脆弱な社会に警鐘を鳴らす、アメリカ人作家による避難所の集合体「Home in the weeds」

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地震、津波、火山の噴火、台風、洪水、豪雪…。日本でここ数年で起きた自然災害をざっと挙げてもこれだけある。日本列島は火山列島でもあり、同時に台風の通り道でもある。この国は他の地域と比べても圧倒的に自然災害の起きやすいリスクの高い環境条件にある。
考えてみると、いま享受しているこの豊かな暮らしを、いつ災害で失ってもおかしくないほど危険な日本という国に私たちは住んでいる。

そんな災害大国に住む我々にとっても興味深い個展「Home in the weeds」が同じく過去何度も大地震に見舞われたことのある米国カリフォルニア州サンフランシスコで開催された。

ケビン・シルはブルックリンを拠点に活躍するデザイナー兼アーティストだ。過去に彼はショッピングカートの上から必要に応じてテントが飛び出す仕組みになっているキャンピングカー「キャンパーカート」や自転車の後ろにキャンピングカーをつなげた「キャンパーバイク」など人力移動にこだわったビンテージテイストの避難所作品を発表してきた。

彼が今回「Home in the weeds」で発表したのは、将来起こりうる最悪のシナリオのための避難所の集合体である。自転車が動力のトレイラー、羽目板でできたテント、廃材から作られたテント、放射性降下物のための塹壕シェルターなどだ。

「Home in the weeds」はこの社会の脆弱さと切迫しつつある破滅への予感に対するシルのリアクションである。自然災害、失業、ケガやそのほかの不運によって我々の人生は大きく変えられてしまう。そこでシルが探求したかったのは避難所がこれらの激動の時代に人々の心に安らぎを与え得る可能性だ。

「Home in the tweeds」を直訳すると雑草の中の家という意味になる。自然災害でそれまで住んでいた地域や住居から追い出された人々が何もない、のっぱらに急ごしらえの避難所を構える。この個展ではシルはリサイクル品やビンテージ材を最悪な事態の場合の安全な避難所に変貌させた。そして住まい、自己保存、移動性、潜伏性、保護主義への楽観的な概念を探った。

ここでいくつかの作品をご紹介していこう。最初の避難所は、彼の過去の作品「キャンパーカート」や「キャンパーバイク」を彷彿とさせるローリーの三速自転車に引かれたキャンピングカーだ。内部には子供の頃にキャンプ旅行を彷彿とさせるヴィンテージアイテムが取り揃えてある。

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次の作品は移設が可能ながら、不動のキャンバステントだ。内部は羽目板の壁面とフローリングになっており、薪ストーブまである。

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三つ目が、ありあわせの材料で作った掘っ立て小屋だ。これは都市要塞として構想し、同盟国と通信するためのCBラジオが装備され、周囲の様子や武器の装備を確認するためののぞき穴もある。

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最後にご紹介するのが、地下に造られたシェルター、塹壕だ。このシェルターには生存必需品が備わっている。放射性降下物に対する耐性や実用性については不明だが、原発事故を目の当たりにした我々からすると、実に切実な展示のひとつではないだろうか。

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これ以外にもシルは図面、絵画、シルクスクリーンやシェルターの写真などを展示している。これらの補助となる作品によって展示してあるシェルターに込めたメッセージやそこに住む人々のストーリーがより明確に伝わるようになっている。

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自然の驚異の前では我々人間はもろく弱い。そんな当たり前のことを忘れがちな我々に彼の作品が訴えるもの。いかに希望が見えない状況でも手に入れたものでできる限り居心地の良さや心の平安を得るかというのは人間が生き延びるにあたってとても重要なことだ。

つい大きな災害があったことものど元過ぎれば熱さを忘れがちな私たちだが、もう一度あの時に立ち返って足元を見つめる機会となりうるだろうか。「Home in the tweeds」の日本での開催も期待したい。

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