プレミアムメンバー限定 特集コラム

【前編】100年前の銀行が書店に。ロサンゼルスで見つけた「世界で最も美しい本屋」

銀行時代の大きな柱が残る店内
銀行時代の大きな柱が残る店内

本屋は恐竜のように絶滅してしまうのだろうか。皮肉にも「ラスト・ブックストア」―「最後の本屋」と名付けられた書店が、ロサンゼルスの中心部にある。本のインターネット販売や電子書籍が幅を利かせるなか、相も変わらず手渡しで紙の本を売り、古書を買い取っている。その数25万冊。1185店舗(2012年時点)あるというカリフォルニア州の本屋の中でも、最大規模を誇る。もともと銀行だった建物には大きな柱、荘厳な雰囲気が残り、「世界で最も美しい本屋ベスト20」にも選ばれている。

ラスト・ブックストアの入口
ラスト・ブックストアの入口

ラスト・ブックストアがあるのは、ロサンゼルス市庁舎や市場にもほど近い、歴史的な建物が残るエリアだ。スプリング通りと5番通りの角、1914年に建てられたスプリング・アーツ・タワーの1、2階にある。2005年、銀行の跡地を活用してラスト・ブックストアとして生まれ変わった。高い天井に、大きな柱、頑丈な金庫は、当時営業していた銀行の面影を残す。街の本屋が姿を消すたび、「紙の本なんて時代遅れだ」と言われている気がして悲しくなるが、ここは本の虫たちの拠りどころになってくれそうだ。

ジェンガのように本を積み上げたレジカウンター
ジェンガのように本を積み上げたレジカウンター

本で作ったレジカウンター

リュックなど大きな荷物は持って入れないので、入口で預けることに。身軽になって店内へ入る。高い天井を見上げると、何百冊もの本でできたオブジェが異彩を放っている。そもそも、この本屋にはオブジェが多い。アートの本も多い。アートギャラリーまである。入口そばのレジカウンターに目をやれば、何かがおかしい。本をレンガのように積み上げ、板を載せてレジカウンターに仕立て上げているのだ。それでも、ただ本を重ねているだけなので、誰かがそっと本を引き抜いてしまったら、カウンターは崩壊するだろう。

崩壊のスリルに加え、25万冊の本と遊び心が詰まったラスト・ブックストア。きっと運命の1冊に出会うことだろう。早くその1冊を見つけたい。そんな期待を胸に、駆け出したい衝動を押さえて歩く。本屋は走る場所ではないのだ。ゆっくり歩いてまず目に入ったのは、窓のそばに並ぶレコードだ。何千枚あるだろう。その隣には年季の入ったラジオが飾ってある。なぜかラジオからサボテン生えているが、これもきっとアートだろう。

レコードがずらり
レコードがずらり
古いラジオに植えられたサボテン
古いラジオに植えられたサボテン

映画の街 関連本も充実

レコードコーナーに隣接するのは、ハリウッドを抱えるロサンゼルスらしく、充実した映画本コーナーだ。

なかでも、昨年30周年を迎えた『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の大型本には、思わず声が出た。制作過程や舞台裏が書かれているほか、主人公マーティ・マクフライがドクに宛てた手紙、時計台のチラシ、マーティのきょうだいが消えていく家族写真など、映画に登場した重要なアイテムが本のところどころに挟んである。映画の中にしかなかったものを、実際に手に取れる日が来るとは思わなかった。

それにしても、どこまでが現実なのか。日刊紙USAトゥデイは2015年10月22日、マーティの息子が逮捕されるという、映画のシナリオ通りの架空記事を、本物の1面に載せてしまうという荒業を発揮した。アメリカ人のやることは思い切りがいい。

バック・トゥ・ザ・フューチャーの大型本
バック・トゥ・ザ・フューチャーの大型本
2015年10月22日に発行された本物のUSAトゥデイ
2015年10月22日に発行された本物のUSAトゥデイ

重厚な金庫の扉の奥は……書庫!

映画本コーナーを抜け、奥へ進むと、重厚な扉の奥に小さな部屋が見える。正確には小部屋ではなく、銀行に欠かせない金庫だ。100年前は、お札や金の延べ棒、ジュエリーなどが保管されていたのだろうか。薄暗い金庫の中はランプが照らしている。古書の匂いが立ち込め、お屋敷の書斎にいるようだ。狭くて、薄暗く、ちょっと不気味な気もするが、椅子もあるので勇気のある人はゆっくり座って読むことができる。扉のプレートをよくよく見ると、1889年5月21日と彫ってあった。

ほかにも、古典文学や料理本、ロサンゼルスの作家シリーズ、村上春樹氏のコーナーなど、ここにない本はない、と錯覚しそうなくらい多くの本が並んでいる。時間を忘れ、本の海を泳ぐようにして、ぐるぐると歩き回った。アートに関する本は、一つのコーナーに収まりきらなかったのだろうか、別館のような立派な作りになっている。さっきまでの銀行とは違った、真っ白な壁。明るい店内に、壁一面に絵が飾ってある。アート、デザイン、塗り絵、手塚治虫の本が並んでいた。

アートに関する本が並ぶ部屋
アートに関する本が並ぶ部屋
カテゴリーの看板もおしゃれ
カテゴリーの看板もおしゃれ

ロサンゼルスの本屋は銀行から生まれ変わった美しい本屋だった。めでたし、めでたし…だけでは終われない。なぜなら、摩訶不思議「ラビリンス(迷宮)への入口」を見つけてしまったから。2階には一体何があるのだろう。美しく、不思議な本屋の探検は続く。【後編に続く】

Photo: Yumi Mizukoshi

 

 

 

月極本3 特集「好きなお金、嫌いなお金。」

Voice

Voiceはありません

Voiceを入力する

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です