まるで庭の一部。蔦に覆われたライターのためのタイニーハウス
おしゃれなカフェのようなスペース。ここは、オーストラリア・メルボルン在住の建築家Matt Gibsonが、同じくメルボルンに住むライターの庭の中に建てた小屋。なんと外面は蔦に覆われており、この小屋が庭にあることに気づかない人もいるかもしれない。秘密基地のような作業スペースだ。
世界で一番住みたい都市ともいわれているメルボルン。そのメルボルン南東の郊外にある依頼者が住む庭の片隅に、この興味をそそられる「蔦で覆われた小屋」が、まるでしまいこまれたかのように建てられている。
庭の片隅、たった10㎡を使っただけであるにもかかわらず、この小さな建物はライターのために眺めの良い快適なワークスペースを提供してくれている。
庭の一部になるような建物を作りだそうと考えた建築家のGibsonは、このプロジェクトをランドスケープデザイナー(植栽のデザイナー)のBen Scottと一緒に行ったという。
彼らが植栽に選んだのは、ボストンアイビーという種類の蔦。成長が早く、建物の壁全面に伸びていくが、目立ちすぎないツル科の植物で、建物を光や熱から守る特性がある。暑い日にもエアコンなどでエネルギーを使うことなく、内部を涼しくしてくれるのだという。
庭の風景に溶け込み、お隣との境界フェンスのようにもみえる小屋。つまり、小屋が後から庭に付け加えた建物ではなく、成長していく庭の一部になるようにするプランだったとGibsonは説明している。
部屋はシンプルな長方形の形をしており、一面だけがカットされている。そこには、壁とつながり、コーナーを包み込むようにデスクが置かれ、広々とした作業スペースを作り出しています。
カットされた面にある大きな窓からは、庭と家を広々と見わたすことができる。また、天窓からは、自然の光が燦々と内部に差し込む。
「この机に向かい、庭とその先にある家をみていると、普段気が付かないけれど、実はすでに自分のそばにある幸せを確かに感じることができるのです」と、Gibsonは語る。
彼の表現によると、この家は、どちらかというとシンプルで、ローテク。そして、手ごろな価格と丁度良い建築方法で作られているとのこと。
蔦の下に、薄い合成ゴムが敷かれており建物を覆っている。まるで海の中をダイビングするときのウェットスーツのように、建物の防水と断熱をしてくれているのも特徴の一つ。
内部の壁、床、天井、そして家具にはナンヨウスギのベニヤ板が使われており、統一感を生み出している。机の横には、2つの棚があり、依頼主はたくさんの本やファイルを置くことができる。
このベニヤ板は持続可能な植樹方法により作られており、この建物をより環境にやさしい建物にするために選ばれた。
建築家のGibsonは「メタル・メッシュのカーテンで組み立てられた住宅増築部分」や「銅で覆われた箱でできた住居」といった数々の住宅プロジェクトを完成させています。
職種や働き方によっては、オフィスではなく自宅で働くことを選べるようになってきた現代。彼はこのライターのための家を、シンプルで快適なワークプレイスを、住居に持ち込む込むことが可能かを示すモデルと見なしている。
働き方や生き方は、環境や技術に合わせ変化していくもの。そして、古典的な考え方には、挑戦していくことも必要。そんな取り組みの中で、新しい可能性が生まれてくると彼は考えている。
そして、人口密度が高く、刺激が多く、複雑な人間関係が多い仕事場には、バランスがとれるこのような小屋が必要だとも考えているという。
このライターのための小屋は、人とのつながりから切り離されたフレキシブルな仕事場。隠れ家のようなプライベートなスペースにいると、消耗していた想像力を再充電することができ、集中力が増して、新たなインスピレーションも湧いてくるだろう。
ライターという職業でなくても、プロジェクトの企画をしたり、そのプレゼンテーションの準備をしたりするデスクワークには、こういう空間があると生産性があがるかも。ぜひこの小屋のなかで働いてみたいものだ。
Photography is by Shannon McGrath.