【インタビュー】中銀カプセルタワービルの内装デザイナー阿部暢夫さんに聞く、カプセル制作秘話と黒川紀章氏とのエピソード

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建築家の阿部暢夫(あべ のぶお)さんは、未来住まい方会議が3月に取材した中銀カプセルタワービルの企画・設計監理や、機能的で未来的な内装デザインを担当した建築家です。

43年前に、黒川紀章氏の元で日本の未来を予期したかのような歴史的な建築を手がけた阿部さん。
今回は阿部さんにインタビューを行い、カプセルタワービル建設当時のお話や、黒川紀章氏とのエピソード、ミニマルハウスの先人から見たこれからの日本の住まい方についてお伺いました。
(取材・構成=山崎ななえ)

Via: fotoq.net
Via: Nakagin Capsule Tower by Dick Thomas Johnson

ヨット好きの建築家 阿部暢夫さん

阿部さんは、1972年から25年間にわたって黒川紀章建築事務所に在籍し、カプセルタワービルの内装デザインをはじめ、国内外問わず幅広い建築を手がけられました。現在は、緑が多く落ち着いた雰囲気の渋谷区桜ヶ丘に、建築事務所「阿部設計室」を構えていらっしゃいます。また、私生活では一年を通してご趣味であるヨットを満喫されています。

ヨットもカプセルも ”着物” に近い

── 阿部さんはヨットがご趣味なんですね。

阿部暢夫さん(以下、敬称阿部) 「はい、ヨットは若い時からの趣味で、『阿仁丸』という30フィート(約9m)のセーリングクルーザーを持っています。ヨットがしたくて仕事をしているようなものです(笑)。」

Via: 阿部設計室
自らを阿仁丸船長と名乗られている阿部さん。ヨット内はまるでカプセルのような狭さ。
 Via: 阿部設計室
Via: 阿部設計室
風を受けて自由に航海する阿仁丸 Via: 阿部設計室

── すごいですね!限られた空間のカプセルの機能的なつくりは、実はヨットの内装から連想されたとか。

阿部 「そうなんですよ。ヨットに居る時は基本的には一人なので、狭いという感覚はありません。どちらかというと、乗り物よりも ”着物” に近いんです。まるでサイボーグのように、ボートは ”身体の延長線上” であって、自分自身に風を得て海の上を自由に動き回る感覚です。ヨットはミニマルな機能を持った、燃料なしで世界一周できる乗り物です。
ですので、ヨットの内装は広い狭いではなく、『そこにどういう機能を持たせるか』という考え方になります。その考え方は、カプセルタワーの内装にも活かされ流用されています。」

Via: 中銀カプセルタワービル
壁には、棚・テレビ・シンク・冷蔵庫も収納されている Via: 中銀カプセルタワービル
Via: 中銀カプセルタワービル
小ささを感じさせない、スッキリとした内装 Via: 中銀カプセルタワービル

「人は一生旅をしながら暮らす」

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濁点と半濁点が抜けた文字には長い年月を感じる 
Via: Nakagin Capsule Tower. by MIKI Yoshihito

── カプセルのデザイン依頼は、どういった経緯で受けられたのですか?

阿部 「実は中銀カプセルタワーは1970年に開催された大阪万博が関係しています。黒川が大阪万博の空中テーマ館でカプセル住宅を発表したのですが、後に中銀カプセルタワーのオーナーとなる方がそれを知り、カプセルタワービルの企画・設計監理及び内装デザインを依頼してくれました。そこで、都会で一人で住むことを前提とした、働き盛りの人のセカンドハウスをつくることになりました。
カプセルタワービルは『ホモモーベンス(動く人)』のための住まいで、『ノマド』もその一部です。これは “人は定住することはなく、一生旅をしながら暮らす” という考え方です。カプセルは生活の拠点として、好きな所に持って行けるように考えられました。まあ、実際はカプセルの移動は実現できていないんですが。」

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Via: Nakagin Capsule Tower by Dick Thomas Johnson

── たしかに、ライフステージや目的に合わせて、人は常に移動すると考えた方が自然なんだと思います。

阿部 「 はい、この “人は一生旅をしながら暮らす” という考え方なんですが、実際、家にいる時間と出張などで家以外にいる時間を調べたことがあるんです。そうすると、私の場合、当時は海外や国内出張がやたらと多く、休みは原則ヨットに泊まり、家にいる時間はあまりないことが分かりました。数えてみたら、一年のうち20泊もヨットの中に泊まっているんです。
カプセルはコンセプトとして定住でない使い方を想定していましたので、寝るところがあれば十分なのです。構造としては電車に近く、カプセルは生活の場所というよりは『点』や『拠点』ということになりますね。」

── カプセルはワンルームマンションのはしりとなった、偉大な建築だと思います。

阿部 「当時はあんなに小さい部屋はなく、とても珍しいものでした。あのカプセルの大きさは、実は船のキャビンのスケールに近いんですよ。カプセルの壁には、シャープや日立化成の特注薄型冷蔵庫や超小型バスユニット、テレビ、ステレオ、テープレコーダー、小型シンク、電卓、チャートテーブル風デスクなど、当時最先端で私が欲しかったものを並べさせてもらいました。」

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まるで宇宙船のようにも見える、わくわくするような設備が整っている 
Via: Nakagin Capsule Tower by Dick Thomas Johnson
カプセルのデザインと建築裏話

── 前回の取材では、ベッドの端にイスが一体化されていることにとても感動しました。

阿部 「そうですか。あれは実は、後から黒川に怒られましてね。ベッドメイクしづらいじゃないかと(笑)でも、作った後だったので変更は出来ませんでしたが……。
実は、カプセル建築の下請けの会社は、船や飛行機の内装も行っているところなんですよ。鉄工所で造るとあんな華奢なものにはならないですよ。」

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前回の取材でカプセル住人の関根さんが見せてくれた、ベッドの端に一体化されたイス
Via: 中銀カプセルタワービル

── カプセルのデザインはどのように決められたのですか?

阿部 「まず、水に浸ってしまう所は経年劣化も激しくなりますから、水が入らないようなつくりにします。あとは輸送条件にもよります。コンテナとして車で運ぶなら、そこに積めるサイズにしなければ運べなくなってしまいますし。」

── なるほど。様々な条件にも左右されるんですね。

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Via: Capsules part II by Janko Luin

阿部 「カプセルを運んだ時にこんなエピソードがありました。完成したカプセルを運ぶ時に、税務署から『完成品として出荷すれば”家具”だから、物品税を払ってくれ』と言われました。なので、内装の部品は全て取り付けずに未完成の状態でカプセルを運び、運び終わってから残りを組み立てることで、物品税をかけずに運ぶことができました。なんともおかしな話なんですけどね(笑)。とにかくカプセルのデザインは、面白おかしく楽しみながらできました。」

天才・黒川紀章氏とのエピソード

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黒川紀章氏と談笑する阿部さん Via: 阿部設計室

── 阿部さんからみて、黒川紀章氏はどんな方でしたか?想い出や印象に残っていることはありますか?

阿部 「黒川はまさに天才でしたね。我々普通の人と、能力が全く違います。建築に対する執着心がすごく強くて、寝ても覚めても建築のことを考えている、 ”建築の鬼” のような人でした。そして、人がしないようなことをする、建築界の異端児のような存在でもありました。歯に衣着せずにズバズバ物を言うし、口が上手いから相手をまるめこむのも得意でしたね。」

── そうだったんですね。イメージ通りの天才肌の方だったのですね。

阿部 「そうやって色んなことは自分でどんどん決めるのに、社員募集をして人を選ぶ時には何故か迷うんですよ。社員は決められない。けれど、黒川に常時関わる女性秘書だけは黒川が決めました(笑)。
あとは、敷地を実際に見ていなくても、実際に見たように分かってしまったり、洞察力がすごかったですね。黒川が知らない資料でプレゼンをしなければならなかった時に、約100枚もあるスライドを、たった1時間しか予習にかけずに、見事に自分の調べたもののようにプレゼンしてしまったり。そしてそれが的を射ているんですよ。」

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黒川紀章建築都市設計事務所の創世記メンバー。
真ん中下に写っているのが30歳頃の黒川紀章氏で、右隅に写っているのが阿部さん。 Via: 阿部設計室
高額かタダ!黒川氏の特別な講演方法

阿部 「性格がとにかくはっきりしている人で、黒川の講演料は200万円かタダ、という極端なものでした(笑)。中途半端な依頼は一切受けず、200万円出しても黒川に講演を頼みたいと思う所か、ボランティアでもやる価値があると黒川が認めたところでのみ行なっていました。さらに、黒川の講演は解りやすくて有名で、どんな内容でも時間通りにピタッと終わるんです。」

先日取材を受け出版された本「メディアモンスター」には、阿部さんと黒川氏とのエピソードもあるそうだ

阿部さんが仕事で大切にしている信条

── ここからは、阿部さんのことについて伺います。創作の際に大切にしていることは何ですか?

阿部 「とにかくマンネリは避けたいと思っています。オリジナルなものを作りたいと。黒川も意識的に、まだ世の中にないものを作ろうとしていました。」

Via: 阿部設計室
Via: 阿部設計室

── 阿部さんは建物の設計をする時、気を付けていることはありますか?

阿部 「建築は土地と一体のものですから、土地との関わりを大切に考えています。建築は動かないですから、土地の持つ制約や敷地の形状など、そういうものに調和した建築をつくるようにしています。ですが、調和と言っても、自己主張はあってもいいと思います。」

イメージを形にするには、まず「言葉」で考える

── デザインはどのように決めているのでしょうか?

阿部「そうですね。私は、日本人は、言葉で考えなくてはだめだと思っているんですよ。日本語の文法、漢字、発音の仕方など……。日本人の場合、完成度の高く美しい日本語を使って考えていくと言葉にすると考えが発展するんではないかと思っているんです。
なので、まずは抽象概念やイメージといった漠然としたものを、建物の本質を言葉で言いなおして、それからビジュアルに変えていくんです。この抽象概念を具象概念へ変換していく能力が、建築家に要求されることだと思います。」

── なるほど。具体的にはどんな例がありますか?

阿部 「進行中のチベットで温泉を作るプロジェクトでのことです。その時は、まずはチベットにおける温泉の位置付けを確認しました。むこうでは年に一回身を清める習慣があり、チベットの人にとって温泉は大切なものです。そういった習慣や概念、位置付け、イメージ、それに加えて、非日常性を空間に活かすんです。そのプロジェクトでは、チベット文化と日本文化の良い所を合わせた温泉を建築しました。」

Via: 阿部設計室
企画書には写真も織り交ぜてまとめられている Via: 阿部設計室

── つまり、段階を踏んで形にしていくんですね。

阿部 「そうです。建物をつくる時には、まずはクライアントがどんな建築にしたいのか話を聞きます。でもその時に、建築家はクライアントが言った言葉やイメージそのものではなく、言っていることを翻訳して頭に入れなければいけないんです。クライアントは建築家や設計士ではないですから。
つまり、クライアントが望むコンセプトや重要視することから、本当の要求を見透かしてあげなければいけないんです。『こんなふうにしたい』という想いをコンセプトや言葉に置き換え、ビジュアルにしていく。この経過がとても面白いんですよ。」

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── とても興味深いお話ですね。阿部さんはパッとひらめいてデザインされているのかと思いましたが、そうではないんですね。

阿部 「天才の黒川とは違い、凡庸な私はいきなりデザインはできないですよ。具体化する中でも、クライアントとのズレがあると困るので、打ち合わせをして何度も確認します。私は、黒川紀章建築事務所に在籍していた時に海外の担当で、海外の案件も多かったんですが、その時にクライアントと行き違い寸前の状況になったことがありました。
中国に「図書館を作る」という計画でデザインをしていたんですが、中国語の翻訳の違いで、実は作るのは図書館ではなく ”大型本屋” で(笑)。どうやらそれぞれ中国語では同じ単語だったそうですが、本を置く場所というのは同じでも、図書館と本屋では設計が全く違いますから焦りましたよ。おかげでこのコンペは2等でしたよ。」

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阿部さんがお子さんのために作ったミニマル勉強部屋 Via: 阿部設計室
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赤いフタを閉じるとぴったり長方形になるデザインが秀逸 Via: 阿部設計室

ミニマリズムの先人が見る、これからの日本の豊かさ

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── 阿部さんから見て、もし日本で小さい住まい方が広まったとしたら、どのように豊かになると思いますか?

阿部 「どう豊かに暮らすかは、心がけ次第だと思います。今は断捨離が流行っていますが、物があるかないかはどちらでもいいと思うんです。うちの事務所も集めたものでいっぱいですしね。それよりも私は、『情報』を減らした方がいいと思うんです。
電車でもほとんどの人がスマートフォンを見ていますが、情報に頼って生きても、得ているものはゼロだと思うんです。情報を得るだけで満足してしまうというか。情報は ”知識” ではないので、情報をいかに選択するかが大切だと思います。」

── なるほど。知っているけれど経験していないことはたくさんありますね。

阿部 「今はグローバル化が進んでいますが、 “国境がなくなる” ということは、 “文化がなくなり” 、 “その国独自の人格がなくなる” ということ。物よりも、情報過多が人格や人間の脳みそのキャパシティを減らしていくんではないかなと危惧しています。
世の中にはいろんなコンテンツが溢れていますが、見て面白いものでも、何かの足しになるわけではない。それよりは、私は雨降る街を歩きたいなと思いますね。」
(インタビューここまで)

笑いあり、面白いエピソードも交えて気さくにインタビューに答えてくださった阿部暢夫さん。そのお話からは、昔も今も共通する、時代や本質を読む力が感じられました。
急激に変化し、情報やものにあふれる現代。ふと立ち止まり、何が本当に大切なのか、一人ひとりが考えることが今必要なのかもしれません。

(文=山崎ななえ)

取材協力:阿部設計室
中銀カプセルタワー応援団

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