北京の下町に交流の場を再生する、小さくて大きな挑戦「Micro Hutong」

(c) Wu Qingshan

瓦屋根の向こうに、にょきにょき突き出している煙突みたいな物は何でしょう?そして、まるで空中に浮かんでいるような、このガラス張りの建物は?

(c) Wu Qingshan

ここは中国の首都、北京。近代的な高層ビルが並び立つ大都市の足元に、昔ながらの風情を伝える「胡同(フートン)」と呼ばれる路地が残っています。このモダンな建物は、胡同の一角に建てられたホステル(ゲストハウス)です。

北京っ子の心のふるさと、「胡同(フートン)」とは

近年、北京の観光スポットとしても人気だという「胡同」、いったいどんなところでしょうか?
その昔、胡同には、「四合院」という中国の伝統的家屋の建築様式で建てられた家が立ち並んでいました。四角い中庭を囲んで東西南北に、細長い4棟の建物が配置されています。これらの建物は、通りに面した門だけで街とつながっていて、門を閉じれば家内安全、というわけです。元々は1つの四合院に家長一家と長男・二男一家にその使用人、といった家族で住んでいたそうですが、時代が下るにつれ、家族に限らずさまざまな人が入居する集合住宅として使われるようになりました。

(c) Wang Ziling
(c) Wu Qingshan

四合院は古くは元の時代から始まったといわれる、たいへん歴史のある様式の建物です。しかし、近代化の波にはあらがえず、その多くが取り壊され高層ビルになっていきました。そんな流れの中でも、歴史と伝統ある街並みや暮らしを残したいという人々の願いと努力によって、近年その価値が見直されています。

ただ、胡同の伝統的な家は、老朽化に加えて、水回りや採光、プライバシーなどの点で、今風の暮らしに慣れた人には住みにくいという声もあります。胡同のにぎわいを再現するには、建物のありかたをどうすべきか、工夫も必要なようです。

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設計事務所ZAO/standardarchitectureの挑戦

このホステルをデザインした北京の設計事務所ZAO/standardarchitectureは、伝統の精神を引き継ぎつつ、建物自体はモダンに再構築することで、胡同の保存と活性化に取り組んでいます。このホステルの設計にあたっては、胡同の果たしてきたコミュニティとしての機能に着目しました。

家や街並みは、人々の暮らし方や、その地域のコミュニティの形成と密接な関係があります。胡同に住んでいた人々が高層ビルへ移転したことで、中庭を囲み、時には炊事場を共有して肩寄せ合って暮らしていたコミュニティは失われてしまいました。今回ZAO/standardarchitectureがチャレンジしたのは、都市の中に、人々の交流の場を取り戻すこと。しかもそれを、最小限のスペースで実現することです。そうして設計されたのが、北京を訪れる旅人と現地の人が交流できる場を備えた、30平方メートル(約9坪)のこのホステルでした。

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まずはホステル全体がどんな構成になっているか見てみましょう。中庭の3方はぐるりと回廊で囲まれ、小路に面した門はゆったりとしたオープンスペースになっています。2階建てで、1階に2室、2階に3室ある部屋はそれぞれ互い違いに配され、中庭に大きく突き出しています。言葉で説明すると、ちょっとややこしいですね。平面図と断面図で確認してみましょう。

ホステルの中を拝見

ホステルの敷地内はどうなっているでしょうか。路地から中庭に続く入口部分は、ゆったりとしたオープンスペースになっていて、ホステルに泊まる旅行者だけでなく、地元の街の人にも開放されています。世界中から北京を訪れる旅人と地元の街の人々が交流できるスペースとして活用してもらうことができます。

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奥へ進むと、明るい中庭に入ります。すると、ホステル本体として使われる、不思議な建物が見えてきます。
各部屋の中庭に面した壁は全面ガラス張りなので、眺望と採光は抜群。大喜びで写真を撮っているのは、遠来の旅人でしょうか、それとも地元北京っ子でしょうか。外にいる人に手を振ったりして、これは楽しそうですね。

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中庭から路地方面に振り返ると、下の写真のような感じです。ホステル入口のオープンスペースが、非日常的でちょっと異世界風な宿泊スペースと、現実世界の日常の街の暮らしとの間をつなぐトンネルのようです。ここでの偶然の出会いから、なにか面白いことが始まるかもしれませんね。

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建物の中に入ってみましょう。板状のコンクリートでできた建物の廊下は迷路のようで、冒険心がくすぐられます。はしごを登って2階へ上ります。2階の採光は壁面窓と、上部の明かり取りから。冒頭の写真でにょきにょき飛び出していた謎の物体の正体は、明かり取り用の窓だったのですね。部屋の大きな窓からの眺望も素晴らしいです。1階バスルームの中まで丸見えなのはご愛嬌?(きっと、使用中はカーテンなど使うのでしょうね)

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ちょっと不思議なこのホステルに、行ってみたくなりましたか?もしそうなら、小さなスペースに大きな心意気を込めたZAO/standardarchitectureの挑戦は、大成功かもしれませんね。

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Via:
ZAO/standardarchitecture
Micro Hutong, Beijing 微胡同
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