をより良く変えようとするNew Storyをサポートしていることは、驚きでもあり、勇気づけられるものです。

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