【実証実験アフターレポート】DOSAN NRT ー成田空港周辺を可動産で周遊体験する新しい旅の形

日本を代表する国際空港の一つ「成田国際空港」。”成田と言えば空港”というイメージが強く、周辺地域に溢れている魅力に目を向けたことがない方も多いのではないでしょうか。

そんな状況に対し、成田国際空港株式会社(以下、成田空港)とYADOKARI株式会社がタッグを組んで、可動産で地域を巡る旅「DOSAN NRT」の実証実験を行いました。

成田空港と空港周辺の地域事業者と共に行った今回の実証実験。可動産で地域の暮らしや文化、そして人を巡ることで、旅の出発点・終着点としてではなく、空港周辺エリア自体を旅の目的地とする観光事業の可能性を探りました。

2024年5月に1泊2日の実証実験ツアーを全4回実施。それぞれのツアープランはご覧の通りです。エアターミナルだけが ” 成田 ” ではない。そんな思いで実施された、全4回のツアーの様子をお伝えします。

成田空港の特別な施設でチェックイン!

旅の始まりは、成田空港の第2ターミナル。旅に同行して地域とゲストを繋ぐコミュニティビルダーがゲストをお出迎えします。簡単な挨拶を済ませたら、車に乗り込みチェックイン場所であるランプタワーに向かいます。

駐機場を走行する航空機などを管理しているランプタワーは、通常は関係者しか入ることのできない特別な場所。今回は成田空港の滑走路を一望できる展望フロアにて、ツアーのチェックインを行いました。

ランプタワーからの景色はご覧の通り。次から次へと離発着する飛行機に胸の高鳴りを感じながら、コミュニティビルダーよりツアーの概要や2日間のスケジュールなどが案内されました。

案内の際に使われたのが、旅のしおりである”タブロイド”。ツアーの工程表に加えて、地域事業者や空港職員から見た空港周辺地域の魅力や、おすすめの飲食店などが記されています。見るだけでワクワクするタブロイドは参加者に渡され、ツアー中にいつでも見ることができるようになっていました。

続いては成田国際空港会社の職員が、ランプタワーから見える景色と共に、成田空港が歩んできた歴史やあまり知られていない空港のさまざまな仕事をご紹介。

生き生きと空港について話す空港職員さんたちの笑顔によって、参加者たちも少しずつ緊張が溶けていく様子。空港に関するあれこれを前のめりに質問し、コミュニケーションが生まれていました。

空港の裏側見学

「空港魅力発掘ツアー」をテーマにしたプランDでは、チェックイン後に成田空港社員が運転する車に乗り込み、普段は立ち入ることのできない空港の裏側へ。厳重なセキュリティにドキドキしながら空港の門をくぐります。

敷地内では滑走路を移動する飛行機やなかなか見ることのできない整備車両とすれ違ったり、貨物倉庫の前を通ったり、安全に飛行機を飛ばすために働いている人の姿を見たり。

お客さんとして利用する時とは違った視点から見る空港に、興奮気味にカメラのシャッターを切る参加者の姿が印象的。滑走路に近い安全なエリアで車を止め、風を感じるほど近くで、離発着する飛行機を眺めることもできました。

空港の裏側を巡った後は、機内食を作っているゲートグルメジャパンの工場見学へ。

機内食の工場見学&ランチタイム

次に向かったのは、多数の航空会社に機内食を提供するゲートグルメジャパンの機内食工場。空港からほど近い場所にある工場では、取締役の宮田康弘さんと田中智子さんがゲストを迎えてくれました。

食材が調理され、空港に向かうコンテナへ詰め込まれるまでをたっぷりと見学。さまざまな宗教や思想の方に寄り添うスペシャルミール(特別食/宗教食)に対応したり、衛生管理によるミスが許されない機内食を安全に提供するために日々奮闘しているプロフェッショナルなお話に、参加者さんは興味深く耳を傾けていました。

その後は滑走路が目の前にある工場の屋上で、飛行機を眺めながらの機内食ランチ。


座席につくと、ゲートグルメさんの計らいでシャンパンと鮮やかなお花が用意されているサプライズが!素敵な心遣いに参加者もスタッフも感激し、身も心も満たされる幸せなランチタイムを過ごすことができました。

機内食を味わうランチピクニック

プランA~Cの方々は、ランプタワーでチェックインを済ませたら、カスタムバンに乗車してDOSAN NRTの滞在拠点である「ひこうきの丘」へ。

滑走路からわずか600mほどの場所にあるひこうきの丘は、頭上に世界各国の飛行機が飛び交う絶景スポットです。飛行機が飛び立つ瞬間を眺めながら、ゲートグルメさんからご提供いただいた機内食のお弁当を頂きました。

香取市 老舗酒屋店主の“いままで”をめぐるその場でインタビューツアー

A~Cのツアーでは、昼食後はひこうきの丘を発ち、地域プレイヤーが待つそれぞれのまちへ向かいます。プランAでは、成田空港からおよそ40分の香取市佐原町を訪れました。

香取市は利根川に育まれた豊かな自然や農地に恵まれ、小江戸と呼ばれる佐原の古い町並みと約300年の歴史を誇る「佐原の大祭」など、自然・歴史・文化に彩られたまちです。

そんな佐原町でゲストを迎え入れてくれたのは、明治42年に創業した老舗酒屋「髙橋酒店」の4代目店主である髙橋隆蔵さん。佐原で生まれ育ち、成田市でご自身の飲食店を経営していたこともある髙橋さんが、なぜ家業を継ぐことになったのか。髙橋酒店のお酒を嗜みながら、髙橋酒店、そして髙橋さんご自身の”いままで”をざっくばらんに聞かせていただきました。

その後は佐原の町へ飛び出し、江戸情緒あふれる佐原の町を、水陸両面から堪能しました。

【成田市】成田市の”顔”に完全同行!このまちの日常の楽しみ方に浸るツアー

プランBでは、成田空港や成田山新勝寺(以下、成田山)が有名な成田市で、10年近く観光事業を営んでいるOrange株式会社の代表・甲斐考太郎さんのもとを訪れました。甲斐さんは成田山の裏参道活性化プロジェクトや成田市の魅力を発信するメディアを手がけており、地域の見所やプレイヤーを知り尽くしているローカルキーマンです。

まずはオレンジのハッピに身を包んだ甲斐さんと共に、参道を歩いて成田山へ。数百年の歴史を持つ成田山で護摩祈祷した後、お坊さんとお話ができる場が用意されました。成田山の歴史に加え、お坊さんになろうと思った理由など”人”にフォーカスして話をお伺いする貴重な時間となりました。

一通りまちを散策したら、地元住民や空港で働く人々、成田でステイするCAさんにも人気なカクテルバー東洋へ。レトロな雰囲気とマスターとおもてなしに酔いしれる忘れられない一夜を過ごしました。

【横芝光町】地域の暮らしに惹かれた人々に出会う、移住者と地域と空港を楽しむツアー

プランCでは、空港から約35分のところにある横芝光町へ。九十九里浜のほぼ中央に位置する横芝光町は、カヤックやサップ、釣りが楽しめる恵み豊かな栗山川、人気なサーフスポットでありウミガメの産卵地としても有名な屋形海岸などがあり、豊かな自然と共に生きているまちです。都心から約70kmというほどよい利便性も魅力で、近年移住者や多拠点生活者が増えています。

今回はそんな横芝光町で、農業を営みながらNANJA MONJAというコテージを運営する秋葉秀央さん、香織さんご夫妻のもとを訪れました。

簡単な挨拶を済ませた後、まずはNANJA MONJAでハーブ摘み体験を実施。その摘みたてのハーブで作られたハーブティーを頂きながら、このまちで農業と宿泊業を営んで8年になる秋葉ご夫婦の話を伺いました。

秀央さんは横芝光町出身で、東京の第一線で働いた期間を経て、横芝光町で宿泊業を営んでいたご実家へUターン。香織さんは千葉県出身で、高校から東京へ通う生活をしており、社会人になってからも東京で働きながら充実した生活を送っていたそう。秀央さんと結婚してしばらくした後、横芝光町に移住されたそうです。

東京でバリバリ仕事をしていた時期を経て、Uターン、移住を経験した2人のお話に、自然豊かな地方への移住を検討している参加者の2人は興味津々。

香織さん「移住したばかりの頃は『こんな何もないところ嫌だな』とお高くとまっていたけれど、このまちで過ごすうちに、東京で活躍しながら自然と共に生きる暮らしを自ら選択している人たちがいるんだと気付きました。それまではこの町にないものばかりを探していたけれど、あるものを探してみたら、このまちには全部があった。最初は嫌いだった町が、今では大好きになりました」

都心部からの移住経験者である香織さんの素直な言葉に、深く頷く姿が印象的でした。

2人のストーリーに触れるお話タイムの後は、NANJA MONJA周辺の畑で秋葉さんが育てた野菜の農作業体験へ。野菜の収穫に加えて、エシャロットのうす皮と泥を落とす作業など、普段は触れることのない農家の手仕事も体験しながら、自分たちの手でBBQの食材を用意しました。

お2人のご厚意で他のお野菜や自家製のお味噌もいただき、BBQへのワクワク感が高まります。

最後は緑に囲まれた梅林へ。その場で収穫した梅を使い、梅ジュースづくりを行いました。

それぞれのツアーで地域体験の後は自由時間が設けられ、参加者の皆さんはカスタムバンに乗って、地域プレイヤーさんにおすすめされたスポットなどを巡っていました。

スタッフと巡る空港内ツアー

プランDでは、ゲートグルメの工場を出発した後、空港スタッフと共に空港内をめぐるツアーを行いました。展望デッキやおすすめのお店、出発ロビーやコワーキングスペースなどを巡り、人々の旅の出発点、終着点ならではのワクワク感を味わいました。

成田空港温泉 空の湯

プランDで空港内ツアーを終えた後は、成田空港で1番近い天然温泉が楽しめる「成田空港温泉 空の湯(以下、空の湯)」へ。空の湯を運営する三栄メンテナンス株式会社の代表取締役社長・萩原康宏さんがゲストをお出迎えしてくれました。

成田生まれ成田育ちの萩原さん。成田空港ができるにあたり、周辺地域が歩んだ歴史を生で体験していたお一人です。地域にとっては騒音の問題などでネガティブに捉えられることもある飛行機ですが、3階建ての最上階に露天風呂を作り、飛行機を間近で楽しんでもらう。そうすることで地元の人にも飛行機や空港をポジティブに捉えてほしいという思いでつくったのが、この空の湯なんだとか。

空の湯2階のリラックススペースには薪ストーブがあり、そこでは空港を拡張するにあたって伐採した木材を使っているそう。今回はそんな空港と空の湯のストーリーを聞いた後、伐採木の薪割り体験を行いました。

薪割り体験で身体を動かした後は、そのまま空の湯の温泉に浸かり、1日の疲れを癒します。プランA~Cでも、地域体験の後はそれぞれ自由時間を経て、空の湯で汗を流しました。

地元食材を堪能!空港夜景BBQ

空の湯で汗を流した後は拠点であるひこうきの丘へ戻り、お待ちかねのBBQを行いました。

ゲートグルメから提供されたBBQセット

NANJA MONJAからは畑で収穫された旬の野菜、ゲートグルメからは肉・野菜・海鮮・ご飯が揃った豪華BBQ食材セットが提供されました。


ドリンクは空港の夜景が見える位置に駐車されたROEDIE miniへ。このツアーのために特別に用意されたバーカウンターで、髙橋酒店で購入したお酒や成田空港が開発した地ビール(NARITA AIRPORT ALE)をゲットしました。

地域事業者さんのご厚意で集まった地元の食材とお酒を頂きながら、参加者の皆さんはのんびりと特別な場所でのBBQを楽しんでいました。(※今回の実証実験は特別に許可をいただき実施いたしました。)

空港が見えるトレーラーハウスで宿泊!

BBQが終わると、参加者はこの日の宿泊滞在場所である「ROADIE」の中へ。ROEDIEは、ロフトスペースを含む、約22㎡の広い空間が魅力のトレーラーハウスです。参加者は、2名で横になっても十分な広さがあるロフトスペースで夜を明かしました。

外の空間をシームレスに感じられる大きな窓が特徴のROADIE。参加者の方々はツアーの合間にソファに座ってくつろいだり、飛び立つ飛行機を眺めたりと、ROEDIEでほっと一息、休息の時間を過ごしていました。

カスタムバンでまちを満喫


2日目は12時のチェックアウトまで自由行動。参加者はタブロイドに掲載されている地域プレイヤーおすすめのブランチなどを参考にしながら、行き先を検討していました。

プランAの参加者は、前日に訪れた佐原を再訪し、たっぷりとまちの魅力を味わいました。他の参加者は、タブロイドに掲載されているお店にブランチを食べに行ったり、ひこうきの丘から車で20分ほどの成田山を訪れたり、ひこうきの丘でのんびりとした時間を過ごしたりと、それぞれが自由な時間の使い方をしていました。

最後はROADIEでチェックアウトをして、成田空港とその周辺地域の魅力を味わうツアーは終了です。

DOSANの可能性

愛知から参加したご夫婦からは、「今まで海外に行くときは深く考えずに関西国際空港を利用していたけれど、周辺にこんなに見所があるなら、次からは成田空港発の選択肢も検討したい」という感想が。今回のツアーで出会った地域プレイヤーの方と連絡先を交換するなど、今後も関係が続いていきそうな繋がりも生まれていました。

可動産を活用することで、普段目が向かなかった地域に足を運び、さまざまなストーリーに出会うことができる。確かにそこにあるのに見つからずにいた魅力に光を当てる、DOSANの確かな可能性を感じることができる全4回のツアーとなりました。

文/橋本彩香