【鶴川団地対談インタビューVol.6】  塾が果たす地域での役割って?「こども教室≪もんじゅ≫」でお話を聞いてみた

鶴川団地で暮らす人たちや町田市民、団地で暮らす「コミュニティビルダー」を中心に、団地の新たな魅力を発信する「未来団地会議 鶴川団地プロジェクト」。

そこでコミュニティビルダーとして昨年から活動しているのが石橋さんと鈴木さんです。

少しずつ、団地でのコミュニティの輪を広げ、お友達や行きつけのお店も増えつつあるおふたり。でも、まだまだ知らないコミュニティや人の繋がりがたくさんあります。

 ……というわけで、今回は団地のすぐそばにある、こども教室もんじゅを石橋さんが訪問! 教室長の高橋門樹さん、直美さん、美華さんに、鶴川団地の歴史や、子どもたちとの関わりについてお聞きしました。

結婚を機に鶴川へ 40年以上の歴史があるそろばん塾を引き継ぐ

石橋さん「今日はよろしくお願いします!」

門樹さん「よろしくお願いします。あらためまして、高橋門樹と申します。≪もんじゅ≫の室長です。ここは妻のご両親が経営していたそろばん塾を引き継いで、リニューアルした塾なんです」

石橋さん「へえ、そろばん塾!」

 門樹さん「40年以上続いていたのを10年前に建て替えました。私は当時、大学教員をやっていたんですけど、私と妻の親の介護が重なったこともあり、いつの間にか大学教員を辞めて、こちらが本業になってしまいました(笑)。妻の直美がもともと向いの鶴川団地住まいで……」

直美さん「自分のことは自分でしゃべります(笑)」

門樹さん「どうぞ」

直美さん「生まれは東京の小平市で、私が1歳のときに鶴川団地ができて、抽選で入居が当たったらしいんです」

石橋さん「抽選の倍率がめちゃくちゃ高かったっていうころですね」

直美さん「そうです。ここから見える5-3-1号棟に住んでいました。小学校低学年のときに土地を買って、こちらに移ってきました」

門樹さん「最初は団地内の集会所を借りて、そろばん塾を始めたんだよね」

直美さん「私が子どものころはそうでしたね。高度経済成長期で子どもが増えていたときだったので、一番多いときは東京近郊全体で14教室ぐらい運営していました」

石橋さん「えー、すごい! 破竹の勢いですね!」

直美さん「私は地元の小中学校で、高校は都内に通っていました。金融機関に就職して途中からは都内でひとり暮らしをしていました」

門樹さん「私たちは結婚して川崎市に住んでいたのですが、妻の父親が亡くなって母親だけになったところで、鶴川の妻の実家で一緒に住むようになりました。若いときは都心でバリバリ働いて、結婚してしばらくしたら実家に戻ってくるという、よくあるパターンかもしれないですね」

直美さん「で、娘の美華が生まれました」

美華さん「今、高校1年生で、駅が1つ隣の玉川学園に幼稚園からずっと行っています。中1のときから国際バカロレアという授業を英語で受けるコースに進学しました。インターナショナルスクールみたいな雰囲気です。外国人や帰国子女とか、外国にルーツを持っている子が半数以上で、いろんなタイプの人がいます」

石橋さん「すごく親近感があります。僕が通っていた高校もいま国際バカロレアになっているので。当時から、外国の子や帰国子女の子が多くて。すごく雰囲気が分かります。もう中1から4年通われて、もう環境には慣れました?」

美華さん「小学校まで日本語で授業を受けていたのが急に全部英語になったときは、ついていくのがやっとでしたけど、私と同じような経歴の人たちもいて、英語を助け合ってなんとかなりました。今はネイティブの子と変わらない成績をとれるようになりました」

石橋さん「すばらしい。僕は3番目ぐらいだったので。下からですけど(笑)」

既存の学習に縛られない学び

――≪もんじゅ≫さんでは具体的にどういうことを教えていらっしゃるんですか?

門樹さん「受験に関しては、この辺にも大手の塾がたくさんあります。そうした塾と同じことをやっても仕方がないので、うちでは音読・書きとりコース、そろばん・暗算コース、作文・読書コースといった少し変わったコース開講をしました。個別指導コースもあります」

石橋さん「個別指導というのは具体的にはどういう内容を教えているのですか?」

門樹さん「私は大学院で中国の北京に2年間留学し、大学教員時代は世界各国の専門家たちと一緒になって体験授業的なことを色々やっていました。学生たちを大学外に連れ出して、実体験をしながら学ぶことをやっていたので、普通の日本の受験勉強を教えるだけでは物足らなくなってしまいました。

単に入試のためというよりは、ふだんから様々なところでリーダーシップを発揮してもらうような活動をしています。身近なところから世の中を良くしていくというシティズンシップ意識を育てていくこと念頭において、個別指導では教えています」

直美さん「そんなことから、石橋さんたちがやられている絵本の読み聞かせの活動にも参加させていただいていたんです」

石橋さん「なるほど!」

門樹さん「そう、子どもに何かボランティアをさせるなら、地域コミュニティに貢献できるとありがたいな、ということで、うちの娘や生徒たちも参加させていただきました」

石橋さん「いや、本当に素晴らしかったです、読み聞かせ」

美華さん「ありがとうございます」

門樹さん「ただ暗記して解答用紙に答えを書くのではなくて、様々な体験をしたり最先端のものを見たりして、『僕もこんなものを作りたいな』『やってみたいな』と思わせる創造のきっかけを用意することが、教育機関の重要な役割なんじゃないかな、と思います」

石橋さん「作品を作るだったり、何かのプロダクトを作るだったり、そういう個人の創造性を生み出す土台になることってやっぱり、暗記してどうこうとかっていうことではないですよね。こんなに素敵な塾があるこの鶴川地域は誇れる場所だなあ、って思います」

門樹さん「いやあ、素晴らしいコミュニティビルダーさんがいてこそです(笑)」

塾が地域で果たす役割

――コロナ禍になって、コミュニケーションが減っているのはさまざまな場所で懸念されています。もんじゅさんは、塾という場所として、地域とのコミュニケーションについてはどのように考えていらっしゃいますか?

門樹さん「子どもがたくさん集まると、色々な情報も入ってくるんです。コロナについて保護者さんは、当然ながら自分の子どもが通う学校の情報に偏ってしいます。でも、うちの教室にはいくつもの学校の情報が入ってくるので、同じ地域でも違う情報を提供することができます。こういうご時勢だからこそ、ネットワークを介して得られる多様な情報は大事です」

直美さん「うちの教室は保護者さんたちと密にやりとりをしているほうだと思います。玄関先の立ち話から、生徒さんがいないときに部屋で人生相談を受けたりするまで。必要な情報をご提供するほど、さらに返ってくるものがあります。地域の情報共有が保護者さんにも貴重だと感じていただけているみたいです」

門樹さん「生活インフラや食料品などのエッセンシャルビジネスと同時に、塾のような教育機関もお子さんがいらっしゃるご家庭には必要不可欠な機能をもつ場所になりつつあると思います。人が集まり、情報がやりとりされ、ネットワークが形成されるという状況が生まれていますね」

石橋さん「なるほど……美華さんは、どのようにしてふだん友だちとコミュニケーションをしていますか?」

美華さん「私の学校では結構インスタでみんな情報交換しています。私の学校は町田にありますけど、渋谷にあるインターナショナルスクールの子たちとも繋がっていて、直接は交流のない学校の子たちとも、ネット繋がりで実際に会って遊んだりしています。

SNSをうまく使えば、自分の学校や地域以外の子たちとコミュニケーションがとれます。インターネットがあまり使わせてもらえていない学校や家庭の子もいると思いますが、上手な使い方で交友関係をもっと広げてほしいです」

門樹さん「上手なSNS活用というのが、いま求められていますよね。リスクを恐れて学校では禁止する方向になりがちですけど、安全な対処方法を身に着けることが必要。新しい出会いが起きますし、各種イベントやアクティビティも生まれるんですよね」

直美さん「社会問題と絡めて言うと、不登校のお子さんがわが家の教室にはいらっしゃいます。学校には行けないけど≪もんじゅ≫には来ているお子さんが何人かいるんですよね。学校に行くのは辛いから、代わりに塾で気を楽にして勉強するという代替機能があります。

学校には行けなくても、ずっと籠っているとやっぱり心が暗くなるし、塾に行くのをきっかけに外に出て人と会って知的なものに触れると、気持ちも安定するし自信もつきますよね。1つところに数百人の子どもを集めて勉強をスケジュール通りに教える学校というシステムに、いまは無理が生じているのかもしれません」

門樹さん「リモートワークが増えている今だからできることがあります。団地の中にある空きスペースをうまく使ってワーキングスペースがあって、子どもたちやリモートワークをする大人、そして最近SNSにはまっているというお年寄りまで集まることができると楽しそうです。

不登校の子どもたちがそこに来て、わからないところがあったら、そこで仕事をしている大人が教えてあげる。大人も知らない子に「算数を教えてあげた」っていうのが嬉しかったりするんですよね。人間の新しいネットワークが生まれるチャンスって、今のオンライン時代だからあると思います」 

鶴川団地にはまだまだいろんな可能性がある

石橋さん「やっぱり、拠点っていうのは大事ですよね。人が集まれる場所があるっていうのは団地には必要なのかも」

門樹さん「ウィズ・コロナの時代、郊外に位置する町田は、それだけで地の利があるんですよ。それをもっと活かさないともったいないです。交通至便で駅周辺には巨大な商業地域が広がる町田には、若い人たちを呼びこめる余地が十分にあります。家賃を安くして、ネット環境を整えて、おいしいパン屋さんやカフェがあれば、若い人たちがもっとやってきます。」

石橋さん「うん、わかりやすいアピールポイントですよね。最近、鶴川団地の商店街のカフェによく遊びに行くんですけど、ミュージシャンやバンドマン、音大に行っている人だとか、音楽活動をしている若い世代の人たちが、最近、鶴川に引っ越してきているんですよね」

門樹さん「そういうオシャレなお店がいくつかあるだけで若い人たちがどんどん集まってきますね。団地はこれだけ大きな土地と建物があって、いくらでも造りかえられるところがあるのではないでしょうか」

直美さん「オシャレなお店ができれば、子ども世代は喜んで何度も行ったりします」

門樹さん「それと、個人商店は絶対になくしちゃダメですね。伝統の味があって魅力的です。人情味のある店を残していけば、新旧どちらの世代も共存して、団地は活性化します」

石橋さん「美華さんはどういうお店があったらいいな、とかありますか?」

美華さん「若者をターゲットしたお店かな。ちょっとおしゃれな小物とかを探しに、ときどき都心のほうにいきます。たとえば下北沢には路地裏に魅力的な個人店があるだけではなく、奥にはちゃんと住宅もあったりします。鶴川もああいう雰囲気をだすことができれば、外からも人が立ち寄ってくれる街になるんじゃないかなと思います」

石橋さん「僕がいまよく行っている『夜もすがら』さんっていうカフェと骨董品屋さんを併設しているお店は、まさに下北沢的なものを感じるから人気なんですよね。去年の9月ぐらいには、その向かいに『ハーモニーゼネラルストア』っていう古着屋さんができたんですよ」

美華さん「下北沢だとそういうお店とか、少し前のタピオカみたいにブームを取り入れたお店がいくつもあって、大人から小中学生も入れます。鶴川に増えてくれると楽しそう」

直美さん「鶴川も意外と人が多国籍な町で、うちの教室に外国人の方たちが通ってくれています。私は外国語の勉強をするのが大好きなので、海外出身の方の母国語を事前に調べて、即席で覚えた言葉で話しかけると、とても喜んでくださいます。そういう人たちも入ったインクルージョンな感じで何かできると、教育的にもカルチャー的にも面白いものができそうですね」

門樹さん「町田市はもともと『えいごのまちだ』を市の方針として打ち出しています。その一環で英語多読の会が、町田市中央図書館が音頭取りをして始まりました。私は初期メンバーの1人で、絵本からペーパーバックまで英語の本にこんなことが書いてあった、と報告しあうブックトークの会を運営しています。

もともとは娘にも読ませたいと思って、10年ほど前から趣味的に子ども用の英語の本をたくさん集めてあります。鶴川団地の中でも、外国の方と一緒に英語を読むようなイベントができそうですよね」

石橋さん「英語の絵本の読み聞かせもいいかもしれないですね。そのときは美華さんにもぜひ読んでいただいて」

美華さん「がんばります(笑)」

もんじゅさんへのインタビューを終えて…… 

お話は多岐に渡り、大盛り上がり!

石橋さんの出身校と、美華さんの学校の共通点から、石橋さんが通われていた大学が美華さんが気になっているということで、キャンパストークに花が咲いたり……とお互いにいろんな発見ができた時間でした。 

「地域の学習塾のような地域コミュニティにとってのオーガニックに成熟していくハブみたいな場所がすごい重要なんだな、というのを再確認しました。同時に、僕らが行っている活動の中でクロスオーバーできそうな部分もあるので一緒にやっていけたらいいですね。

加えて、僕たちが好きで出入りしているお店などを逆に知ってもらうメディアとしての機能を僕たちのほうで果たせたら。より多様なコミュニティを作っていくうえでもっと積極的に一緒に活動できたら嬉しいです!」(石橋さん)

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