【イベント・後編】ものづくりバー×YADOKARIサポーターズ・ナイト<特別編>
リノベーションやDIYなど、ものづくりを肴に至福の 1 杯を味わうことをテーマに据え、毎週水曜日にKUMIKI WASEDAで開催されている大人のよりみち「ものづくりバー」。バーの主催・舘野 真さんとYADOKARIサポーターが協力し、特別編としてゲストを迎え公開トークライブが企画された。今回は、2016年4月27日に八丁堀にて開催された、そのトークライブの様子をお伝えする。
前編では、南房総の里山に暮らすことになった馬場未織さん家族が自然から学んだことや東京での情報発信についてお話いただいた。後編では、NPO法人南房総リパブリックが行ったエコリノベワークショップの活動実績の紹介や、その活動を通じて考えた「場」の在り方について代表理事をつとめる馬場さんの講演をお伝えする。(以下、敬称略)
前編はこちら⇒【イベント・前編】ものづくりバー×YADOKARIサポーターズ・ナイト<特別編>
(ゲスト)
馬場未織:建築ライター・NPO法人南房総リパブリック代表理事。2007年より東京と南房総の二地域居住を実践し、2011年に南房総リパブリックを設立、2012年に法人化。里山学校や空家活用などさまざまな事業を通じて「南房総のある暮らし」を提案中。著書:『週末は田舎暮らし』ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記(ダイヤモンド社)
南房総エコリノベワークショップ
馬場さんが主宰するNPO法人南房総リパブリックでは、2015年から現地の空家調査や空家のオーナーさんと入居希望者のマッチング事業も開始。南房総には約3割、約6000戸もあるという空家をどうするのか。
「まずは空家を使える状態まで価値を高めようと始めたのが、南房総エコリノベワークショップです。日本の民家は、ほぼ無断熱。さらに古民家となると、吹きさらしにパタパタと板を建てた場所に寝泊まりしているのと同じで、メチャクチャ寒いんです。なので、古民家を暖かくしよう、と。
断熱性の高い家になるけど膨大なお金をかけるのはイヤ。断熱材をゴテゴテ貼付けて古民家じゃなくなっちゃうのもイヤ。というワガママを実現させたいと相談したのが、建築ユニットみかんぐみの竹内昌義さん、つみき設計施工社の河野直さん・桃子さん夫妻です。彼らのアイデアによって、畳の下に気密シートと防湿シート、4mmの断熱材を敷き込みました。ツインポリカを貼って空気の層を作ることで断熱障子にしました。暖気は上に逃げるので、ハクビシンの糞が山盛りだった屋根裏を片付けて、100mmのグラスウールを入れました。そうやってリノベーションした古民家が「森の幼稚園ハッピー」です。
材料費だけで20万円。その裏には膨大な人件費が掛かっているんですけど、私たちが目指したのは誰もができること。特殊な人がお金をかけて特殊技能がある人がやるというのではなく、誰もができることで誰もが幸せになることなんです」
頑張れない人を抱えて未来を作る
「より良い未来を作るって誰のため?」「南房総だけ住民が増えればいいのか?」と考えたときに、NPOとしての目指すべき目標が見えてきたという。
「より良い未来を作ることは、自分たちや自分の子どもたち、自分の関わっているエリアのため。そして自分が心砕く人、自分の延長にいる人たちがハッピーになることを目指すことだと思います。今は地方を豊かにするためにさまざまな事業が各地で展開され、「移住してきてください!」って動きもありますよね。でも、ふと遠くから見たときに、「じゃあ他はどうでも良いのか?」と思うんです。
日本の人口は限られているし、結局は奪い合い。どこかが増えればどこかが減る。でもそこに疑問を呈すると、「みんなのためですよ」「社会のためですよ」ってワーッと畳み掛けられるんですけど、「みんなって誰?社会って何?」って考えたときに、割とモヤっとしているんですね。
南房総を素敵な場所にしたいなら「素敵な事業をしましょう」と考えるのが一般的だと思います。素敵な事業をすると、素敵な人たちが集まるエリアになりますよね。でも、素敵なエリアを作って素敵な人たちを集めたら、そこに元々いた素敵じゃなかった人たちはどこ行くのか、って疑問が生まれます。「それは私たちとは関係ない。頑張らない人は淘汰されていいんじゃない?自己責任でしょ」っていうことなんでしょうか? 私はずっと気にかかっていて、頑張る町とか事業を興すことは大事だと思いながら、本当にこの理論だけで押していって良いのか、という不安が頭の片隅にあったんです」
今まで私たちが見て見ぬ振りをしてきた問題に真っ正面から斬り込む馬場さん。参加者は息をひそめて馬場さんの次の言葉を待った。
「顔とか身体が生まれたときから与えられているのと同じで、能力だってたまたま与えられたもの。何となく思うんですけど、“頑張れる”のも能力な気がするんです。頑張れる能力がある人。頑張る能力がない人。そう考えると、頑張れないのは自己責任なのかというと、なんかそれは腑に落ちなくて……じゃあ頑張れないものとか素敵じゃないものも、目指す未来へと一緒に抱えていった方がいいんじゃないかって考えるようになりました。『頑張れる人や次へ次へと考えていける人は、頑張れない人たちの分もやろうよ』って思う方がいいんじゃないかな、と。
私が思う「素敵な場所」とは、1)素敵じゃない人もいるところ 2)感度の高くない人も幸せなところ 3)貧乏な人も幸せなところ 4)「おこりんぼうがいるね」と笑えるところ 5)ぼけたおばあさんが徘徊できるところ 6)「おめーは有機かよ!」と農薬つかってる農家が有機農家と笑えるところ 7)努力したくないけど死にたくないという人と「しょーがねーなー」と共存できるところ です。
怒りん坊は「もう来ないで」じゃなくて、「いやぁ、あの人怒りん坊だよね」っていいながら許容できればいいですよね。あとは近所での実際の事例ですが、有機農家さんと農薬を使う農家さんというのは考え方が違うのだけど、リテラシーの高い人同士だとお互いがお互いの違いを認め合って「お前なにやってんだよ」って小突き合って笑ってる。そんなところが増えるといいな、って思っていて。
語弊があるかもしれないけど、田舎には都会と比べると社会的弱者が多いんです。じゃあその人たちを捨てていいのかというと、全然違うじゃないですか。都心の弱肉強食の理論で押していくと、どうしてもこの部分を解決する術が見付からない。だとしたら、もっとおおらかな場所づくりをした方がいいんじゃないかなと思ったんです。
いろんな人がいる、多様性がある場所というのはとても大事。多様性がなくなるということは、いろんな歯車があって全部なのに、それを一つひとつ外しているようなものなんです。単一化させちゃうとやがて全体が崩壊してしまう。そういう意味で生物多様性も重要だと言われているんじゃないかと思います。
私じゃない誰かとか、私が住まない土地とか、人間じゃない誰かが幸せであり、その幸せを自分の幸せのように感じられる想像力が持てるといいと思います。二地域居住とはいろんなタイプの人や人間じゃないもの、話が通じない自然と付き合うことであり、違う土地、違う価値観に寄り添って想像力を使う暮らしであり、違いに共感することなのです」
「『次に何かを繋げたい』『古民家が暖かくなって良かったね』で終わらせないように、これからどうしていくのか」がすごく大事だという思いから企画されたこのイベント。質疑応答でも参加者からの質問が相次ぎ、田舎で暮らすこと、二地域居住への関心の高さが伺えた。
新しい地域に入り込んでその地域を「素敵な場所」に変えようと思う人たちは大勢いるが、そこに元々住んでいる人や動物が住み難くなるような場所に変えてしまってはいけない。そのために必要な「心」を、講演の最後に馬場さんから教えられた気がする。
写真提供:馬場未織
NPO法人南房総リパブリック