コミュニティの中心地、北欧から学ぶ図書館の役割とは?

あなたにとって図書館とはどのような場所だろう?
「本を読む」、「勉強をする」、「静かな時間を楽しむ」。用途はそれぞれだが、日本では周囲の邪魔にならないようひっそりと過ごすイメージが強い。
しかし、教育先進国の北欧では図書館はそれだけの空間に留まらない。現地を訪れて驚いたのは、デザイン性、機能性において自由で開放的な人々の憩いの場であること。
今回は多様な面で人々の生活を支える北欧の図書館から、これからの図書館の役割、生活との共存を考えていきたい。

大前提は心地よい空間であること

「子どもからお年寄りまで、誰もが一日中居たいと思えるようデザインされているんだよ。」
デンマーク人の友人が教えてくれたこの言葉に、北欧図書館の魅力が詰まっている。

開放的な高い天井に光を取り込む大きな窓。外の景色を楽しめるよう、使い心地の良い椅子や机が窓に沿ってレイアウトされている。時間と共に移ろいゆく周囲の様子は、目を向ける度に気持ちをリセットしてくれる。どれほど滞在しても飽きることはない。

photo by Nanami Kawaguchi

また、日本と大きく違う点として共有スペースの多さが挙げられる。グループで話すことができるよう設置されたインテリアやミーティングブースは、会話を禁止するのではなく歓迎する雰囲気。友人と同じ本を手に取り、読み終わったらその場でディスカッションが始まるなんてこともあるそうだ。

photo by Nanami Kawaguchi

心地よさを追求した空間に自然と人々は集い、新たなアイデアや繋がりを生み出していく。
一定の機能を果たす箱物ではそのような発展は難しいと言えるだろう。
場と人の融合で進化を続ける、私が実際に訪れた2つの図書館の例を見ていきたい。

どんな人だって受け止める。それぞれに適した居場所をもたらす図書館

この図書館は民主主義の象徴だ。フィンランドの首都、ヘルシンキの中心地に佇む「Oodi」は国家独立100周年の記念に政府から国民へのプレゼントとして贈られた。
「全ての人に開かれた場所」というコンセプト通り、フロアごとに異なる雰囲気と機能性はあらゆる人のニーズを捉える。

Oodiの空間設計には2つの柱がある。一つ目が、読書や勉学に集中できる従来の図書館としての役割。二つ目が、創造性を育むものづくりや学び場としての役割だ。

3階は「本の天国」と称されるように、エレベーターを降りると一面に本棚が並ぶ光景は圧巻だ。しかし、本棚は全て背丈ほど、なだらかな勾配があるフロアは不思議と窮屈さを感じさせず、リラックスして過ごす人の姿を多く見かけた。
建物の端には北欧の図書館には欠かせないキッズスペースも。絵本やゲームはもちろん、階段やスロープさえ子どもたちの遊び場となっていた。これらは大人の自習スペースとは対局に位置しており、みんなが不快な思いをしないよう配慮されているのもポイント。

2階に行くとガラッと雰囲気が変わる。
ミシンや3Dプリンターで制作する人たち、ミーティングをする人たち。フロア中央には階段上のフリースペースがあり、私たちのように一休みする旅行者やお喋りを楽しむグループなどバリエーション豊かな利用者で賑わう。
ここにある設備は誰でも無料で利用することができるそうだ。ものづくりを通して、友人同士はもちろん、同じ興味・関心を持った新たな仲間とコミュニケーションを深めていける場となっている。

人を育て地域の未来を創り出す図書館

Dokk1_Ext_Train_Passing

デンマーク第二の都市、オーフスの港近くにある「Dokk1」は図書館を通じて街全体のアップデートを目指す。
そのために積極的に行なっているのが多種多様なイベントだ。子どもの創造性を育むクリエイティブシンキング、図書館の未来を市民と共に考える場など、人と街が一緒に成長できる関係性を築いている。

Dokk1_Cardboard_Workshop

 

「子どもは宝」と口にするデンマーク。Dokk1では学校教育とは異なる“遊んで学ぶ”を実践し、未来の街、そして国を支える子どもたちの成長を支援する。平等に開かれた場所であるからこそ、社会全体をかたちづくる役割だって担うことができる。

日本でも広がりつつある、多様性を持つ図書館

北欧のように多様な過ごし方ができる図書館が日本にも現れつつある。
代表的なものが、岐阜県岐阜市にある「みんなの森 ぎふメディアコスモス」だ。
図書館の他、交流センター、展示ギャラリーなどが集うこの施設は、知・絆・文化と地域の様々な拠点としての役割を担う。

https://g-mediacosmos.jp/cosmos/about.html

従来とは異なる明るくて開放的な空間。900以上のチェアやベンチが設置されており、お気に入りの場所を探してゆったりと滞在することができる。
天井から吊るされた特徴的な形の「グローブ」は空間に面白さを加えるデザインとしてだけではなく、省エネルギーで快適な室内環境を作り出す機能も果たす。昼は自然光、夜はLEDと時間帯に合わせた光の調節、上部にある開閉式の窓を利用しての換気など、自然の力を最大限に活用する。
建物全体を覆う格子状の屋根には岐阜県産の「東濃ひのき」を使用しており、訪れた人に地域との共存を気づかせるような工夫が凝らされている。

図書館の役割を決めるのはわたしたち一人一人

https://jp.freepik.com/

誰しもに平等に開かれた場だからこそ、社会の中で図書館が担える役割は大きい。
従来の「知の蓄積と探究」だけに留まらず、「リラックスできる場」「コミュニケーションの場」「地域のことを考える場」とあらゆる人を受け入れ、人々が行き交う拠点となることが望ましいと考える。
日本でも新たな役割を備えた図書館が続々と登場しているが、未だ一部の地域に限られているのが現実。どんな場所が自分の生活や地域をもっと豊かにするのか、一度想像を膨らませてみてほしい。
そのアイデアが未来のあなたの暮らしを変える場を創り出すかもしれない。

[参考]
・Oodi Helsinki Central Library
https://oodihelsinki.fi/en/what-is-oodi/
・DOKK1
https://www.dokk1.dk/english

・ぎふメディアコスモスについて
https://g-mediacosmos.jp/cosmos/about.html

・大人も子どもも楽しめる!岐阜県岐阜市の新感覚図書館「みんなの森ぎふメディアコスモス」
https://life-designs.jp/webmagazine/mediacosmos/