【イベントレポート】自分らしく暮らす「場」のつくりかた入門 〜プロ・実践者と考える、心地よい”自然”と”まち”のバランスとは?
2月15日(木)、 門前仲町にある70seeds株式会社オフィスにて、トークイベント『自分らしく暮らす「場」のつくりかた入門 〜プロ・実践者と考える、心地よい”自然”と”まち”のバランスとは?』が行われました。
コロナ禍を経て、自分の暮らしを豊かにしたいという思いを持つ人が増えつつあります。自然が身近に感じられつつも、暮らしに便利さが欲しい、という方も多いのではないでしょうか?
実際、働き方の変化により、移住する人も増えています。しかし、利便性や出勤の機会について考えると、実際に暮らしてみないと分からないというのも実情です。
また、価値観やライフステージなどから、人によって心地よいと感じる「場」は変化していきます。では、どのように心地よい場を作ったり、見つければ良いのでしょうか。
今回は「青梅」で理想の暮らしを体現している星加慧さん・星加円さんご夫婦と、70seeds株式会社の代表取締役でご自身も富山県舟橋村に移住されたの岡山史興さんをお迎えして、トークセッションとワークショップを行いました。はじめまして同士の方も多い中、和やかなムードで開催されたイベントの様子をお届けします!
子育ての場として充実している富山県舟橋村への移住
まずは岡山さんのトークからスタートです。
「5分でわかる岡山史興」という資料で自己紹介してくださいました。
長崎出身で大学進学を機に地元を離れ、就職で東京へ。そして2018年から富山県舟橋村に移住。
高校時代には4万人もの署名を集め、平和大使として国連でローマ法王に特別謁見する経験を経てNPOを立ち上げ後は、グーグルアース上に被爆者の体験をマッピングすることで、世界中どこからでも被爆者の体験が見られるコンテンツ(ナガサキ・アーカイブ)の制作に携わるなど、多岐に渡る活動をご経験。
大学卒業後、PR会社に勤務する中で大きな平和というテーマからミクロな人の暮らしの中に平和の種があるのでは、と思い、「そんな小さなところに寄り添えるような仕事をしていきたい」と独立。戦後70年の2015年に「次の70年に何をのこす?」をコンセプトにウェブメディア「70seeds」を立ち上げました。
岡山さん:この戦後70年の間で、例えば大量生産・大量消費、新卒一括採用など時代に合わなくなってきていることがたくさんあります。次の新しい当たり前はなんだろうと考えたときに、自分の好きな場所で暮らすことも新しい当たり前になると思うんです。これからの新しいあたりまえづくりに挑む小さな営みを後押しするのが70seedsです。
ーーそんな岡山さんが舟橋村にたどり着いたのは取材がきっかけなんだとか。
岡山さん:はい。そうなんです。舟橋村は日本一面積が小さい村ですが、人口が増え続けており、2012年には15歳未満の年少人口割合が日本一になりました。今も村の平均年齢は40歳と、子育ての世代が集まっている村ということで、取材に訪れました。
その中には「自分のやりたいことをもっと形にしたい」というパワーのある人がたくさん隠れています。今では自身の経験を活かしつつ、そんな人たちの相談に乗りながら、村の農家さんと一緒に商品をつくったり、お母さん方と事業を立ち上げたりしています。
村長の話が移住の決め手に
そして、移住の決め手になったのは「子育てにやさしいまち」を掲げる村長の話でした。舟橋村は戦後何度も起こった市町村合併ブームの中、一度も合併の道を選びませんでした。その理由は「舟橋村の小中学校がなくなってしまうから」。
岡山さん:村が合併していくと、元々の自治体区分であった学校がなくなっていく。小学校がないからということで引っ越してくる人も減ってしまいます。子育てを大事にすることが地域に重要だということが村としては分かっていたのだと思います。実際に子どもの教育環境にお金を使おうとしていることが分かっているからこそ、安心して移住できたのかもしれません。
また、子育て世代が集まっている村ということもあり、子育てをする場としても充実していたのだそう。大人たちの働きかけがきっかけで小学生がクラウドファンディングで公園を作るなど、子育てをとても大事にしている村だということが岡山さんの心に刺さりました。
その後、岡山さんは舟橋町に“みん営化”を掲げた保育料ゼロの学童保育施設〈fork toyama〉をオープン。敷地内にあるカフェとコワーキングスペースの利用料、企業や個人などサポーターからの会費を学童の運営費に充てる仕組みになっています。
岡山さん:子どものころの経験は今後に大きく影響が出ますが、その期間を無為に過ごすのはもったいない。教育を受けた子どもと受けられなかった子どもとでは大きな差が生まれてしまいます。「子育て中の親にも、子どもたちにも、もっと選択肢があっていいんじゃないか」という思いから新しい仕組みを立ち上げることにしました。
また、ただ預かるだけではなく、いろんな大人の背中を見せたい、ということで地域の工務店さんを呼んで家作りワークショップを開催したり、CGクリエイターさんを呼んで、遊具を自分たちでデザインしてみたりしています。
青梅に夫婦で移住。その充実の生活。
プロジェクターにはまず猫の写真が映し出され、会場には思わず笑みが漏れます。おふたりとも猫が大好きなのだとか。
ここでは、実際にご夫婦がどのように青梅に移住し、どのような生活を送っているのかをお話してくださいました。
「場」について考える機会が、移住に繋がった
まずはおふたりの出会いからお話は始まります。おふたりの仲睦まじい様子に会場は温かな空気に包まれました。
福岡の大学で出会い、2017年にふたりで上京。最初は阿佐ヶ谷の新築1LDKで暮らしていましたが、手狭になり、吉祥寺の2LDKへ引っ越し。阿佐ヶ谷も吉祥寺も大好きな場所だった、と言います。
転機は2020年。コロナ禍です。仕事もリモートワークになり、散歩をしながら家を探すのが一時期ブームになっていたのだそう。
円さん:吉祥寺もすごくいい場所だったので、その辺で暮らすのもいいかな、と思っていたんですけど、彼がギターを弾くということもあって、広い家がいいな、とかリノベしたいな、という話が出てきて。探す範囲を広げる中で見つけたのが今の家でした。
もともとは、土地のほうが売りに出ており、家はおまけにすぎなかったのだそう。おもしろいから行ってみよう!というテンションだったので、最初から青梅に詳しいわけではありませんでした。
それでも移住を決めたのは、改めて「場」について考えたことが転機に。
コロナ禍における暮らしや価値観の変化から、「毎月十数万の家賃を払い続けてまでしてやりたいことってなんだっけ」「精神的に自由でいられる状態って何なんだろう」と考えることが増えました。さらにリモートワークに伴うパーソナルスペースの確保の限界もあったそう。
そして、「なぜ青梅?」という点については、「家の出会いが大きかった」といいます。
それが新しい家ではなく、65歳ぐらいの家で、実家に近い雰囲気だったのだとか。当時20代だったので若気の至りなところもあったかもしれないとしつつ、「古かったけど、逆に燃えた」と微笑むおふたり。
慧さん:移住してからリノベをスタートしました。家はまだ住むのが大変なときから引っ越して仕事が終わってから壁や床をいじったり。だからこそ、これまでにできなかった体験ができました。
また、住んでから青梅の魅力を知ったと言います。都会へも、自然へもアクセスが良かったり、車の運転が苦手なので、車がなくても生活できそうであったり。
ーー移住への不安などはなかったのでしょうか?
円さん:もちろん、都市周辺にしか住んだことがなかったので不安もありました。ただ、自分が都市に求めている要素をリストアップしてみると、意外と毎日行く場所ではなかったことが分かったんですよね。これも新たな発見でした。
リノベの様子も写真と共に慧さんにご紹介いただきました。同時にふたりで場を作っていく過程は大変さの中にワクワクさが感じられます。
ーー青梅での暮らしは実際どうですか。
円さん:今までいた場所、どの場所よりも季節感がすごく感じられるのがお気に入りです。また、カフェに飾ってある絵がすごく素敵で譲ってもらったり。また、青梅にはお祭りが多く、そちらにも行ってみたり。地域の活動が身近になったのでおもしろいな、と思っています。
暮らし始めてから、青梅でのお気に入りスポットや新たなコミュニティを見つけることができ、ますます星加さんご夫婦の青梅ライフが充実しつつあるようです。
自分に”わがまま”であれる秘訣は小さな違和感を無視しないこと
トークセッションでは、ファシリテーターから「自分に“わがまま”であれる秘訣」というテーマが投げかけられました。
慧さん:自分が決めたことをやったときは、どんな結果でも納得できると思うんですよね。言われてやってみたけど、やっぱりダメだった、だとあんまりハッピーじゃない気持ちになると思うんです。自分で決めてやれば、多分ハッピーなんじゃないかな、と。
円さんは「小さな違和感を無視しないことが大事」と言います。
円さん:別に解決しようとか思わなくてもいいんですけど、これは社会的にしょうがないからとか、今の状況だと仕方がないからで終わらず、じゃあどうしたらいいんだろう、と考え始めるとクリエイティビティが生まれてくる気がします。
そんな慧さんと円さんの言葉に大きく頷く岡山さん。
岡山さん:自分は何に興味があるのかとか、どんな暮らしが心地いいのかとか、そこに気づくことがもしかしたら第0ステップぐらいにあるのかもしれません。
「これをやりたい!」って突き進める人ばかりではないし、いろんな人と会ったりいろんな場所に足を運んで情報に触れてみるなど、気づきを得るきっかけとどれだけ出会えるかが大事なんじゃないかと思います。
岡山さん自身もいろんなきっかけをくれる人との出会いがあって、生かされている感覚があるのだそう。
岡山さん:アンテナを広げて人と会ったり、自分のやりたいことや違和感に気づくのが第0ステップとしてあるのかな。
ワークショップで「自分らしい暮らし」について考える
トークセッションのあとは、この日参加してくださったみなさんと一緒に「自分らしい暮らし」の在り方を探るワークショップへ。
トークセッションの内容を踏まえて、「自分らしい暮らし」について考えてみよう、というワークショップです。
まずは自分の「好き」や「惹かれる」などの直感で20個の暮らしのキーワードから5つ自分にとって重要なものを選んでいきます。
現地ではワークシートが配られて、丸の中に書き込みます。
そして選んだ5つのキーワードにひとつだけオリジナルを追加します。ひとつだけとなるとなかなか選ぶのも難しそう!?
さらに、選んだキーワードから連想するものを書き出し、マインドマップを作ります。例えば「自由」を選んだとしたら「多様な文化に触れたい」「好きな時間に寝る」「働く時間に縛られない」など。
ここからは、近くの席の人たちとグループになり、お話しながらワークショップを進めていきます。
自己紹介をし、自分がどんなキーワードを選んだのかをグループでシェア。ふっと空気が緩み、あっという間にあちこちから楽しげな話し声が聞こえてきます。
最後は、6つのキーワードと連想されたものをヒントに自分の「わがまま」な暮らしを想像します。
その暮らしをA3の紙にどどん!と書いていただき、ラストは発表へ!
参加者のみなさん、ひとりひとりわがままライフを宣言!していきます。
「12ヶ月を3つに分けたい!」とシーズンごとでやりたいことを宣言する方や、「夫の出身地との2拠点生活がしたい」、「心地よさの追求」、「自分のものは自分で作ろう!」などさまざまな宣言が飛び出しました。
「わがままライフ」についてあふれ出す想いは満載!そのあとの交流会も大いに盛り上がりました。
わがままライフは夢で終わりではなく、今回のゲストのように一歩踏み出してみれば、自分らしい暮らしを実現することが可能です。参加してくださったみなさんにとって、その実現への一歩となるイベントとなっていれば幸いです。