イタリアアルプスの息を呑む絶景。3,000メートルの断崖に張り付くシェルター
3,000メートルを超えるイタリアアルプスの急峻な尾根に、情熱的なアルピニストのためのシェルターが岩に張り付くように置かれています。長時間の厳しい登山でアクセスできた者には、息を呑む天上の絶景を静かに楽しめる時間が待っています。
イタリアアルプス北西部のヴァルペリーネの山頂のモリオンの尾根には、マッターホルン、モンテ・ローザ、モンブラン、アオスタ渓谷南部の山々を一望する景色が広がっています。尾根全体を横断するには3日もかかるため、アルピニストにとって忘れられたルートになっていました。シェルターは、ルートを復活させるための休息所として利用されるよう設計されました。
標高3,290メートルのモリオンの尾根に位置するシェルターは、アプアンアルプスで悲劇的な死を遂げた登山家、ルカ・パスカレッティ(Luca Pasqualetti)の名前を取り、「ルカ・パスカレッティのビバーク」と呼ばれています。
ビバークは、イタリアのトリノ工科大学の研究者・建築家であるロベルト・ディニ(Roberto Dini)とステファノ・ジロド(Stefano Girodo)が設計。高度なプレファブ技術を有するLEAPfactoryと協力して、2017年7月から8月にかけて、オフサイトのワークショップでユニットを組み立てました。その後、チームは完成したコンポーネントを仮設の場所に運び、その間に高地にある設置場所の準備をしました。
厳しい高山の気候は、建築家にとって大きな設計上の課題となりました。構造物は、マイナス20℃以下の気温、風速200kmの暴風雨、数メートルにおよぶ積雪などの過酷な気象条件に耐える必要がありました。
シェルターの構造は木と鋼の高強度複合パネルでできており、最終的な組み立てに必要なヘリコプターの飛行回数を減らすために、4つのコンポーネントに分割できるよう設計されています。
コンポーネントは高品質の素材を使用しているため、耐久性に優れており、すべてのパーツがリサイクル可能で、エコロジー認証を取得しています。
山頂への移送を待っている、究極の機能性を持つコンポーネントは、インスタレーションアートのようです。
プレファブのコンポーネントはヘリコプターで吊り上げられて運ばれ、2018年9月10日に地元の高山ガイドのグループの協力のもと1日で設置されました。
ビバークのシャープなエッジはモリオン尾根のギザギザとした岩の風景にフィットしています。建物の金属被覆は山脈のグレーの色調に溶け込み、インテリアは木製パネルで裏打ちされ、保護シェルとは対照的な居心地の良い美学を生み出しています。
ビバークの入り口は建物の中央に配置され、13平方メートルの内部空間をスリーピングエリアとリビングスエリアに分割しています。風や降雪から保護するために、周囲に張り出したフレームの中にセットバックされています。
東側の切妻のファサードに設けられた巨大なパノラマウィンドウからは、室内を暖かく保つための十分な日光が差し込み、イタリアアルプスの風景を一望することができます。
リビングエリアには、8人掛けのテーブルがあります。サイドボード、調理台、バックパックや登山用品を収納するための壁に組み込まれた収納スペースもあります。
スリーピングエリアはシェルター後部にあり、2つのベッドプラットフォームにマットレスを敷いて8人まで寝ることができます。小型バッテリー式ソーラーパネルが搭載され、最低限の照明を確保しています。
プレファブのビバークは、環境への影響を最小限に抑えるように設計され、永続的な基礎なしで金属製の台座を介して岩に固定されています。ビバークのライフサイクルの終わりには、地面に痕跡を残さずに撤去することができます。
決死の努力でたどり着いた者だけに許される絶景。まさに究極の体験をもたらすタイニースペースです。