お客様の「知らなかった」に出会い、初心を思い起こす旅/DOSAN MANAZURU x 鈴廣かまぼこ premium local tourism

 魚が苦手な子どもだったけれど、かまぼこだけは好きだった。

 小田原に生まれ育った私は、食卓のうえやお弁当箱の中など、毎日当たり前のようにかまぼこを食べる子ども時代を過ごした。友達と、「〇〇ちゃんのお家はどこのかまぼこ食べてるの?」と会話することもしばしば。他のまちのことは分からないけれど、小田原の暮らしは、きっとかまぼこが身近なのだと思う。

 好き嫌いが多かった私は、骨がある焼き魚が苦手だったけれど、お魚からできていてもかまぼこはたくさん食べることができた。

 大人になり、「かまぼこといえば」で地元でほとんどの人が最初に名前を挙げるであろう「鈴廣かまぼこ」に入社して、今年で四年目になる。普段は通販サイトの業務を担当していて、机に座ってカタカタとキーボードを叩いているけれど、今回はいつもと違う業務に手を挙げた。

「DOSAN MANAZURU x 鈴廣かまぼこ premium local tourism」

 真鶴エリアでサービス提供中の「DOSAN MANAZURU」と鈴廣かまぼこがコラボレーションした2組限定の特別なツアーで、お客様に鈴廣かまぼこの里をご案内する役割だ。普段もお客様のために仕事をしてはいるけれど、直接顔を合わせる機会はない。お客様に会ってお話する機会に胸が高鳴り、自ら立候補した。

 せっかく足を運んでいただくのだから、かまぼこのことも、鈴廣かまぼこという会社のことも、そして小田原のことも好きになってもらいたい。そんな思いで準備をしてきた。

そして迎えた今日。鈴廣蒲鉾本店の前で、お客様が来るのを今か今かと待っている。いつもの仕事では感じない胸のドキドキを抑えながら、お客様を待つ。歩き慣れた本店前の道に1泊分の荷物を背負ったご夫婦が現れ、楽しみにしていた一日がスタートした。

都内からいらっしゃったというお二人に、本店にある茶室に見立てた「如倶楽部ラウンジ」で、地元の銘品である足柄茶をお出しする。今回の旅について一通りのご案内を終えた後、鈴廣の店舗で使える「かまぼこの里ご利用券」をお渡しすると、奥様が「たくさん買えますね」と喜んでくれた。

 旅の案内を終えると、すぐそばの横断歩道を渡って「かまぼこ博物館」へ。博物館の一階では、かまぼことちくわの手づくり体験ができる。かまぼこの里随一の人気コンテンツで、お二人が今回のツアーに参加した理由の一つでもあるという。

 体験は、長年修行を積んだ弊社自慢の職人が、皆様の前でロールプレイをするところから始まる。包丁ですり身をつぶし、すくい上げ、空板に乗せて形を整える。なめらかな手つきであっという間に形になったかまぼこに、お客様が驚きの声をあげる。
 職人があまりに軽やかな手さばきで作るので簡単そうに見えてしまうけれど、実際は魚のすり身は弾力があって、あんな風に一筋縄にはいかない。体験に参加されている方も、思うような形にできず一度板につけたすり身をはがして、もう一度挑戦したりしている。

 そんな風に楽しみながら試行錯誤しているお客様の姿を見ていると、小学生の頃、学校に鈴廣かまぼこの社員がやってきて、かまぼこづくり体験をしたことを思い出す。就職先を探す年齢になると、ずっと心に残っていたその記憶に背中を押され、鈴廣かまぼこの門をたたいた。

 そんな幼い記憶に思いを馳せている間に、お二人のちくわができあがる。きれいに形作られたちくわを見せてくれたお二人の笑顔に、鈴廣かまぼこの一員としてお客様と直接触れ合える喜びを感じた。

 焼き上がりを待つ時間は、本社が小田原にある意味を感じてほしいという思いから、普段お客様にお見せすることのない本社見学へと足を伸ばしていただいた。鈴廣かまぼこのオフィスは、自然光、高断熱の素材、太陽光パネルなどの再生可能エネルギーを利用して、省エネを実現するゼロエネルギービルだ。そのこだわりを感じてもらおうと、今回のツアー限定コンテンツとして本社見学を取り入れた。

 オフィスにある「鈴廣」の二文字が、私と共にお客様を迎える。

 随所に散りばめたこだわりの中でも特にお二人が感動してくださったのは、地下水熱を利用した空調・調湿システムだ。鈴廣かまぼこのオフィスでは、床に空気の通り道となる穴が開いていて、地下水を利用して温めたり冷やしたりした空気がオフィスに上がってくるようになっている。
 この地下水はどこか離れた場所から引いているものではなく、オフィスの下に流れている地下水である。かまぼこをつくるために、創業以来鈴廣かまぼこが大切に守ってきたものだ。その受け継がれてきた思いの一端をこうしてお客様に届けられたことを、誇りに思った。

 そうこうしているうちに焼きあがった、手づくりのちくわを受け取りに行く。こんがり綺麗に焼きあがった熱々のちくわを頬張る二人を見て、私の心もホカホカになった。

 世界に一つだけのちくわをご賞味いただいた後は、かまぼこ博物館の中をご案内する。二階建ての博物館は、かまぼこづくり体験コーナーの他にも、歴史や栄養などかまぼこについて楽しみながら学べる展示や仕掛けがたくさん揃っている。

 かまぼこ一体に七匹のお魚を使っていることをお伝えすると、「かまぼこに魚のイメージがなかった」、「七匹も使われているなんて知らなかった!」ととても興味深く話を聞いてくださった。
 驚きながら楽しんでいるお二人の姿を見て、鈴廣かまぼこで働いている私たちにとっては当たり前になってしまっていることも、お客様にとっては馴染みのない新鮮なことばかりなのだとハッとした。

 なかでもお二人が興味を持ってくださったのが、職人のかまぼこづくりをガラス越しに見学できるコーナーだ。あまり知られていないが、かまぼこなどの水産練り製品の製造には、深い知識と高い技術を持っていることを証明する国家資格が存在する。鈴廣かまぼこではこの「水産練り製品製造技能士」の資格を持った職人を中心にかまぼこの製造を行っており、博物館では彼らの顔と作業風景が見えるようになっている。

「国家資格なんだ!知らなかった!」とかまぼこづくりが国家資格であることに驚きながら、ガラス越しに職人さんたちを見つめるお二人。「あの職人さんは誰かな?」、「〇〇さんじゃない?」と話をしながら職人さんを見つめていて、商品としての「かまぼこ」だけでなく、その向こう側にいる「人」に目を向けてもらえたことが嬉しかった。

 お二人と一緒に博物館を楽しんだ後は、かまぼこはもちろん、干物や揚げ物、お惣菜、お酒に和菓子、スイーツなど、鈴廣かまぼこのおすすめが詰まっている「鈴なり市場」へ。まずは鈴なり市場のなかでも特におすすめのかまぼこバーへお二人をお通しした。

 「お客様にかまぼこの味や食感の違いをもっと知っていただきたい」。そんな思いで始めたかまぼこバーでは、かまぼこソムリエが魚の風味の違いなどを説明しながら、店頭に並ぶかまぼこの食べ比べを楽しんでいただくことができる。

 お二人の前に一口サイズにカットされた自慢のかまぼこが並ぶ。その一つ一つを丁寧に口に味わい、グビッと冷たい飲み物で流し込む。1本4000円するかまぼこを含む「お試しセット」を食べたお客様は、「超特選のかまぼこは香りがすごかった」と、他の場所にはないかまぼこが主役のバーを楽しんでいただいたようだった。

その後はご案内をしながら、鈴なり市場でお買い物。自分の好きなかまぼこについて、実際の商品をお見せしながらご案内できる時間はとても楽しかった。「こういう料理に入れるにはどのかまぼこが良いですか?」と質問してくださり、宿泊されるDOSAN MANAZURUの拠点で食べるかまぼこや釜めしなどを買ってくださったのがとても嬉しかった。

 お買い物を終えると、あっという間にゲストお二人とのお別れの時間がやってきてしまう。最後は、小田原・箱根エリアの海の幸、山の幸が味わえる「えれんなごっそ」へお二人をご案内させていただいた。えれんなごっそは、「いろんなごちそう」という言葉をもじって名づけられた、かまぼこの里にあるビュッフェ形式のレストランだ。

提供:鈴廣かまぼこ株式会社

 地元の海の幸、山の幸と共に、鈴廣かまぼこのさまざまな商品を食べていただくことができるえれんなごっその魅力をお伝えし、私のガイドは幕を下ろす。名残り惜しさを感じながらお二人にお礼を伝えて、えれんなごっそを後にした。

 かまぼこの里のなかを、オフィスへ向かって歩く。ゲストの二人と直接お話しするなかで、働き始める前にかまぼこに対して抱いていたイメージを、自分が忘れかけていたことに気が付いた。

 かまぼこがお魚から作られていること、商品を選ぶときの目線、博物館の展示品のおもしろさ、小田原の大地でかまぼこを作り続けてきた鈴廣かまぼこの誇りー。日々この場所でかまぼこに携わっている私たちには当たり前になってしまっていることも、お客様にとっては当たり前ではないんだなと、初心を思い出すことができた。 

 大好きなかまぼこに携わる身として、もっとお客様に寄り添った目線で仕事をしていこう。そう決意しながら、いつもより少しだけ背筋を伸ばして、本社の門をくぐった。

文/橋本彩香  
写真/藤城佑弥