川と陸、今年はどちらに家を置く?プラハに暮らす人々へ送る「Port X」
チェコ共和国の首都プラハを流れるヴルタヴァ川は、スメタナの交響曲「わが祖国」第2曲「ヴルタヴァ」のモチーフにもなっており、国民にとっては祖国を象徴する河川だ。
日本では、ドイツ語名「モルダウ」が定着しており知っている人もいるのではないだろうか。
オオハクチョウの行き交う静かな川面に浮かぶのは、浮力居住型組立てユニット「Port X」。この船は単なる移動手段なのではなく、人が住まえる家なのだそう。
家と会議室の接続?水の上で拡張できる住まい
プラハの建築設計事務所「アトリエSAD」の建築家Jerry Kozaの設計による「Port X」。
住居用途に限らず多目的に使用でき、モジュールユニットの接続により拡張も可能だ。3モジュールによる住居モデルに、スタジオや会議室などを増やすこともできるのだそう。
各部材は、壁、床、天井一体になっており、ヨットメーカーとの共同開発による外皮を持つ。各ユニットの値段は、おおよそ55,000ユーロ(約960万円 2024年7月現在)となっている。
川と陸、今年はどちらで暮らそうか?
「Port X」は、水陸ともに建てることができる。5~6年の水上生活を経て、子供たちが巣立っていくときなど、生活の変化に応じて、陸の丘陵地に移設することも可能だ。
水上を牽引することにより移動することができ、地上では、クレーンで吊るすことで移動ができる。また、電力や上下水道を独立させオフグリッド化が可能で、ソーラーパネル、風力発電、貯水タンクを備える。タンク交換や浄化装置を使用する事で汚水処理も可能なのだそう。
移動を想定した設計のため、オフグリッド設備と共に家ごと引越しができるのだ。
東欧の暮らしに寄り添う内装デザイン
左右のハメ殺し窓と水面側を含めた3面に加え、天井にはプラスチックの天窓が設けられ、東欧で貴重な陽射しを多く取り入れることが可能だ。室内環境は、床暖房による室内暖房が採用されている。
内部空間は石膏ボード壁で仕切られ、主要壁、天井、床は唐松材の羽目板が張られている。
リビングルームは常に水面側を向かせることにより、広大なプライベートビューが手に入る。また、川幅により、対岸に対して、プライバシーを保つこともできる。
これなら、過密な都市部においてありがちなカーテンを閉め切っての生活とも縁がなくなりそうだ。水面側のファサードはフランス窓を通じてテラスに出ることができる。
プラハは、近年洪水による被害を受け、数千人の市民が避難生活を余儀なくされた。
チェコに海はない。1000年以上、ヴルタヴァ川と暮らし続けるプラハの人々。水面に浮かぶ住居という発想も、プラハ市民の川に対する悲喜交々の思いから生まれたものなのかもしれない。