
【インタビュー】集うことが、強さになる。団地の防災イベント「DANCHI caravan」に込めた思いとは | 良品計画 石川さん
町田山崎団地を舞台に、団地に住まう人とまちの人とが入り混じり、団地ならではの豊かな暮らしや心地いい日常の景色を共に創り・発信していく取り組み、「まちやまプロジェクト」。
そのプロジェクトの一環として、団地や町田にまつわる取り組みをしている方のインタビューを発信していきます。
5回目となる今回は、町田山崎団地(以下、山崎団地)を舞台に、2015年から行われているUR都市機構(以下、UR)と株式会社良品計画(以下、良品計画)による防災イベント「DANCHI caravan」のお話です。団地という場所と防災の関係性や、イベントが果たす役割について、株式会社良品計画ソーシャルグッド事業部の石川さんにお話を伺いました。
いつもの広場がキャンプ場に、もしもの時には避難所に?
ーまずは、石川さんの簡単なプロフィールをお聞かせください。
1996年に良品計画に入社し、その頃からキャンプ場運営に携わり、2005年〜2022年までキャンプ事業のマネージャーを務めます。その後、ソーシャルグッド事業部に異動してからは、新潟県や千葉県を中心に地域の人たちと関わる仕事が増えていきました。
防災に関わり始めたのは2011年の東日本大震災後、無印良品から「いつものもしも」という言葉が生まれた頃です。無印良品は1996年から新潟県津南町で「無印良品キャンプ場」を運営しています。30年間のキャンプ場運営からアウトドア(外あそび)には、防災との親和性があるのではないかと思っていました。
ーキャンプの文脈から、防災に関わっていかれたんですね。
そうですね。無印良品店舗でも防災用品コーナーなどが立ち上がりましたが、2、3年経つと少しずつ世の中の防災意識は薄れていきました。やっぱり、ネガティブなことってずっとは考えたくないですからね。
防災商品ですよって言っても、震災がない以上使わないものという印象になるので、なかなか売れない。売れないから棚からも遠ざかっていくという具合で、世の中から「いつものもしも」という防災の考え方が薄れていく中、URの若手のみなさんからお話をいただいたんです。
「団地でキャンプがしたい」という提案は面白い視点でした。ただ団地の空きスペースでキャンプをするだけではなく、防災、避難所などの観点も視野に入れ一緒に企画を練ることに。山崎団地のように、団地は屋外空間が豊富な場合も多いので、災害時に避難所に入れない人たちを受け入れる場所にもなるのではないかと話が膨らんでいきました。
”いつも”の場所でキャンプをすることで、”もしも”の時の備えになるんじゃないかということで、防災をテーマにしたイベントで方向性が決まりました。そして、2015年3月に第一回目の「DANCHI caravan」が行われます。

地域の防災で大事なことは、人が集まりつながること
ーどのような経緯で自治会や商店会も一緒に開催するようになったのですか?
2、3年かけてDANCHI caravanが盛り上がってきた頃から、山崎団地全体を巻き込んで開催したいという話になりました。当時は山崎団地にある自治会や商店会、コミュニティセンター同士が各々で活動されているのがもったいないと感じていたんです。
DANCHI caravanとコミュニティセンターのお祭りがちょうど同じ時期で、お互いにかなりの参加者がいるので、「一緒に開催できれば、それぞれの参加者が相互に関わり合い、より多くのコミュニケーションが生まれます」とお伝えして話を聞いてもらいました。
そして、4年目でDANCHI caravanとコミュニティセンターのお祭りの合同開催が実現したのですが、ものすごい人が集まったんです。その頃から、商店会も自治会もみんな一緒にやりましょうと話をして、少しずつ輪が広がっていきましたね。今は外部で関わっている企業も70社ぐらいまで増えました。
ー防災イベントを作る上で、大切にされていることは何ですか?
地域の防災で一番大事なことって、コミュニケーションだと思っています。やっぱり、知らない人は助けられないので。隣に住んでる人が誰なのか分からなかったら、助けようがないんですよ。一人暮らしなのか、家族暮らしなのか、赤ちゃんがいるのか。知っていれば、いざ震災が起きた時に協力し合えるけど、住んでいることすら知らなかったら絶対に助けられない。本当に原則だと思いますね。
昔は近場の商店街がコミュニケーションの場所だったけど、今は文化も変わってきているので、代わりに集まれる機会が必要なんだと思います。だから、定期的にイベントが開催されることで、「先月も会いましたよね」とか、「あの人最近見ないね」みたいな話から、様子を見に行くことにつながっていく。

これが防災を地域イベントとして行う役割なんじゃないかって。コミュニケーションをどう取るかということ。だから、集まる理由になれば内容は何でもよくて、楽しいことと結びつけるのが大切ですね。
ー近くに住んでいる人を知るという意味でも、防災イベントの会場として団地は相性が良さそうですね。
そうですね。あと、山崎団地は自由度の高い広場がたくさんあるので、そういう意味でもイベントに使いやすいと思います。災害時、わざわざ遠くへ移動しなくとも、団地の広場を避難所にできると考えています。そういう視点からDANCHI caravanも始まっているので。各々で避難するよりも、この団地内で合同避難が可能になれば、共助がしやすく混乱も抑えられるかもしれません。

ー2015年からスタートし、今年で10年が経ちますが、山崎団地の変化は何か感じられていますか?
自治会や商店街をはじめ、山崎団地に関わる人たちがつながってきたことは大きいですね。それによって、新しい物事に対する抵抗感も下がっている気がします。変化することって面倒で、どんどん腰が重くなるものですが、URをはじめとした若い人たちが一生懸命に頑張っている姿を見ると、自分たちも何か力になりたいなって思いますよね。去年の3月には、初めてお隣の木曽団地も一緒にやりましょうという話になって、合同開催が実現しました。
イベントだけじゃなくて、団地の外側からの人たちが色々な話を持ち込むようになってきているので、それはすごく変わったんじゃないかな。
あとは、近隣の学校との取り組みも増えていて、最近では商店会と幼稚園が中心になって、地域の子供たちを集めた「冒険遊び場」が始まりました。山崎団地の広場でバーベキューをしたり、林で遊んだり、誰でも参加できる集まりです。DANCHI caravan以外にも、こういった活動が盛んになるといいですよね。
ハードルは低く、多世代が楽しめる企画づくりを
ー今後のDANCHI caravanに期待することや、やってみたいことはありますか?
まだまだ参加するハードルは下げられると思っていて、気軽に人が集まりやすい工夫は今後も考えていきたいです。
次回やりたいと思っているのは、団地や近隣地域の方々から、昔の団地の写真を集めて、プロジェクションマッピングで商店街に映し出す企画です。まだまだ柔らかいアイデア段階ではありますが。
商店街に「万寿園」という中華料理店があるのですが、店内に昔の写真が貼ってあって、すごくかっこいいんですよね。そこからアイデアをいただきました。

※中華料理店「万寿園」の店内にあるお写真の一部
この企画から、団地の方々が家で写真を探したり、眺めたりするきっかけになればいいなと思っています。昔の写真を見ると、人間の脳って不思議と若返るというか、その頃に戻っていきます。団地も高齢化が進む中で、そういう刺激がすごく大事だと思ったんです。そこから、「久しぶりにあの料理を作ってみようかな」「息子に電話してみようかな」とか、行動につながっていくんじゃないかなと。
当時の様子をプロジェクションマッピングで蘇らせることで、活気を取り戻す契機になればと思っています。
ー当時のレトロな街の様子は、きっと若い人も興味があると思いますし、世代を超えて楽しめそうですね。
イベントの一つのプログラムですが、日常にどう落とし込めるのかを常に考えています。お借りした写真を題材に、アート系の学生に作品制作をしていただいて、展示するアイデアも出ています。そうすれば、団地の方々と大学の接点が生まれるかもしれません。
また、近隣の高校や大学の学生の皆さんとも色々やっていきたいと思っています。例えば、学生の皆さんが、宅急便の集荷場から団地の人たちに荷物を届けるアルバイトだったり、買い物代行をしたりと妄想しています。学生のみなさんには社会勉強になりつつ、団地の方々もコミュニケーションが取れていい取り組みだと思います。
このような様々なアイデアをURの若手スタッフの皆さん、関係各所のみなさんと日々考えています。
防災イベントの作り手が育てば、本当の災害時に動ける人口も増えていく
ーこれから防災イベントを企画したい、興味があるという方にメッセージを送るとしたら?
イベントって当日の参加者数も必要だけど、目的が集客になった瞬間にイベントの中身は薄くなると思います。有名アーティストを呼べば人は集まるかもしれませんが、その場きりですよね。
それよりも、一緒に作っていく人を増やすことが、防災については特に大事です。「成果の8割は、事前準備がどれだけ整ったかによって生み出される」のだと思います。何事にも2:8の原理があって、2割の牽引者(防災イベントの作り手)が汗をかくと8割の人がそれに答えてくれる。
主体的にイベントを作る2割の人たちは、防災意識や知識が身についていくので、本当の非常時に動ける牽引者になれます。だから、イベントが雨で中止になったとしても、準備段階で防災に強い人が育っていることが大切な視点ですね。

イベントを続けているとどうやって広げていくかとか、色々なことを考えますが、焦らずに地道にやっていくしかないですよね。URという大家さんが、団地の人のために一生懸命に汗をかく姿にこそ、住人や地域の方も動かされると思っています。そして、その信頼や安心感で人が繋がっていく、それこそが防災なんです。
私の役割は、関連地域の方々とのコミュニケーションが主になっています。たまたま私は10年間継続で関われているので、各所の関係者の橋渡しのような役割も担っていますね。外部の人間だからこそ、できることなのかなと思っています。
ここで培ったノウハウが、現在では、全国の無印良品店舗で「いつものもしもCARAVAN」という防災イベントを開催しています。
「なんでそこまでやるの?」とよく言われますが、自分の仕事だと胸を張って言えるものにできたら、嬉しいですからね。