世界の小さな住まい方

志高きふたりの建築家志望の学生が手掛けた、タイの孤児院「Ole Jørgen Edna’s orphanage」

石井敦子プロフィールアイコン | 2014.12.12
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Soe Ker Tie House, Noh Bo, Tak, Thailand
若いある時期、人は根拠のない自信を持つ。まだ世の中すら良くわかっていないのに「自分は特別な存在なのではないか」とか「自分は人とは何か違うことができるはずだ」と頭と心を熱くした経験はないだろうか。あるいは今まさにそんな思いから、駆け出したい気分に駆られている人もいるかもしれない。

今回ご紹介するのはそんな熱い思いと自信に突き動かされて実際に行動に移した、まだ若い建築家志望の学生たちの話だ。

TYIN_orphanage01
2007年にノルウェイのトロンハイム出身の建築家志望の学生、アンドレアス・エッシェンとヤシャール・ハンスタッドが約2360万円で家のリフォームを行うコンペで受賞した。

「世界には様々な建築手法がある。コストを抑え、通常価格の何分の一かで建物をつくる方法を旅慣れた人たちは目撃してきた。そのような人達は、従来の西洋的な住宅建築の手法に魅力は感じていないんじゃないだろうか。」とハンスタッド。「その土地で意味があるものを作るために、僕たちの持つ知識を使おうと決めたんだ。」とエッシェンが続ける。

この受賞がきっかけでふたりはじっとしていられないような衝動と、人と違う人生を生きたいという願望を強くした。そして古いボートを購入し、TYINと名付けた。ふたりはそこで1年間、共同生活を送り、彼らの建築学的才能を生かすにはどうすればよいかと熟考した。そしてすぐに「海外の貧困地域で必要とされている建物を現地で実践的に提供したい」という目標を持つにいたった。

TYIN_orphanage02
彼らはトロンハイムの中心にボートを係留し、TYIN Tegnestue(tegnestueとはデンマーク語で描画スタジオの意)という名の事務所を開いた。資金を稼ぐために、彼らはTシャツを販売したり、コンサートを企画したりした。さらにノルウェイにある建築事務所すべてに連絡を取り、彼らの計画を説明し寄付を募った。人々はこれに賛同した。「他の建築家の作品に支払うための資金を建築家たちから調達するのがこんなに簡単だとは驚いたよ。」とエッシェンは振り返る。

約1200万円の資金を調達した2008年秋、彼らはタイ西部にあるビルマと接する国境の町ノーボに渡った。そこの住民の大半はカレン族の難民で、ほとんどが子供だった。「まさに僕たちがやりたいプロジェクトだった」とふたりは言う。タイへの訪問からさかのぼること数か月前、ノルウェイのレバンゲール出身のオーレ・ヨルゲン・エドナという、タイで孤児院を2006年から始めている女性と連絡を取り合っていた。彼女はちょうど新しい寮を増やしたいと考えていた矢先だった。最初は24名の子供達のために始めた孤児院も今や人数が増え50名に届かんばかりになっていたからだ。ふたりはノーボに1年間滞在し、孤児院のための住居、図書館、浴場など一連の建物のデザイン、建築をはじめた。

Soe Ker Tie House, Noh Bo, Tak, Thailand By TYIN Tegnestue
Soe Ker Tie House, Noh Bo, Tak, Thailand By TYIN Tegnestue
この孤児院を建設するにあたって、子供たちが難民でなければ享受できていたであろう、より普通の生活を味あわせてあげたいという熱い思いで設計を考えたふたり。この家では子供たちはプライベートなスペースを持ちつつ、みんなで遊んだり、寛いだりできる空間にした。6棟の寝室もそういった思いを反映して考えられた。

Soe Ker Tie House, Noh Bo, Tak, Thailand
Soe Ker Tie House, Noh Bo, Tak, Thailand
Soe Ker Tie House, Noh Bo, Tak, Thailand
Soe Ker Tie House, Noh Bo, Tak, Thailand
これらの棟は作業員たちによってチョウチョハウスと呼ばれている。外壁に使われている竹織り技術は、従来この地域の住居や工芸品にも使われている手法が採用された。使用されている竹の多くは数km離れた場所で刈り取られたものだ。チョウチョ型の屋根は効果的な自然換気を促し、同時に雨水を集めるのにも適している。雨季には雨水を集約することで建物の周りが過剰に雨で濡れることを防ぎ、乾季には雨水を再利用することができる。

Soe Ker Tie House, Noh Bo, Tak, Thailand
Soe Ker Tie House, Noh Bo, Tak, Thailand
鉄木材建築はプレハブだ。現地で妥当な精度と強度を確保し、ボルトを使い、組み立てられた。多くの材料はビルマ側のカレン民族同盟によって届けられ、この熱帯木材への依存のために難しく複雑な問題に対処する必要に迫られたりもした。

棟上げの際も四か所の基礎を古タイヤで保護することで、建設中の水分や腐敗の問題を回避した。半年にわたるノーボ地元建築家との相互学習によって少しでも利用価値のある知識を置き土産にできたらよいと彼らは考えている。建築補強、材料の経済効率化、湿気対策などの知識が今後も生かされ、より持続性のある建築が将来的に増えていくことを彼らは望んでいる。

何がふたりを突き動かすのだろうか?彼らはフィンランドの建築家ユハ二・パーラスマの言葉を引用した。「建築とは、世界を理解し、そこをより意味のある、人間味のある場所にすることだ。」

このふたりの若者の行動力には目を見張るものがある。若い頃の恐れを知らぬ自信は、実はとても大切だということを証明してくれる素晴らしい実例ではないだろうか。今後の二人の活躍に期待していきたい。

Via:
dwell.com
archdaily.com
trondheimkunsthall.com
ntnu.edu

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石井敦子プロフィールアイコン

Writer 石井敦子

世界の小さな住まい方ライター担当。

1970年東京生まれ、鎌倉育ち。幼少から未知の世界を求めて三輪車で近所を徘徊。米国への留学をきっかけに徘徊の規模が世界へと広がる。好奇心旺盛で、異文化への興味は特に強い。お呼びがかかれば、インドの結婚式にも馳せ参じるフットワークの軽さと、虫以外はなんでも食べる食欲がウリ。異国の住民目線の生活を好むため、旅の手段も現地人の家に転がり込む居候型。世界中で家族を増やす計画を実行中。鎌倉在住。好きな言葉「Nothing is useless(人生に無駄な経験なし)」

TW:@azkoishii
HP:Nomad Azko的世界放浪

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