【インタビュー】「greenz.jp」編集長 鈴木菜央さん vol.1 | お金から自由になるメディアの、お金じゃない原動力

「greenz.jp」編集長 鈴木菜央さん

「自分たちがいる社会を、今よりも少しでもよくしたい!」という願う人は多いはず。でも何から手をつければよいのか分からなかったり、自分では力不足だと思ったり……。さまざまな課題が山積みの日本では、私たちは願いと、ためらいの間で揺れ動く気持ちを持て余してしまいがちだ。

そんな煮え切らない気分を奮い立たせてくれるのが、ほしい未来をつくるためのヒントを共有する「greenz.jp (以下greenz.jp)http://greenz.jp/ 」。社会的な課題に真摯に向き合いつつ、軽やかで愛に溢れたメッセージを発信し続けるウェブマガジンだ。しかも言いっ放しではなく、行動につながる仕掛けもあって“そこで動いている人々”が見える、稀有な存在感を示している。

一体どうやったらこんなにナイスな“場”をつくれるのだろう? 今回は「greenz.jp」の編集長鈴木菜央さんに、ソーシャルな場のつくり方について、話をきいた。

<プロフィール>鈴木菜央(すずき なお)
NPOグリーンズ代表/greenz.jp編集長 76年生まれ。月刊ソトコトを経て06年「ほしい未来は、つくろう」をテーマにしたWebマガジン「greenz.jp」創刊。千葉県いすみ市に家族4人で35㎡のタイニーハウス(車輪付き)に住む。著作に『「ほしい未来」は自分の手でつくる』。

vol.1 お金から自由になるためのメディアの、お金じゃない原動力
vol.2 新しい価値を生み出す、豊かな生態系としてのコミュニティ

️環境汚染などの社会問題。その責任は、“デザイナー”にある⁉︎

ーそもそも鈴木さんがウェブマガジン「greenz.jp」を立ち上げたモチベーションはどういったところにあったのでしょうか。

鈴木菜央さん(以下、鈴木):「greenz.jp」は2006年の7月に始まって、今年で11年目になります。僕がこの媒体を始めた理由が沢山ありすぎて、様々な文脈で語れてしまうのですが……。

僕は高校生の頃はデザイナーになりたかったんです。それで高校の先生にヴィクター・パパネックの『生きのびるためのデザイン』という本を貸してもらいました。そこには現代社会で起きている環境汚染などの問題の、かなりの部分がデザイナーに責任があるというふうに書いてあって、衝撃を受けたのです。それをきっかけにデザインの本質を考えれば考える程、世間で“デザイン”だとされている領域に進むことに疑問を感じるようになりました。

その後は結局、東京造形大学に入学してデザインを学んだのですが、僕はやっぱり“デザイナー”からはみ出してしまった。ならばいっそ、他の人にはできない領域をデザインしたい。そう考えたときに、社会の仕組みなどの目に見えないモノのデザイナーになりたいと思うようになりました。

️発端は自分のためーー誰もが心地よく生きられる社会をデザインする

ー高校生の頃の読書体験に戻ってきたということですね。

鈴木:もっと遡ると、僕は小さい頃から喘息を抱えていたんです。だから環境問題には子供の頃から興味を持っていました。さらに生い立ちも影響していて、僕はタイのバンコクで生まれ育って、6歳のときに東京に来たんです。イギリス人と日本人のハーフだということもあって、ずいぶん馴染むのに時間がかりました。そもそも80年代は、外国人が珍しい時代だと思うのですけど、そういうなかで、全然自分の居場所がなくて。

だから、デザインを考えることと、アイデンティティと、自分のモチベーション、それぞれの話がごっちゃになって「greenz.jp」をつくるに至ったのです。

ー社会的起業家と呼ばれる人は、まず社会ありきで物事を考えているのかと思いましたが、鈴木さんの原動力は内的なモチベーションのようです。

鈴木:はい、自分の為です(笑)。僕が生きやすくするために、やっているみたいな。それというのも持続可能な社会とかダイバーシティとかって、全て自分の環境や健康とつながっているから。そういうことは、もっと当たり前になっていいと思うんです。

️お金から自由になるための、“お金と人間関係” のお話

「greenz people」はサポーターとして、出資するだけでなく記事のアイデアも出している

ーとはいえ「greenz.jp」は「greenz people(以下グリーンズ・ピープル)」という、個人の寄付会員が支えている面もあり、参加型のメディアともいえます。個人的なモチベーションを、周囲の人を巻き込むムーブメントに発展させるまでに、どのような道筋があったのでしょうか。

鈴木:それは単純で、僕らは大金持ちでもないし、どこかの企業がドン!とスポンサーにつくわけでもないし、とてつもない人脈があるわけでもない。つまりは、どこからか資源を持ち寄る以外にない。それが皆でつくることに至った流れです。

ー会員制度「グリーンズ・ピープル」が始まったのは2013年からですね。それまでは、どのように運営していたのでしょう。

鈴木:僕は2002年から3年間『月刊ソトコト』で編集・営業として働いていました。当時の経験を踏まえ、せっかく独立するならメジャーな雑誌とは違うシステムで運営しようと思っていました。だから一般的なベンチャーキャピタルのようにプレゼンをして、シードマネーを獲得し、第2ラウンド、第3ラウンドと成長を描いていく……といった方法はとりませんでした。

お金というのは、良くも悪くも人間社会をドライブする強力な原動力になっていて、その力に無意識のレベルまで支配されているのが、資本主義です。だから「どうやったらお金から自由になれるのか」ということは、すごく考えましたね。

ではどうしたか? 一部には知られていることですが、実は当初「greenz.jp」はライターさんへの原稿料を2,000円しか払えなかったんです。だから電車に乗って取材に行ったら電車代だけで終わっちゃうみたいな、そんな感じだったんですね。

️安心して話せる場で引き出された、人々のモチベーションが原動力

毎月第二木曜日に行われる「green drinks Tokyo」は、毎回さまざまなテーマがもうけられ、年齢や職業の垣根を越え、人と人の思いをつなげる”出会いの場”だ 撮影: コバヤシアイコ

ーなるほど。ライターの労力という形の“資源”を持ち寄っていたわけですね。一方で鈴木さん自らおっしゃるように、お金は人を動かす原動力でもあります。ライターは、お金の代わりに何をモチベーションにしていたのでしょう。

鈴木: 2,000円しか払えないというのが確定しているなかで、記事を書いてもらう方法を考えなければなりませんよね。その結果、ライターさんが何をやりたいかを丁寧に聞き、それを僕らがサポートする環境づくりを大切にしてきたのです。

ライターさんが目指したい方向性とか、深めたいことを聞いて、僕らも「greenz.jp」を通してやりたいことを、徹底的に話します。それが重なり合うと、凄い力が発揮されるんですよ。2,000円でもいいからやりたいと言って、15,000円ぐらいかけて遠くに取材に行ってくれるライターさんもいたし、他のメディアでは書けないけれど、「greenz.jp」ではこれが書きたいと言って書いてくれるライターさんもたくさんいました。

「greenz.jp」では、ライターさんだけとじゃなくて、あらゆる関係者とそういった関係性をつくってきました。人間としての信頼関係がベースにあるから、安心して話せる、馬鹿なことを言ったり、夢見がちなことを言ったりできる。そんな場を大切にしてきたんです。

“コミュニティ”の輪を広げることが、無理のない成長の鍵

ー鈴木さん自身、自らのモチベーションから「greenz.jp」をつくられた。それと同じように、関係する人々のモチベーションを探り出して原動力にするのですね。そのために、必要なのが人間関係であり、その関係性を醸成する場であると。

鈴木: そうですね。“コミュニティ”は「greenz.jp」を運営していくうえでの大きなキーワードになっています。

ただ、お金に関しては少しずつ考え方が変わってきて、今は便利なツールと見ています。ライターさんのギャランティが2,000円だったのは過去の話。今は企業やNPOのパートナーがいる企画で1本30,000円、自主提案記事に関しては15,000円お支払いしています。

それができるようになったのは、「グリーンズ・ピープル」の支えがあってこそです。またパートナー企業と良好な関係性を築けているのも大きいですね。

ー関係性を大切にし、コミュニティを広げてきた結果、賛同者が増え、関わる人が無理なく活動できるようになったのですね。

鈴木:やり甲斐を感じてもらうのは大前提として、その人が生きていくためには、金銭的な対価も支払わなければならないですよね。「お金ではない価値を提供しているからOK」という考えには、正直甘えもありました。

実は僕自身も無理をしていました。当時会社では「greenz.jp」運営とは別に編集プロダクション機能も持っていて、僕が外部の仕事を受注し、外部スタッフと一緒に相当数の仕事をまわしていた。その利益を毎年500万円ぐらいずつ「greenz.jp」に注ぎ込んでいたのです。ところが4年ぐらい経った2011年頃には限界がきていて、深刻に体を壊してしまいました。

それで2011年に株式会社だったグリーンズをNPO化して組織をリセットし、株主ではなく皆の力を借りてやり直すことにして、今の体制をつくりました。

ーやりたいことのために無償でパワーを持ち寄ることは尊いですが、あまりにも長く続くと疲れてしまうかもしれませんね。ただ、「グリーンズ・ピープル」の支援はともかく、企業やNPOのスポンサーがつくと、お金に支配されてしまう……という心配はないのでしょうか?

鈴木:そうならないように、記事の内容は全て「greenz.jp」編集部に任せてもらっています。またお互いの方向性が変わったらいつでも契約を切れるようにすることも大切ですね。とはいえ、実際もしも「greenz.jp」でスポンサーの言いなりになるような記事を書いてくださいといっても、うちのライターさんに書いてもらうのは難しいでしょう。長年信頼関係をつくってきたライターさんに「それは違うんじゃないの?」って言われてしまいますから。


鈴木菜央さんの話をきくと、グッドアイデアを軽やかに発信するということの裏側に、こんなにも大きな労力と長い試行錯誤があったことを知って驚いてしまう。

「greenz.jp」から溢れるナイスな空気感は、鈴木さんはじめライターやデザイナー、カメラマンなどの関係者が、お金の代わりに“心”を原動力にしてつくりあげていることに起因しているのではないだろうか? 程度の差こそあれ当初は関わる誰もが、無理もしたのだろう。だけど理想や夢が共有できていたからこそ、「greenz.jp」は苦労の重みに負けない軽やかさを保ち続けている。

後編は鈴木さんがこれからの「greenz.jp」を運営していくなかで大切にしている、コミュニティをつくることについて掘り下げる。実は鈴木さん、「greenz.jp」をNPO化してすぐに鬱と腰痛を患ってしまったそう。病からの再生の鍵となったスモールハウス暮らしやコミュニティ・ビルドについてもうかがった。

vol.2 新しい価値を生み出す、豊かな生態系としてのコミュニティ→

(提供:ハロー! RENOVATION