第2回:“ロングライフデザイン”をショップで学ぶ(後編)|未来をつくるマナビゴト

「d SCHOOL」を運営するD&DEPARTMENT。東京店の阿部店長にお話をうかがいました。
「d SCHOOL」を運営するD&DEPARTMENT。東京店の阿部店長にお話を伺いました。

「未来をつくるマナビゴト」。5月は「ロングライフデザイン」をテーマに雑貨や家具、食を提供するコンセプトショップD&DEPARTMENTをご紹介します。前回第1回は東京店で行われた「d SCHOOL 松野屋に学ぶ 暮らしの道具」をリポートしました。この第2回目は、ショップでスクールを開催するというユニークな試みの始まりや、「d SCHOOL」を企画する際の思いなどを、東京店店長の阿部さんにうかがいます。

売り手も買い手も同じプロジェクトに参加する仲間

「『d SCHOOL』は元々スタッフ向けに、物作りの背景だったりとか、そのプロダクトが長く続いている理由だったりを学ぶ会でした。それを、私たちスタッフだけが知るよりも、お客さんにも聞いてもらえるといいのではないか、という思いから声を掛けたのがきっかけです。昔は定休日の店内に椅子を並べて『ついでに一緒に聞きませんか』という感じでしたが、ご好評をいただき、オフィシャルな形で運営するようになりました」

スタッフの勉強会にお客さんを招く。それができるのは、D&DEPARTMENTという場に、お店とその客という垣根を超えた人間関係があるから。お店を訪れると、スタッフの皆さんが作る距離感が自然で、決断を迫られるような緊張感とは無縁。レイアウトも整然としすぎず、ひとつひとつがあるべき場所に大切に置かれている。まるでセンスの良い友人の家に遊びに来たような、目利きの祖母の屋根裏を探検するような、そんな親しい気持ちになります。

家具、雑貨、食器や雑誌まで。どのコーナーを見てもそこにストーリーが立ちあがってきます。
家具、雑貨、食器や雑誌まで。どのコーナーを見てもそこにストーリーが立ちあがってきます。

「私たちもお店の人という感覚ではなく、お客様と同じ目線でいたいんです。元々の店名はD&DEPARTMENT PROJECTといって、計画や試み、練習という意味のPROJECTという単語が付いていました。DはデザインのDですから、デザインとショップで行う試みですね。ですからお客さんに対しても同じ試みに参加してくれている仲間という意識があります。『d SCHOOL』も、仲間として良き生活者になるべく一緒に勉強しませんか、というスタンスです」

過程も全て見せる。いい意味で格好良くない真っ当さ

単に買い物をするだけでなく、プロダクトを通じてお店のコンセプト「ロングライフデザイン」を追求するプロジェクトに参加する。とても魅力的なマナビゴトだと思いませんか? ただショップスタッフの皆さんが、お店の仕事もあったうえで「d SCHOOL」の運営もするのは大変なのではないかと、つい心配してしまうのですが、阿部さんは自然な形でそれができる瞬間があるのだと言います。

「企画を立てなきゃとかお客さんを呼ばなきゃとか思うと、仕事っぽかったり商売っ気ができたりするので苦しくなるのだと思います。純粋に自分たちが知りたいと思ったことを、お客さんと一緒に学ぼうというのが建設的だし、お客さんに対しても正直です」

阿部さんのお話には、正直、真っ当、という言葉が頻繁に使われて、それはD&DEPARTMENTのプロジェクトひとつひとつから垣間見える姿勢とも重なります。

「真っ当、という言葉は社内でもよく聞かれますね。真面目でごまかすのが嫌いだから、出来上がったものをポンと見せるのではなくて、そこに至る過程までも伝えたい。『d SCHOOL』もその伝え方のひとつです」

「いい意味で泥臭くて、かっこよくないんです」と、笑う阿部さん。でもその真面目さには決して頑な印象はなく、とても自然で今日的。ロハスという言葉が定義の曖昧なまま口当りの良いトレンドワードとなって古びてしまったのとは対照的に、D&DEPARTMENTの掲げる「ロングライフデザイン」というコンセプトは具体的で地に足がついている印象を受けます。その長く続いて来たものから学ぶ姿勢には、日々の生活を無理なく豊かにする可能性があると思えるのです。

ショップの一角で開催されている「NIPPON VISOPN GALLERY」では、本コラムの第1回で取りあげた東京の卸問屋の松野屋さんが特集されていました(4月末にて終了)。
ショップの一角で開催されている「NIPPON VISOPN GALLERY」では、本コラムの第1回で取りあげた東京の卸問屋の松野屋さんが特集されていました(4月末にて終了)。

「ロングライフデザイン」が教えてくれること

D&DEPARTMENTのデザインプロジェクトは「d SCHOOL」の他にも、ロングライフな日本のメーカー商品を復刻再販売する「60VISION」や、日本をデザインの視点で旅するトラベルガイド「d design travel」の出版、自社農園でオーガニック野菜やハーブを育てる「d FARM」まで多岐に渡っています。デザインという言葉の定義も一般的に考えられるものよりも大きく拡張しているようです。

「d design travel」は47都道府県についてそれぞれ1冊ずつ発刊するトラベルガイド。現在12冊が既刊。
「d design travel」は47都道府県についてそれぞれ1冊ずつ発刊するトラベルガイド。現在12冊が既刊。

「確かに昔は私たちも、紙一枚をどう作っているか……というところに焦点を当てていましたが、プロジェクトが増えるに従って行為に関してもデザインという言葉を使うようになりました。最初はこの東京店でロングライフデザインを再評価する活動を始めて、それが『60VISION』というプロジェクトに発展し、そこから伝統工芸や地場産業に焦点をあてた『NIPPON VISION』のプロジェクトが発生、ヒカリエのd47という形で店舗になりました。また元々D&DEPARTMENTはユーズドから始まっていて、そのクラシックな部分を受け継いでいるのがコム・デ・ギャルソンと展開するGOOD DESIGN SHOP COMME des GARÇONS D&DEPARTMENT PROJECTです」

多様な活動の基本にあるのは、全て「ロングライフデザイン」のコンセプト。活動の展開が伴っているから、デザインという言葉の指し示す範囲が広がっても内容が薄くなることはなく、むしろ豊かになっていくのでしょう。

「『d SCHOOL』は各店舗主導で行っているので、それぞれのコンセプトや土地に合わせた学びが得られます」と阿部さん。D&DEPARTMENTは現在直営店3店舗(東京店、大阪店、福岡店)提携店6店舗の計9店舗。ほかに、d47やGOOD DESIGN SHOP もあります。イベントの内容は各店舗のお知らせやブログをチェックしてくださいね。ショップで「ロングライフデザイン」を知るマナビゴト。雑貨やインテリア、食など、毎日の生活に不可欠なものを長い目でとらえ直してみると、新鮮な発見があるはずです。

D&DEPARTMENT店舗情報

飲みながら学ぶCOEDOビールの会
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わかりやすい炭のはなし
わかりやすい炭のはなし

*写真は全てD&DEPARTMENT東京店開催のものです