【インタビュー・後編】田舎での働き方と生業づくり、LODEC Japan合同会社たつみかずきさんに聞く、地方でリアルに暮らすこと

LODEC事務所
JR大糸線信濃大町駅前に構えるオフィス。もともと土木会社の事務所だったものを、DIYで改装した。

古民家ゲストハウス梢乃雪(こずえのゆき)ゲストハウスカナメシェア&コミュニティハウスmetoneの3つの施設を運営しているLODEC Japan合同会社。インタビュー前編では、長野県大町市に拠点を置くLODEC Japan合同会社代表たつみかずき氏に、地域においてゲストハウス・シェアハウスが果たす役割を中心にお話をお聞きした。

田舎への移住を考える人にとって、移住先での仕事をどうするかということは、切っても切り離せないテーマだ。その地域でどのように稼いで暮らしていくのか?移住を希望する人たちと多くの交流を持ってきたたつみ氏は、田舎での仕事について、どのように考えているのだろうか?
後編では、田舎での働き方、そして同社が取り組む「ひとりひとりの生業づくり」を中心にお話をお聞きする。

前編はこちら ⇒ 【インタビュー・前編】田舎に”来る・住む・働く”をつくるゲストハウス。LODEC JAPAN合同会社たつみかずきさんに聞く、地方でリアルに暮らすこと

たつみかずきさん

たつみかずきさん プロフィール

1986年大阪生まれ。小学校4年生から卒業まで、山村留学制度を通じ長野県北安曇郡小谷村で過ごす。中学校から関西へ戻るものの、2009年、23歳の時に小谷村へ移住。2011年小谷村の自宅にて築150年の古民家を宿とした「古民家ゲストハウス梢乃雪」、そして2014年より長野県大町市中綱集落にて2号館「ゲストハウスカナメ」を開業。
2015年、大町市信濃大町駅前にてLODEC Japan合同会社を立ち上げ、代表を務める。

田舎でライフスタイルを追求するには?

lodec inside
事務所手前の打ち合わせスペースと、奥の作業スペースとのあいだには、ターンテーブルが。

「たとえばLODECが拠点を置く長野県大町市を例にとると、ライフスタイルを変えない移住なら、すぐにでも可能なんです。ここは二次産業の職種が多いから、そういったところに雇用してもらい、朝は定時に出社して日が暮れたら帰宅、お休みは週2日。それで安定した収入を得ることはできます。でも移住したい人って、そうじゃない。都市部にいた時とほとんど変わらない働き方では意味がなく、ライフスタイル自体を変えたいと思っている方がほとんどです。」

雇用される立場だと、そのライフスタイルは、住む場所より雇用主に左右される。例えば都会でも定時きっかりに退社できる会社もあるし、逆に地方でも残業ばかりの会社だってある。

「田舎が良いというわけじゃないけど、田舎の良さっていうのはありますよね。それは美しい景観や、そこで流れる時間、あるいは人々のあたたかさであったり。ただそれを享受するためには、それに寄り添う暮らしでなければ、なかなか難しいと思うのです。」

雇われながらライフスタイルを追求できる仕事に就ければ、それは幸せだ。そもそも移住を考える人たちが理想とするライフスタイルも、千差万別である。ただ地方では都市部と違い、簡単に転職サイトで求人を見つけられるとは言いがたく、転職先を口コミで紹介してもらうケースも珍しくない。

「移住と、それにともなう仕事探しは、多くの不確定要素がつみあがっています。希望の仕事に就ければラッキーだけど、それができるという保証はどこにもない。そういう意味では、移住とは全くマニュアル化できないことなのです。」

移住と仕事との関係は、個々の価値観に依存する問題だ。理想とするライフスタイルを実現するためには、まずはひとりひとりがどのような仕事が自分にとってベストなのか?を考える必要がある。移住とは、時間をかけて自分と向き合い、理想とするライフスタイルを考えるきっかけにもなる。

生業を創ることができる人は、田舎暮らしを楽しめる

田舎では、都心よりも、「働き方」と「生き方」が近いと言えるかもしれない。都心では、住む場所と働く場所が離れていたり、仕事以外の娯楽が多かったりと、仕事とプライベートを切り離しやすい。一方田舎では、住む場所と働く場所は比較的近いことも多い。暮らしと仕事が寄り添っているため、どういう仕事に就くかは、どういう生き方をするかに結びつきやすいのだ。

metone集合写真
シェア&コミュニティハウスmetoneのオープンにむけて、DIYのために集まってくれた仲間たち。

「自分で仕事を創っていける人は、移住して田舎暮らしを楽しめる人だと思います。逆に言うと、自分の生業をつくれる人や特定分野のスキルがある人、もしくはとにかく熱意がある人でないと、なかなか田舎暮らしを楽しみ続けることは難しいかもしれません。実際、地域を探したら仕事はたくさんあるんです。もちろん、それが楽しいかどうかは別の話にはなりますが。だから、食いつなぐことができずに死んでしまうことはない。でも、田舎を満喫しながらライフスタイルを追求して、そしてちゃんと満足のいく仕事もして……となると、やはりハードルは高いと言わざるを得ないと思うのです。」

確かに、地方では都会にはない様々な仕事があるのは事実だ。季節ごとの農作業や加工業を筆頭に、観光業の繁忙期の手伝いだったり、寒い地域の除雪作業であったり。そして近年のインターネット網の発達で、場所を問わない仕事も増えている。

鎌池
古民家ゲストハウス梢乃雪からほど近い「鎌池」。知る人ぞ知る、絶景の紅葉スポットだ。

たつみ氏は、「自ら能動的に仕事を創っていくことができれば、同時に理想とするライフスタイルを追求しやすいのではないか。」と考えている。それは「ひとつの仕事に全てを求めるのではなく、自分の好きなことや得意なこと、そして人の役に立つことを組み合わせ、生業をつくっていく」という考え方だ。

ここからは、LODEC Japanが取り組む「ひとりひとりの生業づくり」について、さらに詳しくお聞きする。[protected]

生業を持つ人たちの、傘となる

LODEC Japanでは、「従業員を雇用する」ということを、行っていない。ひとりひとりが自らの力で食べていくべきとの理念のもと、「それぞれの生業を成り立たせること」を事業としている。たつみ氏が、LODEC Japanという法人組織を立ち上げ、そのような取り組みを始めた理由は何だったのだろうか。

カナメストーブ
ゲストハウスカナメの薪ストーブでは、今日も美味しい料理がぐつぐつと煮込まれている。

「法人組織を立ち上げることで、皆が会社の看板を使うことができます。生業をつくるために何か新しい取引をする際、個人より会社であるほうがスムーズなのは間違いありません。さらに、様々なモノ・コトをシェアすることができます。それは、オフィス・PC・プリンターといった機器もそうですし、広告や営業の機能もシェアすることができます。例えばデザイナーが移住してきたとして、まずデザインするものがなければ、仕事がない。そこでLODECとして営業を行い受注したものがあれば、デザイナーがその仕事を引き受けることができる。そして発生した売上のうち、あらかじめ取り決めた分がLODECに帰属するような仕組みをつくっています。こうすることで、win-winの関係を築くことができます。」

雪国での暮らしは大変であるが、ご褒美のような景色がそこにある。
雪国での暮らしは大変であるが、ご褒美のような景色がそこにある。

LODEC Japanでは、とことん個々の存在にフォーカスしている。それぞれにどんなスキルがあって、果たしてここで何を成し遂げられるのか。「何でもいいから、とりあえず移住したい」という人は、LODEC Japanの傘に入ることは難しいだろう。一方で、自分で何かを生み出せる人にとっては、まさに「生業を成り立たせる」ために、LODEC Japanは大変心強い存在となる。

「移住者がひとり来ることによって、弊社のコンテンツも横に広がりを見せます。スキルを持った人が加われば、東京に流出していく仕事もせき止めることができる。このエリアでの様々なことが、”とりあえずLODECに頼めば何かやってくれる”という風になれば、ここで暮らす人たちで地域経済を循環させていける。色々なものをシェアしながら、共にこの地域の発展のために能動的に働き、そして何より楽しみながら暮らしていく。LODECは、そのような未来構想を描いています。」

事務所は、人通りが多い道路に面しているので、ふらりと立ち寄れる。

溢れ出てくるアイデアを、実現していく

2011年にオープンした古民家ゲストハウス梢乃雪は、2016年より、ゲストハウスの名物スタッフ「ぐっさん」へ業務委託する形に切り替えた。ぐっさんが、雇用される立場から、宿主として自らの生業をつくっていくべきとの思いからである。

「いわゆるフランチャイズのようなイメージです。業務委託に切り替えることで、ぐっさんが宿主として、経営に関する決定権を持つことができる。LODECでは、このように、宿の業務委託という形態を今後も考えていきます。LODECの看板を掲げることのメリットのひとつに、免許もシェアできることがある。旅館業法を新たにとるのは手間がかかりますが、弊社はすでに保有していますから。ある意味アイデアと場所があれば、宿はすぐに始めることができるんです。」

カナメ冬外観
2015年の年明け、うず高く積もったゲストハウスカナメの雪。

LODEC Japanが思い描く未来へむけて、様々なアイデアが溢れてくる。例えば、オフィスを構える信濃大町駅前の商店街についてもそのひとつだ。

「先日、商店街に関わっている方がいらして、”商店街のシャッターが降り過ぎてるからあげたい”という話が来たんです。地元のなかで、シャッターをあげたいという意見は実は稀で。だからすごく驚いた。シャッターって結局はひとの家の話ですから、なかなかそこに首をつっこむまでいかないのです。本来、商店街は人の歩くべき場所だから、皆シャッターはあいていたほうがいいとは思うけど、自分が行動を起こしてまで関与したいという人はごく少数。そういった中での嬉しいご依頼について、LODECとしてどのような取組みをしていくか、色々と検討しています。」

「空き家・空き店舗の活用にも積極的に取り組んでいきます。家は、空き家になる前に手を挙げてもらえれば、何かと活用しやすい。例えば店舗の後継者を探すことも可能だし、あるいは家主が亡くなったら賃貸に出したいという意思表示をしてくれるだけで、随分と活用されやすくなる。これが東京にいる子どもたちに相続されてしまうと、そのまま、放置されちゃうことが多いんです。」

夏はもちろん、クーラーなんて必要はない。
夏はもちろん、クーラーなんて必要ない。

LODEC Japanが取り組む「移住を希望する人たちへの支援」は、空き家・空き店舗の活用とも非常に親和性が高いテーマである。

「この辺りには、住むための空き家はゴロゴロありますから、移住者が住める物件自体はたくさんあります。とはいえ、不動産の紹介と移住相談って、近いようで割と遠いのが事実。僕たちで、その辺りをいっぺんに担えたらいいな、との構想もあります。」

地元の方たちと、移住者たちとの交流が、地域に新しい風を巻き起こす。たつみ氏のお話を聞いてると、そのような気がしてならない。あくまで自然体に、何より楽しいと思える活動を継続していくことで、気がつけば地域の皆がこれまで以上に生き生きとしている。今日もLODEC Japanの事務所では、ゆるやかに、けれども熱い話し合いがなされているのだろう。今後の彼らの活動に、ますます目が離せない。[/protected]

(写真提供:LODEC Japan合同会社)