世界の小さな住まい方

旅行熱に浮かされた僕らは厳寒のカナダでキャンパーに住まう「Alex and Marta’s Van Life」

伊藤 愛プロフィールアイコン | 2015.3.15
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2012年、写真と旅を愛するオーストラリアの青年が、前途有望な職を捨て、愛用のカメラを携え一人カナダに渡った。そこで彼を待っていたのは、カナディアン・ロッキーの息を呑むような美しさと、冒険心をくすぐられる岩々、そしてひとりの美しきパートナーと79年式のシボレーのキャンパーだった。

金銭的な豊かさよりも手に入れたかった物とは

オーストラリア出身のAlexは電気技師の職を半年であっさりと捨てた。若さ故の無鉄砲と言えばそれまでだが、日々の単調な繰り返しは彼の肌には馴染まなかった。年に4週間のバケーションも彼のカメラの被写体を求める旅には物足りなく感じられた。Alexに必要なのは高いカメラを手に入れるための収入ではなく、撮影のための自由と時間だった。

Alexは仕事を辞めると祖母のバンを駆り、始めて長期の撮影の旅に出る。オーストラリア東部を予定も決めずに飽きるまでドライブし、景色を眺め続けた。「自分の情熱を受け入れたことで残りの人生が定まった。人生があるべき方向へと流れ始めたんだ。」

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片道切符の行先はカナダ。屹立するカナディアン・ロッキーに魅了される

仕事を辞めて一年が過ぎた頃、Alexはバンクーバー行きの片道切符を手にする。最初の半年間は撮影とカウチ・サーフィン(旅行者などが一般家庭のベッドやソファーなどを寝床として借りること)先での文化的な交流を中心として過ぎていった。日々の生活で必要だと思われる事はとてもシンプルになり、一方で彼の幸せと満足度は日々大きくなっていった。

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旅を続けて所持金が400ドルを切ろうという頃、Alexはカナディアン・ロッキーのキャンモアに辿り着く。そしてたちまちその壮大な山々の景色に心奪われ、写真を撮り続けるためにその地に留まることになる。そこで巡り合ったのが後に彼の旅のパートナーとなるスペイン人のMartaだった。

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MartaもAlex同様、画一的なライフスタイルに違和感を覚えていた一人だ。長らくファッション業界の最先端に身を置き、マドリードで何不自由ない生活を送っていた彼女だったが、自分は本当の意味で幸せではないと感じていた。彼女の情熱の矛先もまた「旅」だったのだ。Martaは仕事を辞め、ワーキングホリデービザを入手すると、一路カナダを目指した。

オンタリオ周辺のファームを転々とするうち、彼女もキャンモアの大自然に導かれ、その抗いがたい魅力の虜となった。カナディアンロッキーにはロッククライミングやボルダリングに適した岩場が多くある。彼女が趣味で始めたロッククライミングを通じて、AlexとMartaは引き寄せられたのだ。

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厳寒の冬のカナダで古いキャンピングカーに住まう小さな生活

キャンモアでの生活も落ち着いてきた今、彼らの夢は夏の間生活のための日銭稼ぎから抜け出し、時間を気にせず旅に出ること、そして冒険と撮影の旅を謳歌する自由を完璧な物とすること。
それには新たな車が必要だ。しかし現在の彼らの収入ではその資金もままならない。そこで月々の出費で一番大きな家賃を削るために二人が思いついたのが、安いRVを買って改装し、冬の間の住まいとする試みだった。

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彼らが「Wayne」と親しみをこめて呼ぶシボレーの古いキャンピングカーは1979年製で、状態の良い物を3,000ドルで入手した。初秋のうちに二週間かけて車内を断熱し、本格的な冬の到来に備えた。厳寒のカナダで車中泊を続けるという、一見無謀にも思える二人の試みは、実のところ上手くいっているようだ。実際Wayneに暮らすようになってから、それまで家賃などに支払っていた費用の約半分の出費で済むようになったという。Wayneを拠点とした彼らの生活はこれまで以上にシンプルになった。

試行錯誤しながらDIYで施した断熱のおかげで、平均で-10℃の外気温にあっても小さな電気ストーブ一つで車内は暖まるようになった。朝方や-20℃を下回るような厳しい冷え込みの際にはプロパンヒーターを投入するだけだ。Wayneにはオーブンとコンロ、冷蔵庫が備え付けてあるので、普段の食事の用意も特に問題はない。

しかし凍結の恐れがある水道管や排水管の断熱は費用やメンテナンスを考えて使用するのを諦めた。かわりに炊事に使う水は外出の際に、1日に必要な2リットル分だけプラスチックボトルに給水し、排水はシンクの端につけた容器に流して一杯になったら外に捨てる。シャワーはボルダリングに通う地域のスポーツセンターで済ませ、洗濯は街のコインランドリーを利用することで貴重な水やエネルギーの節約になっているという。

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二人は以前から折に触れ理想のライフスタイルについて話し合ってきた。クライミング、ハイキング、旅について綴ること、新しい土地を散策すること……、その他は何もいらないとMartaは動画の中で語っている。最近よく耳にする「シンプルに暮らす」という言葉の真意は、まさにこの二人のような生活を言うのだろう。

シンプルに暮らすというのは何も少ない物で暮らすことに限らない。自分の内なる欲求に素直になり、その実現のために見栄や外聞を捨てることで、シンプルな暮らしはますます研ぎ澄まされていく。AlexとMartaは自分たちの情熱を素直に認め、彼らの趣味であるボルダリングのように、無理そうに見えるホールドを果敢に取りに行ったことで、自分たちの理想の暮らしを手中にすることができたのだろう。そこに雄大な自然とチャレンジングな岩がある限り、彼らの旅行熱が冷めることはないのだ。

(文=伊藤愛)

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Via:
workingonadream
fstoppers.com

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伊藤 愛プロフィールアイコン

Writer 伊藤 愛

1975年、北海道羊蹄山麓の雪深い町に生まれる。
半ミニマリスト的生活を送る中で小さな家に興味を抱く。
元々美しい家やインテリアが三度の飯よりも好き。

学生時代訪れたイギリスで古い建築が市井の人々の生活の場として機能していることに感銘を受ける。
そのノリで札幌市郊外の中古住宅に住み、真夜中に突如思いつきで家のペイントを始める「ゲリラ的DIY」を敢行するも、
往々にしてあまりに微妙過ぎて家族にも気付かれていない。

そんな生活から一変、降って湧いた引っ越しで持ち家や車を手放すと、人生一度きりという言葉がリアルに迫ってきた。
今では美しい風景を求めて旅に出たいとウズウズする毎日。

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