【インタビュー】カナダにある球体ツリーハウス「Free Spirit Spheres」に行ってきた

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カナダの西側にあるバンクーバー島の森の中にある球体ツリーハウス「Free Spirit Spheres」。はじめて世界から注目されたのは10年前のこと。雑誌で紹介されたことがきっかけでしたが、今だに世界各国からのメディアや観光客から注目を集め続けています。YADOKARIでも過去に「森の中の丸い宙ぶらりん」という記事で紹介されています。

「丸くて珍しいツリーハウス」というだけで、こんなに多くのメディアや人々に注目されるのでしょうか? 実際に「Free Spirit Spheres 」を作ったトムさんにツリーハウスができるまでのエピソードとツリーハウスの魅力についてお話を伺いました。

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―このツリーハウスを作ろうと思ったきっかけを教えてください。

実は、最初はヨットを作ろうと思っていたんです。30代の頃、モーター無しのヨットで風まかせに気ままに6年間ほど世界中を旅していました。途中で何度も流木にぶつかり、その度ヨットが壊れて修理しなくてはならなかったんです。そこで、どうしたら流木にぶつかっても壊れないヨットが作れるのだろうか?と思うようになったことが球体ツリーハウスをを作るきっかけになりました。

どんな形にしたらいいかといろいろ考えたのですが、なかなか思いつかなくて……。でも、諦めかけていたときにフランス人の海洋学者Jaque Coustouという人が、不可能だと言われていた有人深海潜水艦を作り話題になっていました。その潜水艦の形が楕円形をしていてピンときたんです。「楕円形に何かヒントがあるに違いない」ってね。

例えば妊婦さんのお腹とか胡桃とか卵とか、全て丸い形をしています。丸い形だから赤ちゃんや種は守られているということに気づいたんです。もしかしたら丸い形のヨットなら流木にぶつかっても大丈夫なのではないかと思い、丸い形で作ることを決めました。

―ヨットとツリーハウスには共通点が全くないように思うのですが、どうしてツリーハウスを作ることになったのでしょうか?

丸い形のヨットを塗装をすると、転がってしまうのでとても作業がしにくかったんですね。作業をしやすくするために、天井にロープを掛けて吊るして作業することを思いついたんです。その作業中に、片方のロープが切れて球体が壁に衝突するという事故が起きてしまったんです。完全に壊れてしまったと思ったのですが、全くの無傷だったんです。そのときに球体を木に吊るすことをひらめきました。

その後、4年の歳月を経て球体のツリーハウスは完成し、トムさん自身が3年間住むことになったそうです。

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―球体ツリーハウスは釘を使っていないそうですが、どのようにして木に吊るされているのですか?

Bio Mimicry(生物模倣技術)の考え方から蜘蛛の巣をお手本にして、3本の木に蜘蛛の巣のようにロープをかけて吊るしています。

僕は小さい時から自然が大好きで、大学ではバイオロジーを勉強して、それからエンジニアとして工場からでた汚水を浄化して自然に流すという仕事をしていました。自然を壊さないようにして自然を守ることは僕の中では常に大切にしていること。そのためにいろいろな工夫をしています。ツリーハウスを支えている木に釘を打ち込んでいないのも、その工夫の一つです。

―ツリーハウスが揺れて怖くないですか?

ハウスを吊るした直後は、重さで吊るしている木が傾きハウスはひずみます。けれど、2、3カ月もするとひずみも木の傾きもなくなり、木がハウスの重みをアジャストしてくれて、しっかりハウスを抱えてくれています。自然の力はすごいでしょう。10年以上の間にたくさんの方に宿泊していただいていますが、事故は一度も起きたことはありませんよ。

もちろん、木に吊られているだけなので、ゆらゆら揺れますよ。身体を動かすたびに揺れますし、風が吹いても揺れます。この揺れが木と一体にになった感じでなんとも心地良いんですよ。風が強い日に宿泊すると、とっても心地いいんですよ(笑)

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―ツリーハウスを作っている中、一番大変だったことはありますか?

球体という形は角もないし直線もないので、隙間ができないようにできるだけ細いピースにしなくてはなりません。木製で作っていたので、木のクセによってなかなか同じピースが作れないときもあって、本当に難しい作業でした。中でも開閉する入り口のドアを隙間なくぴったりはまるように作ることは、とても難しかったですね。結局、ヒンジも自分で作りましたよ。いつの間にか挑戦者になった気持ちでもくもくと作り続けていました。結局、完成までに約8000時間がかかってしまいました。

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―トムさんはこれからこのツリーハウスをどのように活用していこうと思っていますか?

今は、3つのツリーハウスしかありませんが、もっとたくさんの人が泊まれることができるような大きな森に移り、「light footprint」(=自然の中に足あとを残さない、自然を破壊しない)な宿泊施設として、ここで自然観察と体験をしながらその仕組みを学んだり、動物や自然環境の保護を伝えていきたいと思っています。

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球体ツリーハウスに宿泊する人の多くは球体のツリーハウスを目当てに訪れますが、アットホームなホスピタリティーを目的に訪れる人も少なくありません。

部屋には、フルーツとスナック、ドリンクがたくさん入ったバスケットが置かれ、手書きのメッセージカードが添えられています。別棟には、清潔なシャワールームとサウナ、簡単な料理ができるキッチンが完備されています。宿泊客に退屈させないために、外にはフリスビーを使ったゲーム場があり、トイレ内には色鉛筆が置かれて落書きが自由にできるようになっており、至るところにトムさんの細やかな心遣いを感じます。この不思議な世界とホスピタリティーに魅了されて、毎年のように訪れる方も多いのだそうです。

ちなみに、今回、トムさんのご好意で宿泊体験をさせていただくことができました。「木に身を預ける」のははじめての体験でした。揺れるのは怖いと思っていたのではじめは少し不安でしたが、風が吹くと静かに揺れる感覚はどこかホッとするような気持ちになりました。

日本から訪れる人も少なくないというこの不思議な球体ツリーハウス。カナダにお越しの際は、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

協力:Free Spirit Spheres

文:Naoko Jokoji