ストレスフルな社会から脱出するためのスモールハウス。現代の方舟「Ark Shelter」

via: http://ark-shelter.com

ここはベルギーの代表的な観光都市、ブルージュの郊外。この場所を訪れる人は皆、シンプルで洗練された、直方体の建物が印象に残るはずだ。いや、これは建物というより……箱?

箱に見えるのもそのはず、この建物の名前は「Ark Shelter」。Arkといえば、特に西洋社会では旧約聖書に登場する伝説の方舟(はこぶね)をイメージする人も多いはず。大洪水から古代の人々を守った方舟よろしく、慌ただしくてストレスフルな社会から現代人を救出するために設計されたのが、この現代の方舟というわけだ。

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Ark Shelterの設計者は、Michiel De Backer、Jakub Senkowski、MartinMikovčák という3人の建築家学生たち。彼らのテーマは、自然を取り入れた生活を通して、人々が自分たちに必要な休息を手に入れること。このモダンなプレハブには、そのための仕掛けがいくつも施されている。

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真っ先に目につくのは、壁の一面をそっくり切り落としたかのような開放的な窓。両サイドのデッキを降ろして広々したアコーディオンドアを開け放てば、室内がまるで自然の延長線になったように感じることができる。

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もちろんプライバシーがほしいときは、270°回転する両開きの外壁で窓を覆い、収納式のデッキを跳ね上げることもできる。それでも部屋の中が真っ暗になるということはない。意図的に開けられた外壁のスリットから、印象的なインテリアのように自然光が差し込んでくるのだから、なんて粋なんだろう。

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シンプルで洗練された建物を構成する素材も印象的。耐久性のあるパインウッドの外壁は、ブラックオイルを3度塗りすることで落ち着いた色合いになり、周囲の自然に見事に溶け込んでいる。このあたり、日本の侘び寂びにも通じそうだ。一方の内装には壁から床、そして天井に至るまで明るい無垢の木肌が活かされていて、明るく居心地のいい雰囲気を作り出している。おまけにこのトイレの素敵さといったら……。

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テーブルなどの家具や建具には内装と同じ木材が使われていて、ミニマルな雰囲気がいっそう強調されている。それでもチェアやベッドベンチに施されたブラックレザーや、ライトグレーのマットレス、そしてワンルームの空間を「リビングルーム」と「ベッドルーム」に分ける黒い円筒形の暖炉からは、控えめな洒落っ気とセンスの良さがひしひしと伝わってくる。

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さて、このあたりでArk Shelterを「方舟」たらしめている決定的な2つの特徴を紹介しようと思う。

一つ目は、このArk Shelterには一般的な建物に不可欠な固定基礎が必要ないということ。このため湖畔でも草原でも森のなかでも、(トラックに載せて運べるところなら)居住者がイメージするあらゆる場所に移動し設置することができる。そう、まるで海原を漂う方舟そのものだ。

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二つ目は、電気や上下水道など外部のインフラに依存しない、自立した設計になっていること。必要な電気は風力や太陽光から、飲水や生活用水は雨水や循環ろ過システムによって、それぞれ自給することができる。トイレは通常の下水道につなぐこともできるけれど、浄化槽やケミカルトイレにも対応可能。というより、そのほうが方舟らしい。ちなみに暖房は、雰囲気たっぷりの薪ストーブ。なんて贅沢!

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都会の生活に少し疲れてしまったら、このArk Shelterに乗り込んで休息してみるのはいかがだろうか?そのために必要なのは、3.2メートル×9.2メートルの方舟を設置するスペースと、59,000ドル(約650万円)のお金、そして自然と静寂を愛する心だけ。

ちなみにモジュール式の構造になっているため、必要なら複数のArk Shelterを組み合わせて設置することもできる。といっても連結式の方舟なんて、ちょっと「らしくない」かも。やっぱり潔く、最小限の構成でミニマルライフを楽しむのが一番しあわせなのかもしれない。

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