ツリーハウスつくろう(9) ~小林 崇さんに学ぶ、ツリーハウスはじめの一歩~

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今回は、僕が出会い影響を受けた『人』ツリーハウスクリエーター 小林 崇さんと、その世界について、体験レポートを綴っています。

ツリーハウスビルダー養成講座は、樹木との対話を繰り返し、ようやく全てのデッキ制作を終えました。ビルダー見習い達は、いよいよ樹上でのハウス制作を開始します。

ツリーハウスをイメージする

樹上7m付近にどんなハウスを造りたい?

ビルダー見習い達から様々な意見を聞き、僕らの技術で制作可能なデザインを考慮しつつ、コバさんがイメージしたハウスは、なんと巣箱。
しかし、クリエイター小林 崇が打ち出した巣箱は、やはり独創性を持ったデザインだった。

谷側の素晴らしい景色や、プロ並みの樹上高を堪能出来るよう、極力壁面で覆われる部分を少なく、東屋のような開放的な造りに。樹木をより近くで体感できるよう、幹を大胆にハウスへ取り込む。山側の広場から見た時は、巣箱のようなとんがり屋根の愛らしいデザインに。

樹木の複雑な形状を確認出来るのは現場のみ。ツリーハウスは設計図を持たない創作活動だ。このホワイトボードに描いたスケッチを頭に叩き込み、イメージを共有していく。
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山の現場に入ると、ビルダー見習い達はコバさんとイメージを共有していく。改めて現場で確認すると、ハウスに取り込む幹の拡がりが思った以上に複雑だ。幹からは枝も無数に伸びている。ノートに写し取ったスケッチを手がかりに、実寸でイメージしていく。
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まずは垂木を使って高さや奥行きなど、樹木の形状や状態を確認しながらイメージを形にしていく。
一見すると荒っぽい方法だが、ツリーハウス制作では、樹木と対話しながら進めるこの方法が、最も安全で確実な方法だ。
ハウスが安定して設置できて、幹や枝を交わす事の出来る位置を決めていく。デッキの構造を再確認しながら作業する為、仮貼りしていた床板も容赦なく剥がされていく。
場合によって、ハウスに合わせ根太や床板の位置を変えるなど、デッキを変更してしまうこともある。臨機応変。ツリーハウス制作ではいつも柔軟な発想が求められる。
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樹冠付近は幹だけでなく枝葉も多く、ハウスの位置決めは難航する。垂木で造った仮組フレームを持ったまま行ったり来たり。まるで樹上の巨大な知恵の輪だ。満天の緑に囲まれモゾモゾしている姿は、下から見ているとちょっと面白い……いや、ビルダー見習い達は必死なのだが。
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当初の作業案は、地上で各壁面を制作してしまい、そのままの状態で引き上げ一気に組み立てる、パネル工法のような作戦が検討されていた。しかし今更ながら痛感する。効率化・規格化された現在の建築工法を模する事は、ツリーハウスでは難しい。
イメージでは、ハウス内部は放射状に拡がる幹や枝葉がいくつも貫通する。樹上に壁面の状態で上げてから、幹や枝葉に合わせて空中で壁面を加工するのは、ビルダー見習いにとっては、あまりに難度が高い。この時点で、壁面での引き上げは断念する事になった。
多少時間を要するが、まずはフレームを樹上で組み立て、壁面や屋根を後から制作することになった。

ハウスフレーム制作

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作業方針とハウスの設置位置がほぼ決まると、早速ハウスフレームの制作に入る。まずは地上で一旦仮組みしてみる。ここまでは、通常の小屋の骨格を制作する要領で、比較的問題なく作業進行した。
後は材料を樹上に上げて、トップデッキで再現すれば完了だ。ここまでのデッキ制作に比べると、なんだかとても簡単な作業の感覚でいた。
この時までは……。
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……もう何度、樹上でフレームを組み直しただろう。

樹冠付近の複雑に拡がる幹に対応出来ずにいた。フレームの角材を樹木に合わせ地上で再加工。デッキに上げて何度も墨付け(印を付け)、数センチ単位でずらすも、決まらず……。手前に引けば、奥がつかえ、右にずらせば、左が当たる。ただただ時間が過ぎっていった。垂木で実寸イメージした時には上手く決まっていたはずなのに。
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ハウスを構築するフレーム用の角材は、垂木に比べ頑丈で太いものを使用する。細くしなる垂木では、かろうじて上手く幹をかわせていた箇所が、実際のフレーム角材では樹木に当たってしまう。天候次第では、樹木は風で大きく揺れるため、ある程度の隙間がなければ、樹木もハウスもダメージを負ってしまう。無理な制作は出来ない。樹上の巨大な知恵の輪は、いっそう難易度が上がっていた。
ビルダー見習い達は、絶好の学習機会を得ていた。
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樹上でのハウス制作の難しさは、地上との作業環境の違いもある。わずかなデッキのスペース以外、ハウス外周の制作はツリークライミングをしながらの作業となる。屋根のフレーム角材を組むとなれば、トップデッキから更に高い、樹上8~10m程まで登ることになり、眼下には一面谷が拡がる。ハーネスにロープが繋がり安全確保してはいるが、ビルで言えば3~4階相当で枝に絡み付きながらの作業は、ビルダー見習いではまだまだ足がすくむ。ビス1本打ち込むのも一苦労だ。
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こんな複雑な幹を取り込んでのハウス設置は諦めて、幹が絡まない無難な位置やサイズにデザインすればいい?僕らはまだ見習いだが、ツリーハウスクリエイター小林 崇の門弟。そんな無難で面白くない作品はありえない。
この位置にハウスが設置できたら、きっと面白い作品になる。訪れてくれる方々もきっと楽しみながら樹木や自然を感じ、鋸山の景色を堪能してくれる。

地上ではひとりで出来る仕事も、樹上では全員の力が必要だ。課題解決に向けて、仲間と真剣に樹木と向き合い創作していく。そんな瞬間が、ツリーハウス制作をしていて最もワクワクする瞬間でもある。
……フレーム角材が幹も枝もかわし、ハウスが組み上がり始めた。

諦めなければ、想像した事は必ず創造できる。
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どんなにしっかり測って再加工したフレームも、樹木に合わせてやはり最後は現場で微調整する。放射状に拡がる幹と枝をひとつひとつ丁寧にかわし、地道に作業を積み上げ、ようやくハウスフレームが完成した。手前味噌だが、見事に幹を取り込んだ位置にハウスを設置できた。プロから見たら小さな一歩でも、見習いから見たら大きな一歩だ。
樹上の巨大な知恵の輪。ようやく、その答えを見つけた気分だ。
トップデッキへの入口も開口し、ハウス制作はいよいよ最後の壁面・屋根制作へとつづく。
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ツリーハウスビルダー養成講座 卒業

ツリーハウスビルダー養成講座の卒業が迫っていた。
講座内では、常にコバさんやツリーハウスクリエーションのスタッフが現場に付いて、ビルダー見習い達を支援してくれていた。大きな節目となるハウスの外形が見えたこの回で、ツリーハウスビルダー養成講座は閉講となった。
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ここから、講座を修了した新米ビルダー達は、自力でツリーハウス完成を目指す。言ってみれば卒業試験のようなものだ。現場にコバさんが付いてくれるのは今回が最後。最終確認をしながら、細部の仕上げや問題点、完成イメージを新米ビルダー達と共有していく。
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このツリーハウスビルダー養成講座は、あくまで基礎知識や制作技術の習得を目的とした初級編だ。まだ完全に確立されたプログラムではなく、講師と受講生が一体となってつくるスタイルだ。今後は中・上級講座やプロ講座などの開講も期待しているが、現時点では未定だ。

初級講座を卒業しても、建築や造園関連の現場に出ている者を除けば、プロとして独立するのはまだまだ難しい。僕自身を見てみても、ビルダーとして未熟で、知識も技術も経験も、まだなにも無い。当分は変わらずビルダー見習いレベルのままだろう。今後、制作アシスタントとして森の現場を数多く経験し成長するしかない。
せめてコバさんの足手まといにならなくなったら、一緒に現場に立ちたい。そんな風に今は思う。
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僕らはツリーハウスクリエイター小林 崇の流儀を受け継ぐ。

ツリーハウスは冒険と自由、自然回帰の象徴。そのどれもが、これからの日本人が最も必要とするものではないだろうか。

コバさんをパイオニアとして日本に拡がり始めたツリーハウス。制作技術や知識だけではなく、自然を愛する文化や、自由と冒険の精神を僕らの中に取り込み発展させることこそ、流儀を受け継ぐということではないだろうか。
まだ何が出来るかは解らない。しかし出来ることから始めようと思う。僕はこうしてツリーハウスや、そこに集う人々に寄り添い、その魅力を伝えていこう。
これからの制作を通して、答えは新米ビルダーひとりひとりが見つけていくしかない。
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ツリーハウスビルダー養成講座を卒業した新米ビルダー達は、ハウス完成へ向け、最後の制作に入ります。
「ツリーハウスつくろう」いよいよ大詰め。

ツリーハウスクリエーター 小林 崇さんと、その世界についての体験レポート。
次回、最終回へつづく。