【インタビュー・後編】「賃貸なのにセルフリノベOK」を可能にした、MADな仕組み・ 株式会社まちづクリエイティブ|Re:Tokyo

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オルタナティブな立場から、東京を刺激するキーパーソンにインタビューする、「Re:Tokyo」。第1回は、株式会社まちづクリエイティブの寺井元一さんと小田雄太さんに話を聞く。

千葉県の松戸の駅前の一角に、5年前に突如出現したMAD Cityとよばれるエリアがある。株式会社まちづクリエイティブのプロジェクトから生まれたMADな街は、印象の薄かった松戸を変えつつある。

クリエイターをのべ200人も招致し、老朽化したマンションや、駅前の元カップルホテルを若いクリエイターの集う場に変えたのだ。

前編では、寺井さんと小田さんに、東京の活動を経て、松戸に新たな街を創造したモチベーションについて聞いた。後編では彼らのビジネスを支えているサブリース(転貸)という手法や、MAD Cityをつくったからこそ見えてきたことを語ってもらう。

前編 ⇒「不動産業を核に、クリエイティブな自治区をつくる・ 株式会社まちづクリエイティブ」はこちら

右から株式会社まちづクリエイティブ代表取締役の寺井元一さん、クリエイティブ・ディレクターの小田雄太さん。
左から株式会社まちづクリエイティブ代表取締役の寺井元一さん、クリエイティブ・ディレクターの小田雄太さん。

継続的なコミュニケーションを生む、サブリースという装置

── MAD Cityには多くのアーティストが引き寄せられ、移住していますね。その魅力の大きな柱となっているのが、原状回復不要で大規模なセルフリノベーションができる賃貸物件です。なぜそんなことができるのでしょうか。

寺井元一さん(以下寺井)

まちづクリエイティブでは、サブリース(転貸)という方法を取っています。老朽化した物件を借り上げて大家さんに家賃保証し、まちづクリエイティブが間に立って、入居者に貸しているのです。

── 大家さんから借りた金額よりも若干上の金額を設定し、サブリースすることでマネタイズするモデルだが、マージンを上乗せしても、MAD Cityが扱う物件は都内に比べて安いそうだ。

彼らが仕入れているのは、築40年の借り手がつかない老朽化マンションや、目立ち過ぎて誰も使わない駅前の元カップルホテルなど大家が持て余しているような物件。そういった物件に「セルフリノベーションのOK」の付加価値をつけて貸し出している。

「MAD City」の住人のインテリアを見ると、その自由さに驚く。ドアに大きく部屋番号をペイントしたり、壁をはがしてコンクリートをむき出しにしたり……。元カップルホテルだった物件は、クリエイターのスタジオやアーティスト・イン・レジデンスとして使用されている。元ホテル故の防音に配慮された作りが、騒音がともなう制作活動に重宝されているのだ。

センスやスキルのある住民がリノベーションを施せば、古臭さの漂っていたマンションも今風に変身する。リノベーションによって価値が上がった場合、施工した入居者に数カ月間の家賃増額分を還元する仕組みもある。
センスやスキルのある住民がリノベーションを施せば、古さの目立つマンションも今風に変身する。リノベーションによって価値が上がった場合、施工した入居者に数カ月間の家賃増額分を還元する仕組みもある。

── セルフリノベーションOKということは、現状回復義務がないということですか。

寺井

そうです。部屋の原状回復に対しては、まちづクリエイティブが責任を負っています。オーナーさんが原状回復を不要にするのは簡単なことではないので、まちづクリエイティブがリスクを取っているわけです。

そうすればどんな物件も原状回復の義務を無くすことができます。でも、基本的には入居者がリノベーションを施すことによって、部屋の価値が上がり、次回高く貸せるようになることが大半です。

── リノベーションしているのに原状回復? と、不思議に思うが、まちづクリエイティブはオーナーに対して文字通りの「原状回復」を約束して物件を借りてきたという。

つまり、入居者が見つからず、まちづクリエイティブが持ち堪えられずにオーナーとの契約を終了する場合は、改装していても元の状態に戻す保証をしてきた。実際には入居希望者が絶えず、契約を終了したケースは過去にないとのことだが、思い切った戦略だ。

アパレルのブランドでは時に大きな音が出る行程もあり、防音は不可欠。国内外で有名な日本ブランドの服も、実はMAD Cityから生まれている。
アパレルのブランドは時に大きな音が出る行程もあり、防音は不可欠。国内外で有名な日本ブランドの服も、実はMAD Cityから生まれている。

── とはいえサブリースというビジネスモデルには、潜在的に大きなリスクがあるように感じられるのですが。

寺井

我々が借りあげた物件が埋まらなければ、日々赤字が垂れ流されます。他にも家賃の回収も含んだ管理のリスクもありますし、住人に任せるリノベーションに関しても、上手くいった例ばかりではありません。

── そういったリスクにはどう対応しているのでしょう。

寺井

結果的に、我々が細かく積み上げてきたノウハウが効いてきたのだと思います。

MAD Cityの物件は稼働率が非常に高く、近年は物件が埋まらないことはありません。MAD Cityの公式ウェブサイトを改善してきたことや、入居者による口コミなどを活かせている状況があり、常に入居待ちの方がいらっしゃって、入居率が非常に高く保たれているからです。

転貸は、入居者の選定が全てです。入居してもらった時点でリスクが回避できなくなるので、その人がどんな人物かを見極めることは必要不可欠です。僕らの判断基準は「お金を持っているかどうか」ではなく、「クリエイティブな人かどうか」。今何をやっていて、どんなことを考えているかを、その将来性を含めて判断するようにしています。

更に現在はMAD Cityの住人で建築家や大工さんなど、スキルのある人を集めたチームがあり、彼らに改修を依頼できるリノベーションのサービスも行っています。これは本来は入居者向けのサービスですが、会社としても、万が一、入居者による改装に問題があったとしても、リノベーションして再スタートを切るスキルがあるということです。失敗のリスクとリターンを考えたら、リターンのほうが大きいと思っています。

── 5年間の経験によりひとつひとつ積み上げたノウハウが、サブリースという本来リスキーなビジネスモデルを機能させている。その方法論は、マニュアルに落とし込めるものでも、他社が真似しようと思ってできるものでもないようだ。

小田雄太(以下小田)

もしも寺井のような経営方針が、他の会社にもあるのなら別ですが、難しいでしょう。サブリースは普通の賃貸物件のように「貸したら終わり」ではなく、間に入る我々がずっと責任を負い続ける。だから住人との継続的なコミュニュケーションが必要です。それを単なる負荷であり、コストと捉えるのであればサブリースはできません。

── 寺井さんにとってのまちづくりは「シェルターのように、その人を守り、やりたいことを後押してくれる場」をつくることだと、前編でうかがった。住民をサポートするエリア創りこそが寺井さんの仕事の核であって、不動産業やサブリースのビジネスモデルは、いわばまちづくりを実現するための装置なのだろう。

その優先順位の違いが、まちづクリエイティブのユニークな仕事を支えている。

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