若者たちのクリエイティビティが溢れる。ブラジルのシェアハウス「Puxadinho」
ブラジルの首都にして南米最大の都市・サンパウロ。ビラ・マダレナという地域にある家を2人の男性が共同購入し、改装した。
この建物の名前は「Puxadinho」。形式張っていない自由な発想によって建てられた建物を活用した、ユニークなシェアハウスだ。
床面積は18.2スクエアメートルと決して広いとは言えないが、部屋は2部屋、バスルームは共同だ。
建築物の素材は、コンクリートにバラバラの石の破片を混ぜたもので、それをレイヤーのように重ねて作られている。そして椅子やフレーム、はしごやインテリアは、職人によって黒のフレームで作られたもの。統一感があり、コンクリートや木製のドアとの組み合わせでシックでモダンな雰囲気が感じられる。
安価に、そして限られたスペースでも効果的に建築することができたというが、安っぽさは微塵も感じない。
「ドア」は、通常、家の出入口であり、物理的には外から「建築物」という空間にアクセスするためのもの。しかし「Puxadinho」の場合は少し違った概念を持ち、「アクセスのためのツール」というよりは、「空間を作り上げるツール」となっているという。
この空間の中には、空間を区画するために作られた2つのドアがある。玄関から見て、水平にスライドするドアと、垂直にスライドするドアだ。
木製の扉が、スライドできる大きな壁のようになっており、その開閉で家内のスペースの区画を調整できる。全てオープンにすれば広々とした開放的なオープンスペースが出来上がるが、垂直の扉を引き出した場合、2つの別のオープンスペースとなる。
そこから、水平に動くドアを半分スライドすれば、1つは閉じた個室、1つはオープンスペースとなり、もう半分動かせばさっきオープンだった部屋が個室となり、さっき個室だった部屋が開いた空間となる。
1階部分は庭と直結しているため、完全にドアを開き切ってしまえば、緑が溢れるキッチンが誕生。庭を含めると、かなり広々とした共同スペースとなる。プライバシーが欲しければドアをスライドするだけでそれが確保できるのだ。
意外なところにミラーボールがあり、パーティーホールのような雰囲気を演出するのも「若者」らしいアイデアだ。
屋上は植物を育てたり、レジャーをしたり、日光浴もできるコミュニティースペース。ここからサンパウロの姿を見渡すこともできる。
はしごのすぐ左脇には一枚板が張られ、ベンチとして利用できる。寝っころがりながらサンパウロの空をぼんやり見上げるのもリラックスできそうだ。
屋上はただ楽しむだけのスペースではなく、「持続可能性」を実践する有効な空間でもある。降った雨を屋上で集めてタンクに貯め、外掃除用の水として使ったり、屋上で育てている植物への水やりに使ったりすることができる。
柔軟性、持続可能性、モダンさといえばブラジルの社会をよく表している単語ばかりだ。そして、これからの建築になくてはならないキーワードとも言えるだろう。
経済的発展が目覚ましい一方、貧富の差が広がる現在のブラジルで、気の知れた友だちと共に、遊び心を忘れずクリエイティブに過ごすことのできる環境は、若者にとって理想的な家なのかもしれない。
いくつもの空間を作り出せる2つの扉、暮らしを彩るミラーボール、屋外に出て、オープンな気持ちになれる屋上。
たとえ大掛かりなリノベーションやリフォームをしなくても、少しの工夫やアイディアで、今よりもちょこっと豊かな暮らしを手に入れることが出来るかもしれない。
若者たちが手掛けた「Puxadinho」が、そんなことを教えてくれているように思える。