【特集コラム】住宅不足もなんのその!ソリューションとしてのタイニーハウス|オランダとタイニーハウス

Via: Airbnb.com

みなさま、こんにちは。「オランダとタイニーハウス」連載の3回目でございます。1回目で主にオランダの風土と国民の気質、2回目ではタイニーハウスに関する過去の取り組みに関して書かせていただきました。続く今回は、オランダにおけるさまざまなタイニーハウスに関する取り組みに関してお話ししたいと思います。

運河とともに生きる人々

オランダの国土は約4万1000km²で、日本の九州とほぼ同じ大きさ。そこに約1700万人(2016年現在)が住んでいると言われています。人口密度は504人/km²、最も過密なデンハーグは6344人/km²だと言われています。ちなみに日本は全体で343人/km²、東京都が6168人/km²なのだとか。オランダでは、日本よりも狭い国土に人が密集していることが、数字からもお分かりいただけると思います。

そういう訳で、住宅不足は常にオランダにとって頭の痛い問題。けれど、試みあるオランダ人は、あの手この手でその住宅事情にも取り組んでいます。

Via: Airbnb.com

まず解決方法の筆頭としてあげられるのが、ハウスボートの存在。オランダでは、あちらこちらの運河にたくさんのハウスボート(woonschip)が停泊しています。これは好き勝手に停めているわけではなく、ボートの持ち主は自治体に正規の住所(停泊する場所)を登録します。電気や上下水道も引けるので、地上と変わらない生活が送れるのだとか。正規の家として認められているので、郵便物もきちんと配達してくれるそうです。

Via: Airbnb.com

奥行約4m、長さ16m程度が標準サイズのようです。そのまま船の形をしているハウスボートばかりではなく、一見すると普通の家のようにも見える箱型ハウスボートもあります。

首都アムステルダム市には、建物は所有できても、市に高い税金を払ってその土地を借りなければならないという法律があります。ハウスボート居住者は固定資産税が免除されるため、入居希望者は後を絶ちません。アムステルダムだけで約2500隻のハウスボートが存在すると言われています。さすが運河とともに発展してきた国民ですね。

しかし、残念ながら、数年前から新規の係留許可が政府から降りなくなってしまったため、今あるハウスボートの範囲内で売買や賃貸をしなくてはいけないとのこと。ハウスボート専門の不動産仲介業者も存在するので、その人気のほどがうかがえます。

Via: Airbnb.com

運河といえば、こんなに魅力的なタイニーハウスもあります。運河にかかる橋の下のスペースを使ったカナルハウスです。

Via: Airbnb.com

オランダ人はもともと川辺でピクニックしたりすることが大好きな国民なので、こういうタイプの家もたまらないのではないでしょうか。もちろん、上下水道などのライフラインもしっかり確保されています。

注目を集めるグレーゾーンのユルト生活

そしてそういう住宅不足は必然的に売り手市場、住宅の価格上昇という事態になっています。市場に出ている物件価格を調べるサイトによると、現在のオランダで売りに出されている物件の平均価格は約33万ユーロ(平均面積136㎡)、アムステルダムの平均価格は約55万ユーロ(平均面積155㎡)なのだとか。2016年4月現在で1ユーロ122円程度なので、平均でも4000万円から7000万円ほどかかるということ。オランダの銀行INGもこの価格高騰の傾向は当分変わることはないだろうと分析しています。

Via: trakke.co.uk

そんな中、にわかに注目を集めだしたのが6000ユーロから売り出されているユルト居住用の土地です。ユルトとはモンゴルの遊牧民が暮らすテントのような組み立て式住居のこと。売り出されている土地面積は、概ね50㎡以下のものが多いようです。

現在オランダでは700世帯ほどがユルトで暮らしているといわれています。オランダでは、テント生活に関する法律の詳細が確立されていないので、ユルト居住はグレーゾーン。市町村によって対応が分かれるようですが、自治体によっては約20〜30軒の小さな住宅が集合するエリアを作るための土地を用意しているところもあるのだとか。そしてもちろん、土地代を支払えばガスや上下水道、電気などのライフラインを確保することも可能だそう。

しかし、ユルト居住区の治安悪化を不安視する周辺住人や、悪天候などから住人の保護が不十分であると主張する政治家も少なくありません。

Via: trakke.co.uk
Via: trakke.co.uk

これは、以前「未来住まい方会議」の記事でもご紹介していた英スコットランドで作られている素敵なユルト。こういう素敵でしっかりしたユルトなら、悪天候にも耐えられそうですし、犯罪に走ったりしないと思うのですが・・・・・・。現在の「グレーゾーン」が合法化していくかどうか、今後の動向にも注目していきたいですね。

アムステルダムの巨大なコンテナハウスの学生寮

(c)Roxanne Schultz
(c)Roxanne Schultz

そして最後にご紹介したいのは、アムステルダムにある巨大な学生寮。

(c)Roxanne Schultz
(c)Roxanne Schultz

実はここ、すべてコンテナハウスなんです! 現在1000人以上の学生が入居しているそうですが、筆者知人の娘さんロクサーナさんが入居されているので、簡単なインタビューに応えていただきました。ロクサーナさんはアムステルダムの大学でビジネス経済学を専攻されている大学生。横幅2,5m、床面積25 m2の部屋お住いの彼女に、普段見ることのできないコンテナハウスの生活を紹介してもらいましょう。

—-お部屋を見せていただけますか?

ロクサーナ(以下R):どうぞ!

(c)Roxanne Schultz
(c)Roxanne Schultz

入ってすぐのところには、ミニキッチンとダイニングスペースがあり、

(c)Roxanne Schultz
(c)Roxanne Schultz

バスルームを挟んだ奥がプライベートな場所になっています。

—-入居されてからどれくらいですか?

R:2015年8月に入居したので、まだ1年未満です。

—-住み心地はいかがですか?

R:100点満点でいえば、75点くらいです。一人暮らしには十分なスペースがありますし、学生時代は、他の学生が同じ敷地内に住んでいるのは楽しいですからね。

—-他の学生との共有スペースのようなものはあるのですか?

R:残念ながら、それはありません。でもすぐ横に寮の学生が運営している「De Keet」というBarがあって、月1回交流会のようなイベントが開かれているんです。飲みながら他の学生ともコミュニケーションできますよ。

Via:  facebook.com
Via: facebook.com

—-すごく楽しそう!しかも、このBarもコンテナからできていておしゃれですね!

R:そうですね。そういう他の学生との交流も寮の利点ですし、寂しさを感じないで済んでいます。でも何よりここは大学にも近いし公共交通機関にもアクセスがいいのが気に入っています。

—-交通の便が、ここに住んでいる理由ですか?

R:それも理由のひとつですが、やはり賃料の側面も大きいです。アムステルダムの一般的な家賃は学生には非常に高額ですが、コンテナハウスは家賃が安かったので助かっています。
※家賃は月額475ユーロだが、家賃補助が175ユーロつくので、自己負担額は月300ユーロ。

—-コンテナハウスに住むことに不安はありませんでしたか?

R:入居前は、「狭くて暮らしづらいんじゃないか」「隣近所の騒音がうるさいんじゃないか」と気にしていました。でも家具を工夫すれば一人暮らしには十分な広さだし、バスルームもしっかりあるので不自由はありませんよ。コンテナ同士がしっかり独立しているので、騒音や生活音は全く気になりません。どこかの部屋でパーティをするときも事前に声をかけあったり、寮のフェイスブックのグループページで告知されているので特に不満はないですね。

—-音が気にならないのはいいですね!他に入居してから大変だったことはありますか?

R:あ、シャワーのお湯タンクが小さいのが少し気になりました。最初の頃は、シャワーの途中でお湯が足りなくなったりするとイライラしましたけど、今は要領も分かってきました。慣れればどうってことないですね。

—-たくましい!では、卒業後もプライベートで(ここではなく別の)コンテナハウスに住む可能性もアリですか?

R:うーん、それはどうですかね。やはり自分が生まれ育ったような「普通の家」の住み心地は捨てがたいですね。オランダではコンテナハウスは学生のためのものという認識が強いので、今のところそういう計画はありません。

—-なるほど。コンテナハウス=学生の住む場所という印象なのですね。こんなに快適そうなのに、学生時代限定なんてもったいない!今回は、貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました!

(c)Roxanne Schultz
(c)Roxanne Schultz

コンテナハウスで過ごす学生生活、楽しそうですね!こんなに暮らしやすそうなのに、学生だけのものにしておくのはもったいないのではないでしょうか。ボートハウスも今ではステータスだと言われているので、今後はコンテナハウス生活も「素敵な生活」と世間の印象が変わってくればいいですね。

次回は、オランダにおけるタイニーハウスはどのような未来を切り開いていくのかに関してお伝えしたいと思います。

Via:
woonbotenland.nl
rtnieuws.nl
tempohousing.com