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【特集コラム】第3回:「夏の家」にも地域性はある?北欧の巨匠建築家と世界の「夏の家」

田村千夏プロフィールアイコン | 2014.9.13
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北欧の「夏の家(サマーハウス)」を切り口に、豊かな暮らしとは何かを考えていくこの連載。
第2回では、スウェーデンのものを中心に「夏の家」のさまざまな建築タイプについて見てきました。

「北欧の『夏の家』」と一括りに捉えていますが、その地域差、例えばスェーデンとフィンランドとデンマークで「夏の家」スタイルに違いはあるのでしょうか?
また、北欧以外の国にも「夏の家」がありますが、気候風土が違うのですから、やはり建築タイプやスタイルにも違いがあるのでは?
第3回では、「夏の家」がどのように地域性を反映しているか、気候風土や文化との関係を探って行きたいと思います。

巨匠建築家たちの「夏の家」に見る地域差

スェーデンとフィンランドとデンマークには、それぞれその土地を代表する巨匠建築家が建てた有名な「夏の家」があります。

スウェーデンは、「エリック・グンナー・アスプルンド(1885-1940)」
フィンランドは、「アルヴァ・アアルト(1898-1976)」
デンマークは、「アルネ・ヤコブセン(1902-1971)」です。
それぞれが設計した「夏の家」を見てみると、作風の違いの中に、地域性のヒントも見えてくるのではないでしょうか。

■E.G.Asplund´s Summer House,1937
ストックホルム郊外に建つアスプルンドの「夏の家」は、伝統的な農家のイメージを、モダンな白い住宅へと展開させた素朴な家です。
リビング棟と居室棟の2棟があり、湖畔の眺望を得られるように角度を振って置かれています。敷地の高低差に合わせて4つの床レベルが設けられ、それらが緩やかに連続する構成です。

リビングの中心的存在の暖炉は、伝統的な農家のかまどのイメージを取り込んでいると言われています。
エントランスとなる外部テラスには長い庇がかかっていて、アスプルンド自身もここに座って日光浴を楽しんでいたとか。また、ダイニングや寝室、子ども部屋など各部屋とも東側に窓があり、朝日が差し込む明るい空間です。

©Yokio Yoshimura Japan

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©Yokio Yoshimura Japan

 

■MUURATSALON KOETALO,1954
アアルトの「夏の家」は、フィンランドのムーラッツァロ島の高い木立に囲まれた岩盤の上に建っています。煉瓦造の母屋と木造のゲストルームがあり、少し離れたところに増築されたサウナがあります。

コエ・タロ(実験住宅)と名がついているように、アアルトはこの住宅自体を実験の場として、さまざまな建築的試みを行っていました。ゲストルームを基礎のない構造としたり、さまざまな色や大きさや質感の煉瓦を中庭の床や壁に張るなど、実験の跡が随所に現れています。
母屋の建物は、正方形の中庭を囲むようにL字形に置かれているのですが、これはフィンランドの伝統的な農家トゥパ(食堂と居間と台所がひとつになった部屋)に着想を得ているそうです。

サウナがあるのもフィンランドならでは。フィンランドでは、サウナは人びとのカジュアルな交流の場として楽しまれています。コエタロのサウナは伝統的なフィンランド式で、屋根は芝生や草で覆われています。サウナで汗をかいた後は、そのまま湖に飛び込むのだとか。とっても気持ち良さそうですね。

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■JACOBSEN’S SUMMER HOUSE,1938
この家は、シェラン島北部の、白い砂浜近くの別荘地に建っています。
コペンハーゲンからのアクセスがとても悪いこの場所は、ヤコブセンが日常から離れるのにベストな場所だったのかもしれません。

この「夏の家」は、1973年に建てられたアスプルンドの「夏の家」に影響を受けていると言われていますが、同様に自然環境に合わせ、地域に根差した建築が意識されています。カーブを描く2階建ての外観は、海風を受けるための機能的なデザインであり、同時に外部空間を円弧の内側と外側で分けて、家族の団らんのための空間とバックヤードに使い分けています。

1階にダイニングやキッチンがあり、2階にリビングがあります。リビングの2つの窓からは、それぞれ異なる角度から周囲の自然の風景を楽しむことができます。

©Kira Ursem

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■SUMMER HOUSE FOR KOKFELT,1956
また、ヤコブセンは後年、クライアントのために「夏の家」をつくっています。こちらは1938年のものと違い、モダニズムの流行を反映した、大きな窓を設けたボックス状の家です。
引き戸の窓を開けると、テラスの先に海が見えてとても開放感があります。パステル調のカラフルな内観が軽やかな印象をつくり出しています。

©space OHARA

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巨匠建築家たちの「夏の家」を比較すると、それぞれの設計思想や好みの違いはあるにせよ、その土地の伝統的な様式を引用するなど、地域性や周辺環境との繋がりが意識されています。
それによって、農家風であったりサウナ付きであったり眺望重視であったり、それぞれの風土を意識した「夏の家」スタイルが生み出されたと言えるのではないでしょうか。

北欧以外の「夏の家」スタイルとは?

北欧の巨匠建築家たちがこだわりを持って独特の設計をしていたように、北欧では、厳しく長い冬を乗り越えた後にやってくる短い夏を満喫するため、家族で過ごす生活の場としての「夏の家」に思い入れが感じられます。
さて、それでは北欧以外の地域にはどのような「夏の家」があるのでしょうか?

■Big Shadow – summer house
ブルガリアの南東、黒海に近い地域に建つ「夏の家」です。
寝室とサニタリースペースの他は、キッチンやリビングなどすべて外部と繋がる開放的なテラスになっています。地元の建築の伝統や工業を意識して設計され、夏のみの使用を前提として機能もプランもシンプル。壁の黒い塗料は、夏のまぶしい日差しの中でも家の中の人の動きが分かるように意図されているそうです。

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via:http://www.worldbuildingsdirectory.com/
■Building a Summer House in Iceland
こちらはアイスランドの「夏の家」。2層吹き抜けのリビングはガラス面で囲まれていて明るく開放的です。
アイスランドの気候は特殊で、夏の間は日の出から日の入りまで21時間もあります。寝室の窓が小さくなっているのは、そうした環境でぐっすり眠るための工夫だそうです。

また、アイスランドでは地熱を利用して家のエネルギーまかなうのが一般的で、この「夏の家」でも温泉の水を暖房に利用したり、温泉の蒸気によって電気をつくり出したりしています。

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via:http://online.wsj.com/
■Summer House / Khachaturian Architects
こちらはロシアのモスクワに建つ「夏の家」。気候が厳しいイメージのモスクワですが、夏は最高気温が24℃くらい。この「夏の家」は、夏限定の多機能スペースとしてつくれました。
建物を覆う自然木を使ったルーバーは、それ自体が構造になっていて、周辺の工業エリア側へは遮蔽的機能を持たせ、豊かな自然側へは空間を開放しています。屋根と壁面の一部にはポリカーボネートを張っています。一日を通して太陽の動きと共にさまざまな光と影の変化を楽しめる空間です。

©Artur Khachaturian

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via:http://www.archdaily.com/
■ロシアの農地付き別荘「ダーチャ」
また、ロシアの「夏の家」というと、「ダーチャ」と呼ばれる農地付き別荘が有名です。農作物をつくったり家畜を育てながら自給自足の生活を楽しむスタイルです。建築タイプはさまざまで、小さな小屋風のものから年中住める大きなものまであります。
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via:http://rbth.com/
調べてみると、世界で「夏の家(summer house)」と呼ばれているものには、庭に建てる小屋のようなものから、リゾート地の豪邸別荘、ホテルやコンドミニアムのようなものまで多種多様なものがあります。つまり「夏の家」は、気候風土や地域特性を反映しながら、文化的背景によってさまざまに解釈され、広く展開されているといえます。

日本で暮らす私たちには、どのような「夏の家」があり得るでしょうか?
いよいよ最終回となる第4回では、日本の状況を整理しつつ、日本で豊かな暮らしを手に入れるためにどのような可能性があるかを考えていきたいと思います。

[参考]
Hokuo Book アアルト夏の家
Alvar Aalto Museum
グンナール・アスプルンド
Gallery 9 – Summer Place Steninge 1936 – 1939
ARNE JACOBSEN’S OWN SUMMERHOUSE
BILLEDSERIE: Se Arne Jacobsens sommerhus fra 1937
・「北欧モダンハウス 建築家が愛した自邸と別荘」 和田菜穂子著 学芸出版社

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田村千夏プロフィールアイコン

Writer 田村千夏

たむらちなつ。東京在住、出版社勤務を経てフリー。

大学で建築設計を学び、建築をつくることだけでなく、建築や街ができるプロセスや、そこに関わる人々の手痕を伝える編集的な仕事に惹かれる。
もっと建築の可能性を探っていきたいという思いから「未来の住まい方会議」に参加。

近年中に地方へ移住を計画中。地方に軸足を置いた活動の広がりや、地方から発信していくことにも興味がある。

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