都市のシャングリラ。ドイツのクラインガルテンから学ぶ小屋のある暮らし

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畑で重たい土を運び、種をまけば、疲れ方だって普段とは違って心地よく、ふっと心が軽くなるという人も多いはず。
今回は、小屋と共に家庭菜園を楽しむドイツの文化「クラインガルテン」をご紹介しよう。
時代と共に、用途・役割を変え人々の暮らしを支えてきた小屋文化から学ぶ、豊かな暮らしへのエッセンスがあるはずだ。

クライガルテンの芽吹き

ドイツには、クラインガルテンと呼ばれるドイツの小屋付き家庭菜園の文化がある。
小屋のすぐ横で楽しそうに畑仕事をしたり、BBQをしたりする人々が笑顔の花を咲かせたり。夏になれば、春に蒔いた種が実を結び、菜園のオーナーは果物や野菜の収穫におわれ始める。そして、ドイツの園芸愛好家はしばしば、誰が一番美味しいニンジンやリンゴを育てたかとか、どの庭の花壇が一番美しいかとか、お互いに競い合うのだそう。
クライガルテンをもつドイツの人々はみな、小屋のある豊かな空間の中で、自然、そして他者とともにある温かい暮らしを築いていたのだ。

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クラインガルテンでの一日は、お隣さんとの会話で終わる。どこで買った種がいいよ、なんていう菜園の話しから、政治やサッカーまで話題はつきない。天気が良い日などはラウベと呼ばれる菜園内の小屋からテレビを持ち出し、屋外でスポーツ観戦をしながらビールやソーセージをいただく、なんてこともあるそうだ。

菜園愛好家協会(Gartenfreundeverband)によると現在、約400万人のドイツ人がクラインガルテンを楽しんでいるという。年金生活者のためのものというイメージが長くあったクラインガルテンは今、若い世代の人々をも惹きつけ、菜園保有者の平均年齢も60から47歳に下がったそうだ。街の中にある菜園に行くのにお金がかからないだけではなく、子どもたちが外で遊んでいる間に親たちも自然の中で新鮮な空気を吸ってリラックスすることができる、そんな要素に惹かれている人が多いのだそう。

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確かに日本では「家族サービス」なんて言葉があるように、休日に家族ででかけても遊ぶのは子どもで、お父さんは渋滞する高速道を運転しなくてはならず全然リラックスできない、なんてこともよく聞く話。しかし、クラインガルテンのように、子どもも親もリラックスし、満足できたら最高の週末になるはずだ。

クラインガルテンの成り立ち

クラインガルテンは19世紀、工業化にともなう都市の急速な成長のなか、人々の食料自給率をあげ健康を維持するために整備されていったもの。当時、ライプツィヒ市の医師だったシュレーバー博士が、都市化にともなう子どもたちの生活環境の悪化を心配し、自然や土と触れ合いながら子育てをする必要性を唱え、クラインガルテンの普及に尽力したという。クラインガルテンがシュレーバーガルテンとも呼ばれるのにも彼の功績が大きかったことが関係しているのだとか。

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暮らしそしてレジャーの場へ。時代と共に変化するクラインガルテン

ヨーロッパ各国にある家庭菜園同様、クラインガルテンは戦時中、もしくは世界恐慌の最中、市民のための大切な栄養源となった。そして、菜園内の小屋・ラウベは戦後、家を失った人々の住居としても人々の暮らしを守っていたのだという。こうしてクラインガルテンは時代背景に応じた役割を担い、今では市民のレジャーやレクリエーションの場として活躍している。ベルリン市では現在、3000ヘクタールのクラインガルテンがあり、その広さは市全体の3%にもおよび、街の緑化に役立っている。

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こうした菜園制度がない海外の国からやって来た旅行者が電車の中から小さな菜園と小屋が密集しているクラインガルテンを見て、「スラム街だわ!」と叫んだという笑い話もあるのだそう。

確かにラウベは大きくもなければ立派ではない。菜園だってささやかなものだ。それでも、クラインガルテンには貧しさとは対極の豊さがあるのではないだろうか。畑仕事を終えた夏の夕べ、ピクニックテーブルを囲みビールを飲みながら語らうひと時。豪華なものがなにもなくたって、そこには都会の中のシャングリラともいうべき、理想郷があるのだ。

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