目指したのは日本の禅。アメリカ生まれのトレーラーハウス「ESCAPE ONE」
日本の建築技術の素晴らしさを、一番知らないのはわたしたち日本人自身かもしれない。
実は世界の建築業界では、日本の「ある技術」が注目を浴び、しばしばトレーラーハウスを建てる際に用いられているのだ。
そして、サンスクリット語に由来を持つ「禅」という言葉も、日本文化を経て世界で「ZEN」として広まっている。
今回は、そんな日本人の精神性とも深く結びついているとも言えるトレーラーハウスをご紹介しよう。
日本古来の「焼杉板」でつくるトレーラーハウス
こちらは、米国の建築会社「ESCAPE TRAVELER」が手掛けたモバイル・タイニーハウス「ONE」。「ESCAPE TRAVELER」は、オーダーメイドにも応じるけれど、メインは自社デザインのモバイルハウスを制作しているタイニーハウス・メーカーでもあります。ウィスコンシン州のライスレイク(Rice Lake)という場所にオフィスを構ているのですが、ライスレイク(米の湖)という地名がなんとも日本人的には親近感を覚えます。
けれど、この「ONE」が日本的なのは地名からではなく、そのコンセプトと使われている技術に秘密があるのです。
まず、「ONE」の外壁に注目してみましょう。この黒い木材は、火で木材の表面を炙り炭化させることでこの色合いになっています。これは木材の耐久性を向上させる「焼杉板」という技術で、元々は古来の西日本の船大工たちが始めた技法なのだとか。海水にさらされる船を長持ちさせるために考えられたテクニックなので、その丈夫さは想像に難くありません。今でも瀬戸内海沿岸付近で家屋に用いられているそうですが、なぜか東日本にまでは伝播しませんでした。
しかしその「焼杉板」の技術は、今では「Shou-Sugi-Ban」として世界中の建築関係者に知られるようになってきているのです。以前「#casa」で紹介したイギリスの「Shadow Shed」の外壁も同様にこの「焼杉板」のテクニックが採用されていました。
「間」を意識した開放的な空間
こちらが、「ONE」の内部の様子。約7,6m×2,6mの細長いタイニーハウスですが、天井が4m以上もあるので、息苦しさはありません。手前の大きな窓は、まるで縁側に続く掃き出し窓のようですね。
窓の先の奥へ向かうと「リビングルーム」と呼ばれる空間が。けれど建築者である「ESCAPE」は「書斎にしても、ベッドルームとしても」「好きなものを置いて使って欲しい」と語ります。
そしてそのリビングルームの上に位置するロフトも、こんなに贅沢な空間の使い方をしています。天井の高さと、贅沢に3面に取り付けられた窓のおかげで「物置感」はゼロ。シングルベッドが二つ置けるサイズなので、十分快適な寝室として機能してくれそうです。
そのロフトから下を見下ろすと、このような空間が広がっています。キッチンの奥に見えるのはシャワーブースと洗面台、トイレをそろえたバスルーム。その上のスペースも収納に活用できそうです。
この記事中、「空間」「スペース」という言葉を繰り返し書いていますが、実はそれこそ開発者たちが意識したポイントでもあります。「ESCAPE」は日本の独特の「間」(ま)という概念に感銘を受け、デザイン・コンセプトにしたのだそう。「間」は外国語にはなかなか訳しづらい考え方なので彼らはそのまま「MA」と呼んでいますが、確かにこの「ONE」が空間を大事にしていることがよく伝わってきます。
「ESCAPE」の他のモバイル・タイニーハウスモデルの紹介ページではすべて家具付きの画像を掲載しているのですが、この「ONE」だけは何も家具がない空間を見せています。このシンプルさは、日本的な「簡潔」「ZEN(禅)」を意識してのものなのではないでしょうか。
「焼杉板」も「間」も、近代化の中で我々日本人こそが失いかけている技術・概念ですが、全く違う文化である遠いアメリカから改めてその良さを再発見させてもらった気がします。
小さな「ONE」ですが、その姿から私たちが学ぶべき重要性は大きそうですね。
Via:
tinyliving.com
dezeen.com
escapetraveler.net
inhabitat.com
(提供:#casa)