【レポート】空き家リノベーションで、地元の賑わいが戻ってきた! アメリカヤ再生プロジェクト(後編)

IROHA CRAFTの千葉健司さんに、山梨県韮崎市の空きビル再生プロジェクトについてうかがった公開インタビュー後編をお届けする。前編はこちらからご覧ください。

Profile
千葉健司さん
韮崎の隣町出身。韮崎高校卒業。京都で建築を学び、地元である山梨に戻りハウスメーカーや設計事務所等で勤務ののち独立。現在は自身がリノベーションを手がけたアメリカヤの4階に事務所を構え、住宅や店舗などの物件探しや資金計画、設計から施工までを手がけている。

インタビュー担当:
YADOKARI 川口直人、松倉和可

地元の支援を力に、さらなる展開も

ところで気になるのは地域の反応。長年地元で愛されてきたアメリカヤを復活させるにあたり、協力は得られたのだろうか。

千葉 韮崎市からは多大な応援をいただきました。従来の改修費の補助金は、建物のサイズに関わらず50万円が上限だったところ、担当の方が「制度を変えよう」と申し出てくださって、200平米以上の建物については200万円まで補助していただけることになったんです。さらに、韮崎市内で起業する人のための補助金制度も拡充されました。今までは韮崎在住者限定だったのが、市外の方も対象になったんです。アメリカヤを訪れるために市外から韮崎にやってくる方が増えたことがきっかけだそうです。

こうした支援を得られることになった背景には、アメリカヤのオーナーである星野三男さんの尽力も大きかったそうだ。

千葉 BEEK(山梨を拠点に活動するデザイングループ。現在、アメリカヤの5階にオフィスを構えている)の土屋誠さんにも協力していただきました。アメリカヤを借りられることになり、最初にビル内部を下見した時に土屋さんに「面白いから見に行こう」と声をかけ、それ以降、3階の入居者探しや、SNSで紹介してくれたりと、一緒に盛り上げてくれました。

さらに、若い世代も動いてくれた。

千葉 アメリカヤの駐車場を会場に2019年から始まった「にらさき夜市」というお祭りは、韮崎の若い人たちによる実行委員会が主催しています。

2020年5月現在、新型コロナの影響で休止中だが、多くの人が再開を楽しみにしている。

にらさき夜市。初回は500人が集まった。

「アメリカヤ横丁」から、夜間経済の活性化も始まる

次に千葉さんが手がけたのが「アメリカヤ横丁」だ。アメリカヤの向かいにある築70年の長屋をリノベーションして生まれた飲食店街だ。

千葉 近所の長屋が取り壊されるという噂を聞いて見に行ったら、昭和の雰囲気のままのおもしろい建物で、これは壊すのがもったいないな、と。そこで大家さんに直談判して、貸してもらうことになりました。

トイレは汲み取り式、耐震設備も古いままという、文字通り昭和の遺物といっても過言ではない建物。当初オーナーは取り壊すしかないと考えていたが、千葉さんの熱心な説得で考えを変えた。そして、アメリカヤのオープンから1年半を経た2019年9月、アメリカヤ横丁が誕生した。

昭和の雰囲気を残してリノベーション。
日本酒酒場「コワン」。
ラーメン酒場「藤桜」。

一から探して誘致するつもりだったテナントは、実際にはSNSでの拡散、アメリカヤの住人や知人などからの紹介ですぐに5店舗が決まった。

横丁のオープン日。中央左の黒いポロシャツ姿の内藤久夫・韮崎市長、その右隣が大村智博士、そして千葉さん。

千葉 横丁のオープン日には、韮崎市長さんや、ノーベル賞生理学医学賞を受賞された大村智先生がお祝いに来てくださいました。お二方とも韮崎高校で、私の先輩にあたります。みなさんすごく応援してくださって、本当に心強いです。

 

最後に紹介するのが、2019年12月に開業したゲストハウスchAho(ちゃほ)だ。
日中楽しめるアメリカヤと、よい酒場が集まるアメリカヤ横丁があれば、宿泊のニーズもあるはず。そこで、増加する一方だった空き家空き店舗を活用して宿泊施設を作ろうと有志が立ち上がった。

千葉 もともと韮崎は鳳凰三山の玄関口で、登山のために前泊する人も多かったので、山に特化したゲストハウスにしよう、と。そして、アメリカヤの6軒隣にあるお茶屋さんだったビルをリノベーションしました。元は「茶舗」というビルなので、そこからいただいて「chAho」という名前になりました。総合プロデュースは、韮崎出身で世界的トレイルランナーである山本健一さん。私にとって高校の一個上の先輩でもあります。運営は、甲府のゲストハウス、バッカスを営む野田寛さんが担当しています。

お茶屋さんだったビルを改装したゲストハウスchAho。

古い建物ならではの魅力を引き出し、使い続けたい

千葉さんが韮崎市内や近隣で空き家・空きビルの利活用に取り組む最大の理由は「地元への恩返し」だという。

千葉 高校生の頃通った韮崎を、誇れるまちにしたいという思いがあります。建物だけでなくエリアのリノベーションにも興味を持っているので、半径200m範囲に面白いものをどんどん作って、いろいろな方が関心を持って県外からも見にきてもらえる地域にしたくて。

川口 千葉さんにとって古い建物の魅力とはなんですか?

千葉 お金で買えない古きよき価値がありますよね。例えば、古い建物の木や鉄の窓には、メーカー製の大量生産のサッシにはない、昔の職人による手仕事ならではの温もりが感じられます。できるならばなるべく壊さず、補強して使い続けていきたいと思います。

平成30年の国勢調査では、山梨県の空き家率は21.3%。前回25年の調査から引き続き全国ワーストだ。だからこそ千葉さんのやる気も掻き立てられる。

千葉 空き家をまとめて集合住宅に生まれ変わらせたい。名前は「アメリカヤ村」。空き家で村を作るんです。

持て余しがちな空き物件も、やり方次第で魅力的に再生できるし、地域のハブになる可能性も秘めている。アメリカヤは、そんな大いなる希望を示してくれた。