樽石暮らしを楽しむ〈樽石大学の文化祭編〉

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「樽石暮らしを楽しむ」の第2話は、山形県村山市の山際に位置する樽石という地域で開催された、とあるイベントについてのお話です。まだまだ止めどなく雪が降り続ける3月中旬、村人たちとのとてもたのしい一日を。

家宝が集まる、村の一大イベント!

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樽石地区の村人たちが待ちに待ったイベント 樽石大学の文化祭が、先日「樽石のむがさり」の記事で登場いただいた反町家を会場に行われました。2011年3月に主に東北地方を襲った東日本大震災が起きて以来、自粛の思いから休止していたようですが、今年から再開しようという運びになったそうです。

今回の文化祭の主旨は「家宝の展示」と「お茶会」。お茶の楽しみを知ろう、また、我が家の家宝と呼ばれているものを持ち寄って、みんなで展示・鑑賞しようというものだそうです。

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そもそも樽石大学とはなにかという話になります。それは今から20年ほど前に、樽石地区の村人達が生涯学習をモットーとして立ち上げた市民大学です。誰もが入学することができ全国に学生がいます。また、卒業はありません。

学生には地域の高齢者の方が多いのですが、この辺りのご年配の方が(先日の記事でも触れましたが)皆一様にあかるく、ほがらか。いきいきとされているのは、思うにこの樽石大学の存在が大きいのです。

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学長を務めるのは御年80歳を越える松田清男さん(以下:学長)。若さとバイタリティ、そして機智に富んだナイスガイなおじいちゃんです。もともと教壇で弁をふるわれていましたが、定年を機に樽石大学を設立。以来、人間味とユーモアに溢れる発想をいかし、地域での指導に努めていらっしゃいます。おそらくはこの辺りの地域はもちろんのこと、近隣エリアで知らない人はいない有名人でしょう。

今回の文化祭のアイデアも、むろん学長を中心に樽石大学学生によるもの。だからこそ期待せずにはいられません。僕はこの文化祭へのお誘いメールに対し「はい、行きます!」と、ふたつ返事で現地へと赴きました。

想定外! 貴重な文化遺産が一堂に

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当日、早い時間から会場へお邪魔すると、そこにはすでに多くの参加者たちの姿。地方新聞で紹介されたこともあり、地域の縁者のみならず、他市町村からの参加者も多いようでした。

村人たちの手で屋敷へと運び込まれた貴重な品々(家宝)に目をやると、第一次大戦でご活躍された将校のものと思われる軍服や、まだ写真機が珍しかった頃に撮られた歴史を感じるモノクロームな写真たち。また、絵画や美術品が屋敷のいたるところにディスプレイされていました。おもしろいものでは、江戸の頃に描かれた春画の巻物がありましたが、これが展示部屋の片隅で物議を醸していました。

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「おめぇ、ちょっとメガネかせ。ぎっちと見て勉強さんなねぇ」。そう、参観にきたおじいちゃんグループ内で、笑い声まじりのちょっとした老眼鏡の取り合いがはじまっていたのです。ほのぼのとしたその景色は、僕にとって樽石大学文化祭2014の思い出のひとコマとなっています。

またA1サイズはあるだろう、日本画家小松均氏の見事な鯉や赤富士、最上川を描いた作品が、展示物の中でひときわ異彩をはなっていたようでした。この小さな樽石という地域に、正直これほどのものがコレクションされていたという事実には、正直おどろかされてしまいました。

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ログハウスでの自家製ばくだんつくり

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会場にて皆が家宝鑑賞を楽しむ一方で、車で10分ほど離れた場所にある樽石大学学舎では、ばくだんづくりが行われていました。それはそれはとても平和なばくだんで、昔懐かしいポン菓子でした。

さて、ポン菓子とはなにかと頭を傾げている方のために少々の解説を交えますと、ポン菓子とはいわゆるスナック菓子です。米などの穀物類を鉄管のような装置の中で、圧力をかけながら熱してつくります。できあがりの際、爆発のような音を立てますが、その炸裂音がそのまま商品名となったようです。戦後のなにもなかった時代は、お祭りなどハレの日に振る舞われていたもののようで、当時の子どもたちはなかなかありつくことができない甘味だからと、とても興奮して食べたのだと聞いています。味わいや食感は今で言うシリアルと良く似ていますから、きっと牛乳に浸して食べてもおいしいのかも。僕自身、子どもの頃に食べたことがあるくらいで、二十年以上は口にしていないのですが、はたしてまだ売っているのでしょうかね。子どもの頃は公園でポン菓子を食べながら、ハトに餌付けする光景がよく見られたものですが。

さて、その製造過程ですが、想像以上に怖い! びっくりするほどうるさい! そろそろできあがり(爆発)という頃になると、場に集まっていた学生さんたちがおもむろにガラス窓を開けはじめます。なぜ? と聞けば「爆風でガラスが割れたら嫌だし」と…。

ほどなくして、ドカンッ!! そして場の皆からは「おぉっ!」と歓声があがる。
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瞬間、白い煙があたりに立ちこめ、ばくだんことポン菓子ができあがりました。写真で見えますでしょうか、炸裂して空を舞うポン菓子の粒が? 爆発の瞬間は空気がたしかにふるえ、炸裂音の後にはケラケラという笑い声が学舎の中に響いていました。

この山形県産はえぬきを100%使用した、ちょっとぜいたくなポン菓子は、参観者さんたちへのお土産。僕らは袋詰めをしたポン菓子を両手一杯に抱え込んで、会場へと向かったのです。
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日々の楽しみとして、普段着の茶道講座

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会場に戻ると、大広間に集まっている普段着の村人や参観者さんたちは、普段着のままのお茶会を楽しんでいるようでした。お茶の先生が立てたお茶を、お茶菓子とともにフランクに楽しみながら。お茶の作法は、気持ちよく過ごすためのちょっとした約束ごと。正装かそうでないか、また正座かあぐらかに違いはあっても、少しの約束を守りさえすれば、とても気持ちよくお茶が飲める。

先生の話を聞きながら、僕も一服いただきましたが、極めて固いものかと想像していたお茶会のイメージがよい方向へ壊され、とてもいい経験となりました。「日々是好日(にちにちこれこうにち)」という言葉も教えてもらいましたが、それは日々精一杯に充実して生きることを説いた言葉だそうです。この日は僕にとっての好日、樽石の一日をとても気持ちよく過ごしたのです。
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素敵な文化祭を満喫し、おまけにお昼ごはんにはおむすび(お米が本当においしい!)と自家製のお漬物もいただきすっかり気を良くした僕は、袋いっぱいに詰まったポン菓子を手に帰路へとついたわけです。まだまだ側面しか知らない樽石ですが、もうしばらく時間をかけて、村と周辺の豊かな暮らしについてを綴っていければと思うのです。

エピローグとしての、恋チュン動画撮影@樽石

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文化祭閉幕後の茶飲みの席に、村山市役所さんの撮影クルーが会場にやってきました。元気な村山市をPRするための動画を撮るとのことでした。題材は、昨年YOUTUBEで流行した恋チュン動画。もちろん職員さんはボランティア、しかも休日に撮影で回っているというのだから頭がさがる。

で、踊るのはどなた?

そう、それは樽石大学のじいちゃん達。

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会場はしばしどよめく。「ヘーケービーってなんだ?」「名前おぼえらんねえなぁ」「アクビシッパイ(AKB48)って頭さいれろ」。じいちゃん会議はすみやかに進行し、踊りの振り付け練習へ移行。そして本番に挑むじいちゃんたちは、さしずめTDG75(樽石大学学生、平均年齢75くらい)といったところだろうか。
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撮影は成功するまで幾度となく繰り返されましたが、その一連の動きを通じて楽しそうにされているじいちゃんたちの姿を見て、ここの村人たちが元気な理由を少しだけ垣間見た気がしたのでした。
尚、この日撮影された動画は、初夏までにはYOUTUBEで見られるようになるそうです。気になられた方は、後日Webでお楽しみください。