住まいは「建てたら終わり」のものだろうか。
スペインのデザインスタジオ plano livreが手がけたタイニーハウス「Lapinha Studio」は、その前提を静かに問い直す住まいだ。
展示、解体、そして別の土地での再建。2つのコンテナを組み合わせ、移動と再設置を前提に設計されたこの小さな住まいは、変化し続ける暮らしに寄り添う、新しい住宅のあり方を提示している。
様々な場所での活躍を見据えた、移動可能な住まい
「plano livre」は、ブラジル発の、建築・インテリア・ランドスケープ・アートを横断する国際的デザイン展示会「CASACOR Minas 2021」の展示用として制作されたタイニーハウスだ。
しかし、このタイニーハウスは展示のみで役目を終えず、展示会場にて解体され、別の土地で宿泊施設として再構築される計画が、当初から組み込まれていたという。この設計思想が示すのは、「一度きりの建築」ではなく、用途や場所に応じて役割を変えながら使い続ける住まい。
デザインとして人々を魅了する展示空間から、自然の中でバケーションを過ごす人々を包み込む空間へ。住まいを固定された存在ではなく、時間とともに役割を変えていく存在として捉えている。
コンテナを隠さず、魅力として扱うデザイン
「plano livre」は、コンテナを建築の構造体としてそのまま用いている。
多くのコンテナハウスが工業的な外観を隠そうとするのに対し、この住宅ではコンテナそのものの存在感をあえて前面に出す。
外装は鮮やかな色彩で彩られ、内部も機能ごとに色分けされている。リビングはグリーン、キッチンはオレンジ、バスルームはブルー。色は装飾ではなく、空間の役割を直感的に伝えるための設計要素として使われている。
コンパクトでありながら、閉塞感を感じさせない理由は、このカラフルで私たちを飽きさせることのない色彩設計と視線の抜けにあるのではないだろうか。
インフラ集中型が生む、自由な余白
2つのコンテナを組み合わせてつくられたこのタイニーハウスは、一方のコンテナに給排水や電気といったインフラ設備を集約し、もう一方を用途を限定しない自由な空間として確保。この構成により、目的に応じて空間を柔軟に編集でき、将来的な用途変更にも対応可能だ。
洗面・シャワー・トイレは間仕切りで分けられ、限られた面積の中でも使い勝手を損なわない工夫が施されている。
内と外の境界を溶かす、小さな住まい
「plano livre」は、サイズ以上に広がりを感じさせる空間を持つ。
大きなガラス扉によって内外の境界が曖昧になり、自然光と風が室内へと引き込まれ、外部には、座ったり寝転んだりできるスペースが設けられ、室内の延長として使うことができる。
さらに、シャワーブースは外部デッキとガラス扉でつながっており、景色を感じながらシャワーを浴びるという、住まいの中に「外で過ごす感覚」を取り込んだ体験が用意されている。住まいの中にいながら、自然の中で過ごしているような感覚が生まれる仕掛けが散りばめられているのである。
変化を前提にした、これからの住まいへ
コンテナという工業的な素材を用いながらも、空間には温かみがあり、自然との関係性が丁寧に設計された「plano livre」。
変化し続ける社会の中で、住まいもまた固定されない存在であっていい。
この小さなタイニーハウスは、これからの暮らし方に対して、静かだが確かな問いを投げかけている。
via: archdaily.com