第5回:もしも移住するなら?小笠原のプロが語る“暮らしのリアル”|スゴイ!が日常!小笠原

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「島に住んでるとね、何でも屋さんになるんだよ。たとえば、内地だと水道が止まったら水道屋さんを呼ぶのが当たり前だけど、そもそも水道屋さんがいない。正確に言えば一人いるけど、蛇口のパッキンの交換ぐらいだったら、みんな当たり前にできるしね。そういうことが楽しいと思える人が島に根付いていくと思う。」

「小笠原エコツーリズムリゾート」代表にして、小笠原のプロフェッショナル。竹澤博隆さんへのインタビュー後編です。前編を読んで、『小笠原を旅したい!』、人によっては『小笠原で暮らしたい!』という想いを抱いた方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで、後編では、移住歴20年にして「竹ネイチャーアカデミー」「ハートロックヴィレッジ」「ハートロックカフェ」を総合展開している、島いちばんの何でも屋さんでもある竹澤さんに、小笠原で住むということ、小笠原で働くということ、その取り組みについて、お話を聞かせていただきました。

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知れば知るほど住んでみたい小笠原。離島暮らしに向いているのはどんな人?

小笠原って物が少ない島だから、必要な物を買うときはたいてい内地から。運送コストもすごくかかるし、欲しい物がリアルタイムで手に入らない。
だから、島に長く住んでる人ほど物を捨てない。古いものを取っておいて、工夫できる人が島に合っている人だと思う。

たとえば、うちのカフェのカウンターは梱包材のパレットを使ってる。一枚一枚にバラして、カンナをかけて、それをはりあわせて作ったんだけど、それが5年経ってもふつうに使える状態だし、あとはシロアリに食われないように位置を変えてやったり、空気の通りをよくしたり、ほんのひと工夫で長持ちするんだよね。

田舎のほうでもあるじゃない。古い小民家を解体して作りなおして……って。あれって、業者に頼んだら、新築を建てるよりお金がかかると思う。だったら自分たちでやればいいんだよ。そう言うと、内地の人は『仕事が忙しくてできない』とか色んな事情があるだろうけど、じゃあ何のために働くのかって言うと、生活のお金をつくるため。
だったら、家を建てるために働いてる時間で、直接自分で家を建てたほうが早い場合もあると思うんだよ。もちろん、器用不器用あるだろうけど、やってみれば意外とできちゃうもんなんだよね。

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必要なのは、ちょっとしたアイデアと行動力。小笠原での新しい仕事のつくりかた。

最近は、地主さんに協力してもらって、民有地内で外来種駆除のために山で木を切り倒したりもしてる。もともと、ツアーガイドをやりながら、『これは外来種です』って説明してたんだけど、お客さんに『外来種はどうするの?』と聞かれても、『行政が駆除してます』としか答えられないのが腑に落ちなくて。

しかも、世界遺産になって開発もできなくなったから、地主さんも法律の縛りがある場所では自分の家すら建てられない。でも、放っておくと外来種がますます繁殖する一方。
そんな理由で駆除をはじめたんだけど、伐採しても、切り倒した木をお金に変えないと、続けていく資金がなくなる。そこで、考えたんだ。観光客は小笠原の自然を求めて来てくれてるんだから、その自然を再生するという仕事はお客さんにとっても価値があるなと。そこで切り倒した木を使ってアクセサリーやコースターをつくりはじめた。

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うちは、『ツアー』と『宿』と『カフェ』と『お土産』、4つの事業を循環させてるんだけど、それは、どんなにキレイな宿に泊まっていても、ツアーがおもしろくなかったらガッカリするし、逆に『小笠原といえば自然だ!』とツアーに行って楽しくても、宿が都会的なホテルだったら、それもまたガッカリする。

お土産物だって、豪華絢爛なものは島ではつくれないけど、山のツアーで見た伐採対象の外来種が、コースターやアクセサリーになって再利用されていたら、ちょっとほっこりするじゃない。

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沖縄とは一味違う離島感。小笠原だと5年も住めば、間違いなく一島民。

小笠原のいいところはね、昔の長屋暮らしのような距離感と、都会のサバサバした一人暮らし感、その両方の良いとこがあるところ。沖縄でお店を開くと、10年経っても苦労する人もいるという。島の中で意見が分かれたら『あいつは内地から来たやつだから』って言われたりするかもしれない。

でも、小笠原だと5年も住んでりゃ間違いなく一島民の扱いになる。それは、歴史の深さの違いだと思うけどね。小笠原は、最初に人が住み着いたのが1830年ぐらい。それに比べると、沖縄は琉球王朝から続く長い歴史があるんだから。小笠原は、日本のニューヨークみたいなもんだと思うんだ。住んでる人も、本当にいろんな人がいるしさ。

あ、それにね、小笠原を旅したことのある人が、内地でその話をしたとする。そのとき、相手も『え、うそ!俺も行ったことある!』なんて話になると、他の旅行先ではありえないくらい盛り上がるよ。『え、小笠原に行ったの?竹ちゃんに会った?』『おー知ってる!竹ちゃん!』って、すぐにつながっちゃうぐらい狭いコミュニティだから(笑)。

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スゴイ!が日常!小笠原の「ひと」。後編では、“小笠原に移住するとしたら?”という観点から、移住歴20年、現在は「小笠原エコツーリズムリゾート」代表を務める竹澤さんに“小笠原暮らしのリアル”についてお話を聞かせていただきました。

僕が感じたのは、意外にも移住しやすい離島なのではないかということ。もちろん、距離や時間といった物理的なハードルは高いですが、小笠原は東京都であり、平均年齢も若く、移住者も多い。決して簡単ではありませんが、努力と熱意があれば応援してくれる人も増えるはず。その生き証人が竹澤さんなのかもしれません。父島の「ハートロックカフェ」に行けば、きっと会えると思います。小笠原を旅した際は、ぜひ訪ねてみることをオススメします。