本は個人で出せる時代になった。82年生まれの3人が考える“マイクロパブリッシング”の可能性

本をづくりは“目的”でなく、窮屈な時代を突き破る“手段”

影山 僕はいま、地方で一般の人と一緒に本を作る機会が多くなっています。出版とか編集って、変にプロ意識が強かったり、素人が関われない専門職と未だに思われている節があって。素人参加の本って、つまらなくなる可能性もあるんですけど、参加者と議論を重ねて目的を絞って、デザインとかテーマとか一本軸を通しておくと、わりとクオリティが高いものになったりします。そうやって、「編集や出版のスキルを民主化する」といったらおかしいですが、スキルが今までなかった世界に輸出することで、今までにない本づくりができる可能性があります。

中岡 本は人と人が関わる場に手段になりますよね。作り手としても読み手としても、いろんな使い方ができるし、物として流通していて、意外と作りやすい。

影山 YADOKARIもそうですけれど、本だけじゃなくてWEBマガジンを作ったり、住宅を作ったり、「目的達成のために使えるものはなんでも使う」という感覚は、窮屈な時代に生まれてきた反動じゃないかな。

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影山 僕は今の時代は「戦後の焼け野原」に近いと思っています。スキルがなくても本を作れるし、文章を書いたことがなくても文章が書けるし、その中で面白い人がのし上がっていくんだと思えば、変にカッコつけたりリスクを取らなくてもいいんじゃないでしょうか。多少失敗しても失うものは何もない、と思えたら楽ですよ。特に震災以降はそう思いました。WEBが作れたり、デザインができたり、本が作れるなら、それらを手段にして新しい発想でものづくりをしていける時代です。

足りないスキルを借りながら、遊ぶようにアウトプットする

中岡 本を作るためには人と会って、いろんな人の考え方をまとめて整理したり、自分の考え方と向き合ったりすることが必要ですよね。それって、実はものすごい多様なスキルを含んでいますよね。

影山 確かに、本を1冊作って、それがどういう風に流通して売れるかが分かると、ただ編集して本を出せばいいというだけじゃないことに気付きますよね。出すタイミングを考えたり、本を売るためにイベントをしたり、バズをどうやって作るのかとか、いろんなスキルが必要です。

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影山 YADOKARIを見ていると、価値観の合うコミュニティから協力者を募って、本や住宅をアウトプットしていますよね。足りないスキルは借りればいい、という感覚も大事だと思います。

さわだ 小さな村みたいなものですよね。昔は自分の得意なことを求められるときにやっていたと思うんです。今は分業化されてるけれど、「できない部分はお願いします」と協力しながらやればいい。

僕らが本を出すきっかけになったのも、雑誌『TITLe』の編集長だった宮下哲さんというフリーの編集者さんが、話を持ってきてくれたことが始まりでした。WEBのコンテンツを本にしたいなと考えていたときに、宮下さんとお会いしてサンプルを持ってきてくれて、そのまま「じゃあやりましょう!」とすぐ本を作ることになって。

いろんな人の力を借りつつ、遊ぶようにアウトプットしていく。そうやって世の中に新しいことを提案できると面白いことができそうですね。

 

現代は「先が見えない時代」と言われています。

しかし、影山さんが「現代は戦後の焼け野原と同じ」と言ったように、先が見えないからこそ、小さく何かを始めやすい時代です。YADOKARIが進めるタイニーハウスムーブメントも、今回のテーマになったマイクロパブリッシングも、先が見えない時代に新しい価値観を見いだそうとする試みです。

スキルがなくても始めてみる、足りない力は借りればいい。そんな気持ちで、あなたも何かを始めてみませんか?

(文・写真=スズキガク)