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第4回:命をいただく|アフリカの暮らし

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バンベニ 桃
北九州出身。南アフリカ在住。雑貨作家、ノンフィクション・エッセイ作家。2006年〜2009年にユーラシア大陸横断、アフリカ一周の旅を体験。民泊とヒッチハイクを繰り返し、文化、言語、料理、宗教、政治などを直に学ぶ。訪れた国は75カ国を超える。南アフリカで現在の主人ラスタと出会い、結婚。二児の母。トランスカイのウムタタという小さな町と、村の生活を行き来している。人間とは本来他の生き物と同様、自然と循環して生きていくものなのだと実感。地球と循環して生きたいというコンセプトで天然素材で雑貨を作っている。これまでブログやライブトークなどで、旅の経験やアフリカの生活を生かしシンプルに生きることを発信している。

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放牧民族の父親を持つ私の息子は儀式の時などに、男たちが羊を絞める隣で走り回って遊んでいる。今回は旅やアフリカの生活を通じて遊牧民、放牧民に学んだ命のお話です。

遊牧民に気づかされたこと

2006年6月。

私はモンゴルの大草原の中を旅していた。旅をする中で出会った遊牧民の家族にお世話になるチャンスが訪れた。彼らは家畜のヤギを私のために絞めてくれるという。その時私は生まれて初めて動物が肉になる姿を見たのだ。心臓の部分にナイフを入れ、腕を突っ込み、心臓を掴んで止める。一瞬の技だ。大地に一滴の血も落とさない、それがモンゴルの遊牧民流だ。

鳴き叫ぶヤギの姿を目の前にして、私の目からは涙が出ていた。周りで遊んでいた子供たちが不思議そうに私の顔を覗き込む。

「なんで泣いているの?」

と聞かれ、言葉に詰まった。ただ溢れ出た涙を止めることができなかった。当時26歳の私はこの時初めて「肉を食べる」ということと向かいあったのだ。

遊牧民の生活。ヤギの乳搾りをする姿。彼女は一家の知恵袋
遊牧民の生活。ヤギの乳搾りをする姿。彼女は一家の知恵袋

肉を食べる。命を食べる。

私たちは動物の肉を食べている。私たちの食べているのは命。

情報ではそんなコトわかっていたはずなのに、目の前で動物が肉になる姿を見ると心が受け入れ方を知らなかった。日本では動物が絞められるその姿は、ネガティブなイメージが植えつけられている。それはそもそも日本人に牛肉などの肉を食べる習慣がなかったことも原因の一つかもしれない。

「怖い」「かわいそう」「暴力的」

きっとそんな固定概念が脳裏にあり、私は涙を流したのだろう。いろんな国を旅したけど、絞めた家畜の肉を食べ残す人はいなかった。一人もいないのだ。骨までもが犬のご馳走となり、無駄なく食べられる。彼らは命をいただいていることに感謝を忘れない。

たいていの家族はこれから食べられるご馳走を思い、とても嬉しそうな雰囲気の中で家畜を絞める。涙を流す者など見たことがないのだ。

絞めた羊はその場でカットされ、横に置かれた大きな鍋に入れていく。これから食べるご馳走に笑顔がもれる。
絞めた羊はその場でカットされ、横に置かれた大きな鍋に入れていく。これから食べるご馳走に笑顔がもれる。

そんな人をモンゴルで、アフリカで、世界中のいろんな国で目にするたびに、私の心は「悲しみ」から「感謝」にシフトすることができるようになった。出された肉はいつも残さず食べた。 彼らにとって肉は儀式や来客などの特別な時に食べるご馳走なのだ。

「命」を食べていることに感謝する、その大切さをモンゴルの遊牧民や、タルン村の人々、アフリカの放牧民族が教えてくれたのだ。この国、日本ではゴミ箱に毎日どれだけの命が捨てられているのだろう。

そもそもなぜ私たちは動物が肉になる姿を見るチャンスがないのだろう。

インドネシアで訪れたチャンス

インドネシアにスンバ島という島がある。彼らは先祖がその大きな藁葺き屋根に宿っていると信じている自給自足の民族だ。

2009年、私はこの島で、スンバ族の文化に触れに訪れていた。観光客なんてほとんどいないこの島へ島から島へと船で渡ってたどり着いた。そして縁が縁を呼び、タルン村という伝統を守った村のある家族にお世話になることになった。

村である家族に食事に招待されたとき、私のために2羽の鶏を絞めてくれるという。目の前に2羽、生きた鶏を私が一番親しくしていた年上の女性ラウェが4本の足をグッと逆さまに握って持っていた。

私は「その鶏を一羽絞めさせてくれない?」と聞いてみた。彼女は別に驚きもせず、グイっとその4本の足を私に渡し、ナイフやボールの準備を始めた。

「実は鶏も一度も絞めたことがないんだ」と私が言うと、この時初めて彼女は驚いた顔をした。でもすぐに「私が先生になってあげるから大丈夫」と笑った。

タルン村で学んだ命の体験

ナイフは丁寧にとがれた。

一羽目はラウェが見本を見せてくれるため、私が鶏の体を持って彼女が首を切った。暴れる鶏を両手でしっかり持った。しばらく暴れた後、鶏は動かなくなった。

私の番だ。生唾を飲み込む。でも心は決まっていた。

ラウェがしっかりと体を持ってくれている。頭をグッと掴み首を伸ばす。ナイフを首にあてる。首をしっかり掴みながら力強く力をいれナイフを動かす。すぐに首から血が流れてくる。

ドクドクドクドク・・・・・

鶏の鼓動が首を伝わって聞こえてくる。体より首を高いところへあげると、まだ生暖かい血が私の手を伝い、ボールへと流れていく。鶏はもう動かない。

私はこの手で鶏の命を奪った。私はこの手で鶏を肉にしたのだった。

その後のラウェの手際はそうとうによかった。彼女は「そんなに大きくない豚だったら一人で絞めれるよ」と笑って言った。身長150cmほどの小柄の彼女が、とてもたくましく見え、そんな彼女に鶏の絞め方を習えた自分を誇らしく思った。

ラウェに教えてもらいながら、アッという間に鶏は私のよく知っている鶏肉の姿になった。

そしてその鶏肉は家主の奥さんによって、ココナツミルクや、レモングラス、たくさんのニンニクと生姜、そしてインドネシア特有の香辛料もたっぷり加えて、おいしいおいしいご馳走と変化した。

食べる前、私は目を閉じて、しばらく祈りを捧げる。その鶏の命に。命を食べていると感じることのできる貴重な体験に。ラウェの素晴らしく手際のよい腕に。奥さんの料理の腕にも。

食卓に並ぶ命に感謝をする暮らし

そして南アフリカでの私の生活も家畜と密着した暮らしをしている。主人ラスタは村育ちのコサ族だ。家畜の世話はもちろんのこと、絞め方、肉の部位など熟知している。

我が家の食卓に並ぶ肉はたいてい自分たちで絞めたものが多い。こちらでは自分で飼育していないとしても、生きた鶏を買うこともできる。その場合、その鶏がどんな環境下で育ったかは一目瞭然なのだ。

チャンスがあれば是非体験することをおすすめするけど、日本だとなかなか鶏を自分で絞める、という風にはいかない。それでもちゃんとした飼育方法で育った健全な動物の肉を選び、感謝して食べることが命へ対するリスペクトに繋がるのではないか。自分たちが食べている肉がどのような環境で育っているのかを知ることは大切なことだ。安い肉をたくさん食べることを求めている消費者こそが現代の食肉の大量生産をサポートしているのだ。それはある程度経済が発展して、大量生産力のある南アフリカも日本と同じことなのだ。

お金を出しているから肉が食べられているというエゴは捨てて、

「いただきます。」

と目を閉じて、その食卓に並んだ全ての命に感謝をできるような暮らしができたら、私たちは健やかでもっと豊かに長生きできるのではないだろうか。

The Roast 週末二拠点生活、タイニーハウスで大切な人と極上のコーヒー体験を
月極本3 特集「好きなお金、嫌いなお金。」
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