湖のほとりに佇む。ユルト型のスロバキア式キャビン「Slovak cabin」
ここは昔ながらのヨーロッパの哀愁が漂うスロバキア。
首都のブラチスラヴァから20キロほど離れた場所、Vojka nad Dunajom(ヴォカ・ナッド・ドナヨン)の湖のほとりに建てられた、ユルト型のスロバキア式キャビン「Sovak cabin」をご紹介しよう。
「ユルト」と聞いてピンとこない方も多くいるかもしれないが、モンゴルの遊牧民の住居として有名な「ゲル」を想像してもらうとわかりやすいだろう。
「ゲル」はモンゴル式の言葉で、「ユルト」は南シベリア、中央アジアのトルコ系諸民族の伝統的な住居を指すという。ざっくりといえば円形のフレームを、皮やフェルトで覆ったテント状の伝統的な住まいだ。
建築したのは、Peter Jurkovič(ピーター・ユロコビック)が設立した、スロバキアの建築スタジオ「JRKVC」。彼の作品はいずれも低予算ながら、常識に囚われない自由な発想で価格以上の価値を生み出す事に定評がある。
今回のこのユルトの外観は円形ではなく、木で組まれたラティスフェンスのようなフレームで囲まれた、長方形の形をしている。
プラスチックの断熱材を使用した黒い壁の色を、ひし形に組まれた木のフレームで囲むことで、模様が映えモダンで個性的な美しいデザインになっている。
「それではユルトではないのでは?」という声が聞こえてきそうが、そこはご安心あれ。実は長方形のフレームの中に円形のユルトが存在しているのだ。
ユルトの中は白を基調としたシンプルでモダンな印象を受けるが、ユルトの特徴である円形の天井は伝統を取り入れ、木のフレームがむき出しになっている。天窓から放射線状に伸びる木のフレームがデザイン的にとても美しい。
日中は天窓から明るい日差しが差し込み、室内を照らしてくれる。見上げると、天窓が太陽のように放射線状に光を発しているように見える。
各地を移動する遊牧民の家では、あまり大きな家具などを置かない。このスロバキア式ユルトもそれにインスパイアを受け、家具をなるべく置かないような工夫がなされている。
例えば、ユルトの円形の側面にくり抜かれたスペースは「座る」ことができ、ソファーの代わりになる。このように家具をなるべく置かないアイデアにより、限られたスペースを最大限生かし、広々とシンプルに生活する事ができる。
真ん中に円形の丸テーブルがあり、ここで家族や客人たちと食事やお茶を楽しむのもユルトならではの楽しみ方と言えるだろう。
ユルトから飛び出したスペースの両側に、クローゼット収納スペースに思える扉がある。なんと、ここにキッチンと寝室が隠されている。
左の扉を開ければ、そこにはコンパクトにまとめられたキッチンが隠されている。小さいながらも機能的で、オーブンや収納、シンクも完備で料理も十分にできるスペース。使わないときは、扉をしめることですっきりとした室内に。
右の扉を開ければ二段ベッドが収められ、まるで秘密基地のような寝室だ。
テラスに続く窓を開けると、目の前に湖が一望でき、スロバキアの閑静で美しい自然を楽しむ事ができる。大きな窓ガラスを解放すれば、外との境界がなくなり風通しが良くなる。
現在では世界を渡り歩く「ノマド」というライフスタイルがブームとなり、スモールハウスやミニマリズムと結びついているが、これは「nomad」という英語からきており、これはもともと「遊牧民」という意味だ。
そのノマドの原型とも言える住まいの「ユルト」を現代的に再構築するということにより、過去に想いを馳せつつ、現代的なノマドは古人の知恵を享受する事ができるのかもしれない。
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