鳴子温泉で“伝統手法”の小屋づくり(1)〜チェーンソー講習編〜

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小屋には個性がある。
小屋には地域性がある。
小屋には自由がある。

皆さん、板倉構法という建築構法をご存知でしょうか?
古来より神社や米倉に使われてきた構法で、厚い板と角材のみを使用し、伝統的な継手手口や柱の溝に板を落としこんで壁を作る、日本の伝統建築構法の一つです。

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木の伐採から小屋作りまでを学ぶ板倉マイスター講習

その板倉構法の第一人者である安藤邦廣氏(筑波大学名誉教授・一級建築士・里山建築研究所主宰)に学びながら、3坪の板倉の小屋をつくる「板倉マイスター講習」が、宮城県の森で始まりました。講習は全3回、小屋で使用する木の伐採・製材作業の一部や、小屋の建築実践までを自分たちで行います。

第1回目の講習では、小屋をつくる為に必要な杉の木の伐倒、そのためのチェーンソーの講習が開催されました。私も小屋好き、建築好き、森林好きのイチ参加者として受講をして参りました。

講習の現場であり、小屋を設置する森となるのは宮城県大崎市。麓には鳴子温泉があります。鳴子温泉は、1000年の歴史を持つ温泉地区であり古くから湯治場として栄えてきました。源泉は400本近くあり、日本国内にある11泉種のうち9泉種が楽しめる有数の温泉観光地です。

湯守の森プロジェクトでの宿泊先、東鳴子温泉の大沼旅館
湯守の森プロジェクトでの宿泊先、東鳴子温泉の大沼旅館

『湯守の森』

この地区の森林面積は27.816ha。温泉とともに林業が主要産業のこの地区でもやはり森林整備が進まなくなり健全な森が減少してきています。地中に浸透した雨水が数十年の時を経て湧き出す温泉は豊かな森林が生み出します。温泉水を生み出す、その元になる森。この森を持続可能な方式で整備して豊かな温泉と森を守るために立ち上がったのが、大沼旅館とNPO法人しんりんが立ち上げた任意団体『湯守の森』です。湯を守り、森を守る。それが今回の板倉マイスター講習の目的でもあります。

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第1回目の講習初日はチェーンソー講習の座学。安全にチェーンソーを扱い、山で作業をするための知識を、現役の木こりでもある講師の方から、現場での実例を交えながら学びます。

新しく改訂されたばかりというテキストは、オールカラーで大変読みやすかったです
新しく改訂されたばかりというテキストは、オールカラーで大変読みやすかったです

「人間が自由に活動するためには、小屋でいい」

座学の後は温泉です!そして安藤先生から幅広いテーマのミニレクチャー付きの夕食。夕食の後には更に講義。小屋の歴史のお話では、縄文時代まで遡り小屋談義に花が咲きました。屋根に使用される素材が、草・樹皮・瓦(土)と変遷してきたことや、日本の森林の変遷など、歴史的背景にも触れながらの建築や素材のお話。

「屋根にどんな素材を使われていたかが、時代を現している」
「縄文時代は、夏の家と冬の家があった。冬の家は篭って過ごすためのもの。長く使用される冬の家は社会資本でもある。一方、夏の家は、狩猟採集で移動をしていくための一時的な拠点」
「人間が自由に活動するためには、小屋でいい」

皆さん浴衣でリラックスした雰囲気での講義は、温泉宿ならでは。「小屋には個性がある」「小屋には地域性がある」「小屋には自由がある」と安藤先生
皆さん浴衣でリラックスした雰囲気での講義は、温泉宿ならでは。「小屋には個性がある」「小屋には地域性がある」「小屋には自由がある」と安藤先生
湯守の森に建てる予定の板倉構法の小屋の設計図案。「5名で2日間で建てられる」と安藤先生からの言葉に、参加者一同ワクワク。(小屋の建築実習は10月の予定)
湯守の森に建てる予定の板倉構法の小屋の設計図案。「5名で2日間で建てられる」と安藤先生からの言葉に、参加者一同ワクワク。(小屋の建築実習は10月の予定)

チェーンソーの実技講習

座学で終了した1日目に続き、2日目はチェーンソーの実技講習です!ここでの伐倒作業は、小屋で使用するための木材の材料調達と、小屋設置予定地の整備も兼ねています。今回5名の参加者の内、3名は女性。現地NPOのスタッフさんにも女性の現場スタッフさんがいらっしゃいました。

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まずは講師の方を囲んで、前日テキストとDVDで学習したチェーンソーの構造や手入れの仕方を実物を使いながら学んでいきます。

ソーチェーンの刃を研ぐ「目立て」の作業を食い入ように見つめる参加者達。この目立て次第で、チェーンソーの性能や作業効率に差が出るため、とても大切な作業です。
ソーチェーンの刃を研ぐ「目立て」の作業を食い入ように見つめる参加者達。この目立て次第で、チェーンソーの性能や作業効率に差が出るため、とても大切な作業です。

この次は、いよいよチェーンソーを実際に使う練習です。まずは講師の方の見本作業の後、参加者一人ひとり全員が同じ作業を行いました。全員が作業を体験できるのは、少人数ならでは。

まずは、丸太を一定の長さに切っていく「玉切り」という作業から。
まずは、丸太を一定の長さに切っていく「玉切り」という作業から。

私自身、エンジンをかけるのに一苦労した場面もありましたが、他の女性参加者の皆さんも自力でエンジンをかけ、無事に作業を行いました。

途中、お昼をはさみながら、午後からは伐倒実習です。どちらの方向に木を倒すのが安全か、木の枝ぶりや、周囲の木々の状況、地形や風向、伐木後の作業のことを判断しながら、倒木方向を考えていきます。

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倒す方向を決めたら、その為の「受け口」づくり。倒したい方向に向けて、受け口ができているか確認をしながら、今度は「追い口」の切り込みを入れて、いよいよ倒木です。

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さすが色んな現場でお仕事をされている現役のきこりサン。狙った方向に見事に伐倒。
さすが色んな現場でお仕事をされている現役のきこりサン。狙った方向に見事に伐倒。

倒した後は、切り株の切り口を検証していきます。この時見たのは「受け口」と「追い口」の間に切り残される「つる」の部分。つるは、木が倒れる時に切断されるようになっています。「つる」がちぎれる時の抵抗と蝶つがいの働きが、伐倒方向を確実にし、倒れる速度を調整するという大切な働きをします。

「つる」がきちんと作用していたかどうかを切り口を見ながら説明。
「つる」がきちんと作用していたかどうかを切り口を見ながら説明。

見本作業の後は、受講者全員、1人1本ずつ伐倒です。間伐する目印がついている樹の中から、各々倒す樹を選んでいきます。

どの子(樹)にしようかな〜と皆さんウロウロ
どの子(樹)にしようかな〜と皆さんウロウロ

よし!この子(樹)に決めた!という方から伐倒作業です。講師の方からは「自分からは何も言わないので、伐倒方向など自分で考えてやってみてください(ニッコリ)」と言われ、受講生同士「あっちの方向がいいかな?」「こっちの方向がいいかな?」と皆さん話し合いながら作業開始です。

とはいえ、やはり講師からのアドバイスを受けつつ、 切りすぎてはいけない「追い口」の様子を見ながら切り込みを入れていきます。
とはいえ、やはり講師からのアドバイスを受けつつ、切りすぎてはいけない「追い口」の様子を見ながら切り込みを入れていきます。
「あ!ちょっと木が傾いたよ!」「もうそろそろ倒れそうだよ!」作業をしていない周囲の皆さんも、作業の様子に真剣に見入ってました。
「あ!ちょっと木が傾いたよ!」「もうそろそろ倒れそうだよ!」作業をしていない周囲の皆さんも、作業の様子に真剣に見入ってました。

木が倒れやすそうだと判断した方向に道があったり、隣接木があったりすると、その方向には倒せません。毎回倒しやすい方向に倒せるとは限らず、時にはロープをかけての伐倒作業でした。

私自身も無事に1本伐倒させて頂きました。が、小径木でも狙った方向に倒すのは難しい....!改めて木こりの方々の技術とご経験からくる智慧や判断力に頭が下がりました。
私自身も無事に1本伐倒させて頂きました。が、小径木でも狙った方向に倒すのは難しい….!改めて木こりの方々の技術とご経験からくる智慧や判断力に頭が下がりました。

最後には受講者全員、1人1本の伐倒を無事終え、2日間の講習は終了。終了後には、東鳴子温泉で汗を流して帰れるのが湯治林の良い所です。温泉に入りながら、「このお湯の源泉は、あの森から流れてきているんだな〜」と、森からの繋がりを感じながらお湯に浸かりました。

板倉マイスター講習の次回は7月。小屋の設置予定地の整地や製材の一部体験をする予定です。

関連リンク

NPO法人しんりん
大沼旅館
一級建築事務所 株式会社 里山建築研究所

イベントのお知らせ

当連載のライター宮原が、モーラの家の企画者として登壇させて頂くことになったシンポジウムが、2014年6月15日(日)東京農業大学(世田谷キャンパス)で開催されます。ご興味ございましたら、ぜひご参加をご検討ください。

【暮らしながら考えよう 都市と日本の森林、未来へつなげる暮らし方 再生可能エネルギー「木質バイオマス」の活用を都市の市民で考えるシンポジウム】

日本最大人口が暮らす東京都世田谷区で、都市の市民が暮らしで活かせる「木質バイオマス」の活用の可能性や、都市と日本の森林(もり)を未来へつなげる暮らし方を、市民目線で一緒に考えるシンポジウムが開催されます!

森の研究者、森と都市の暮らしを繋げる活動を行うNPO、山村の薪生産者、ペレット付き賃貸住宅の不動産業者、薪ストーブの販売業者が集いパネルディスカッションを行う他、テーマ別分科会では参加者の皆さんとグループディスカッションを行います。

シンポジウム・分科会へのご参加無料となっております。

■開催日時
2014年6月15日(日)
シンポジウム     13:30~17:00(受付13:00)
交流会(事前申込み) 17:00~18:00

■場所
東京農業大学 世田谷キャンパス 1号館 1階 131教室
(住所)東京都世田谷区桜丘1-1-1
(交通)小田急線 経堂または千歳船橋駅 徒歩15分
アクセス

■定員
150名(先着申込順)

■参加費
シンポジウム    無料
交流会(事前申込み)3000円(別途)

■プログラム詳細・お申込先 こくちーず