世界の小さな住まい方

電子機器はほぼゼロ、スローな子育てを楽しむ家「The Unplugged Home」

伊藤 愛プロフィールアイコン | 2015.3.27
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日進月歩で進化するテクノロジーは、現代に生きる私たちの生活を格段に便利に変えてくれました。しかもそれは年を追うごとに加速度を増していくようです。面倒なこと、疲れることは最新の家電にお任せ。テレビゲームやスマホなどのアプリは外に出なくても楽しいことをどんどん提供してくれます。今や人間同士の会話や感情表現も、メールやライン、SNSを通して交わされることが多いのではないでしょうか?

今日ご紹介するサンフランシスコのLaura Wegman さんと Donovan Corlissさんのご自宅は「イマドキ」の感覚からすると、訪れた人たちは少しだけ面喰ってしまうかもしれません。なぜならテレビやゲーム、PC、タブレットやスマホなど、今やどんなお宅でも当たり前に見かける電子機器の類がこの家ではほとんど見当たらないのです。理由は簡単、Lauraさんと Donovanさんは自分たちの家を「テクノロジーフリー」な場所にしたかったからです。

もともとローテクなライフスタイルを志向していたLauraさんと Donovanさんですが、長男のEzraくんの誕生により、その傾向はますます強くなっていきました。発達段階にある幼い子供たちの心に、現代のテクノロジーが与える影響を考えた時、二人は自分の子供たちには手で触れる感覚と、何かに夢中になる子供時代が送れる環境を望みました。

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子供たちが「手で触れる感覚」を重視するこのお宅のキッチンにあるのは、手動のアイスクリームメーカーやハンドプレスのジューサー。パンケーキも昔ながらの道具を使って小麦から挽いて手作りします。冷蔵庫や食器洗浄機、コンロなどの家電や設備はLEDの表示パネルがないごくシンプルな物。小型のキッチン家電が見当たらないので、たくさんの電気コードでごちゃごちゃしがちなキッチンカウンターも、こちらのお宅ではとても広々と使われています。

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Lauraさんのお手伝いをする次男のLevくん。パン作りもホームベーカリーは使わず手でこねオーブンで焼きます。キッチンの壁に貼られた大きな世界地図は家のアートと子供たちの地理の教材を兼ねています。

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その他には家の電話もネットオークションで見つけたレトロなダイヤル式、主寝室では年代物のラジオクロックを愛用するなど、一見すると古道具の収集が趣味のお宅と勘違いしてしまいそうですが、全て実際に使用している物なのです。

EzraくんとLevくんの遊びやおもちゃにしても、どこか郷愁を誘われる物ばかり。テレビゲームの代わりに家族でボードゲームやカードゲームに興じたり、ビー玉ころがしや木製の列車など、ずっと昔から作られてきた素朴なおもちゃが並びます。

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また両親の意向をよく反映している空間として、二階には彼らがアートスタジオと呼ぶ二つの部屋があります。一つはオーガニックにこだわったベッドリネンやタオルなどのホームテキスタイルブランド「Coyuchi」のデザインディレクターであるLauraさんの仕事部屋、もう一つはイマジネーションをくすぐるアートの材料が豊富にストックされたEzraくんとLevくんの子供部屋。そこから誕生した子供たちのアート作品は、家のそこかしこにさりげなくディスプレーされ、ともすると殺風景に映ってしまうシンプルなお部屋に、いきいきとした躍動感を与えています。

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けれどもLauraさんと Donovanさんはガチガチの「ローテク主義者」ではありません。子供たちの前では極力使用しないように努めてはいるものの、グーグルマップを検索したり航空券を予約する時などは、二人ともそれぞれのノートパソコンやキッチンの引き出しにまとめているiPhoneを使います。普段はクローゼットの中に丁重に(?)しまわれているテレビも、自称「オリンピックジャンキー」のLauraさんによって、クローゼットの所定位置から二年に一回は引っ張り出され、観戦を楽しんでいる模様。

テクノロジーの発達により、結果や答えにいたるプロセスに人間が関わることがなくなると、これまで無駄だと思われていた時間や苦労からは解放されました。しかし小さな子供たちにとっては、一足とびに結末や成果にたどり着くことで、試行錯誤する体験や何かを成し遂げる大変さ、してもらったことに対する感謝の気持ち、待っている間のドキドキ、ワクワクした気持ちなどを経験する機会は少なくなります。あまりに便利すぎる現代では、大人たちも含め、子供たちが幸せだと感じる沸点が皮肉にもどんどんと高くなっていくようです。

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子供が子供でいられる時期というのは、振り返ってみると実はとても短いもの。いずれ彼らが自分で必要なテクノロジーを取捨選択できるようになるまでは、ローテクをあえて日々の子育てに取り入れ、楽しむのも悪くはないでしょう。

時には大人も一からパン作りに挑戦したり、段ボールで誰が素敵なおうちを作れるか子供たちと競争したり、お弁当を持ってサイクリングに出かけてみるのもいいかもしれません。パパやママが笑顔なら、特別ではない日常の遊びやイベントの風景が、子供時代の懐かしい幸せな記憶として、大人になった彼らの心を照らし続けるのではないでしょうか。

(文=伊藤愛)

Via:sunset.com

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伊藤 愛プロフィールアイコン

Writer 伊藤 愛

1975年、北海道羊蹄山麓の雪深い町に生まれる。
半ミニマリスト的生活を送る中で小さな家に興味を抱く。
元々美しい家やインテリアが三度の飯よりも好き。

学生時代訪れたイギリスで古い建築が市井の人々の生活の場として機能していることに感銘を受ける。
そのノリで札幌市郊外の中古住宅に住み、真夜中に突如思いつきで家のペイントを始める「ゲリラ的DIY」を敢行するも、
往々にしてあまりに微妙過ぎて家族にも気付かれていない。

そんな生活から一変、降って湧いた引っ越しで持ち家や車を手放すと、人生一度きりという言葉がリアルに迫ってきた。
今では美しい風景を求めて旅に出たいとウズウズする毎日。

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