第10回:生きる芸術「家は生きている」|芸術は、生きる技術

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こんにちは。夫婦でアート活動をする檻之汰鷲(おりのたわし)こと、夫の石渡のりおです。絵を描くよりも生活することの方がクリエイティブだなぁ、と感じるこの頃、今日は愛知県津島市での空き家再生プロジェクト、空村のツアーの報告をします。

空村のこれまでのストーリーはこちら
第7回「運命の空き家編」
第8回「空村(そらむら)編」
第9回【空村ツアー参加者募集】

家は生きている

家のオーナーは言いました。「この家は生きている。声を聞いたんだ。まだ生きているって。それで誰かに使って欲しいと考えるようになったんだよ。」

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「生きる芸術」とは”Art to live(生きるための芸術)”であり、”Living Art(生きている芸術)”と考えていたので、家が生きているという発想に出会い嬉しくなりました。

この家は、80歳でも現役なのです。プロジェクトチームでは、「15戸もある空間を利用する人がいないか?」と考えツアーを企画しましたが、とどのつまり、この家が、生き続けるために利用者を必要としているのです。

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見学にきたある家族は、空村をとても気に入ってくれ、移住を本気で検討しています。その理由のひとつは、ご夫婦の2歳になる娘が、この部屋が好きになって帰ろうとしなかったこと。そんなエピソードを聞くと、やっぱり家は生きているんだなあ、と感じてしまいます。

70名超が集まった魅力の理由

ツアーには、東京から貸切バスで30名、名古屋、岐阜、その他の県、津島在住の方々で40名ほど、合計70名超もの人が集まりました。
家を見学するだけでなく、津島市という町の魅力も知ってもらおうと、いくつものツアーコースをつくりました。特に津島出身の小林さんは、地元の方々への交渉や声掛けなどをして、これまた面白いコースを用意してくれました。

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例えば、海善寺という禅寺では、坐禅体験を用意してくれました。住職さんは尼僧で、厳しくお叱りされるのですが、それがチャーミングで、みんなファンになってしまいます。

「坐禅をするのは、ただ観ること。駅のホームで過ぎていく電車を眺めるのと同じ。坐禅を始めると、過去現在未来、不安やいろんな想いが湧いてくる。ただそれを見るの。電車に乗ってはいけない。想いに囚われずに、見ている自分を観ること。」と教えてくれ、最後に「貪瞋痴(どんじんち)」という言葉をプレゼントしてくれました。(意味は調べてみてください。)

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ツアーで人気だったのが青空食農教室を実践するイニュニック・ビレッジでした。ツアー参加者の21歳の男の子、通称タナケンは、この日をきっかけに東京から津島へ通い始めました。タナケン曰く「とにかく飯尾さんって人がすごくて!農業を体験したい!て想いが溢れました!」イニュニック・ビレッジは、春から初心者向けの農業体験をスタートさせる予定だそうです。
イニュニック・ビレッジ

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後継者を探している毛織物工業への見学。仕事有ります。

 

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素敵な老夫婦の柿屋饅頭

 

実際に足を運んでみれば、出会いが生まれ、いままで知らなかった魅力溢れるモノやコトを発見できるのです。

80年前のシェアの精神

ぼくはツアーで空村見学の案内を担当しました。部屋の様子を見せたり、床下の基礎の状態を見せたり。なかでも、集会場と呼ばれるスペースの話は、みんなが目を輝かせながら聞いてくれました。

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通称:集会所

 

ここは80年前に、オーナーのおじいさんが、毛織物工場で働く人たちの住む場所として建てました。当時は、学校に行けない人がたくさんいたので、勉強会を開くために、このスペースを用意したそうです。場所の記憶は人に伝わるのか、この集会所を訪れると、いろんな人がやりたいことをカタチにできる場になったらいいな、と誰もが思うわけです。

ワークショップをやりたい人、映画を上映したい人、ヨガ教室をやりたい人、模型のコレクション展をやりたい人、いろんな話が集まってきています。ぼくはボルダリングの壁をつくろうと計画しています。日を変えて、スペースを共有して、みんながやりたいことをやればいいのです。長屋は、シェアオフィスやシェアハウスの元祖で、「シェア」は、もともと日本人に馴染みのある暮らし方なのかもしれません。

空村はソーシャルメディア

家を改修して暮らすと宣言しながらも、ぼくは家の改修は未経験で、技術も知識も道具もありません。でも、やったことないことをやれば、どうやればできるのか分かるのです。だからやってみるのです。
見渡してみれば、古民家を改修し自給自足で生活している家族がいたり、屋根の仕事をしている人や、名古屋の木材屋さんを紹介してくれたり、知人に電気工事士がいたり、いろんな技術を持っている人が周りにたくさんいるのです。

まちかど

遠くの誰かより、近くの誰かと一緒にやれば、夢はもっと身近なものになります。

 

空村は、入居者だけを募集しているわけではありません。遊びに来てもらったり、集会所を利用してイベントをやったり、遠くから企画やアイディアを投げてくれるだけでも大歓迎です。空き家は日本全国どこにでもある資源です。だからこそ、知見やノウハウを共有して、利用価値をみつけていけば、ぼくたちの暮らし方の可能性も広がっていくのではないでしょうか。

ここまですべてが順調に進み夢が膨らんできた空村プロジェクトですが、この記事が掲載される頃には、既に津島に引越しが完了している予定でした。しかし延期せざるを得ない状況になってしまい、まさに空き家問題の現実に直面しています。いまは、まだそれしか書けませんが、知見やノウハウを共有する意味も込めて、次回には、きちんと報告致します。

*写真提供:Studio Harvest
*空村の物件以外の写真は、Discover!Tsushimaというfacebookイベントページに投稿された写真を使いました。ぜひ津島を訪れた際は、その魅力を発見して投稿してみてください。