海と共生できる「パラパ」とは?~メキシコの伝統建築を日本のビーチサイドハウスに~

心地よいさざ波に癒され、潮の香りで包まれる。あなたはそんなビーチサイドでの暮らしに憧れがあるだろうか。
オシャレな生活や心身を癒す環境を求めて海沿いに家を建てる人も多いだろう。そんな中でイメージされやすいのは、長い板を重ねた外壁にカラフルな差し色があるような外観、広いウッドデッキ、フローリング、そして三角屋根のアメリカンビーチハウスだ。

アメリカンビーチハウス一例

パラパ一例

しかし今回皆さんに知ってほしいのはメキシコの伝統建築である「パラパ」だ。聞き馴染みもなく、イメージも湧かないだろう。乾燥したヤシの屋根(かやぶき)を使用しているものだという。日本では茅葺系の屋根がある家というと山奥にある住居の印象があるかもしれない。しかし実はビーチサイドハウスにピッタリな性能を持つ住宅構造なのである。またウェルネス、ウェルビーングが注目される今、人々の心身や自然にコミットした環境を与えてくれる住居としてもパラパが再注目され、現代の建築技術やデザインで活用されているらしい。

果たしてどんなメリットがあり、海と共生できるビーチサイドライフを日本人に対してどのように提供してくれるのか、現地メキシコの建築例を見ながら探っていこう。

「パラパ」にはどんなメリットがある?


パラパは特にメキシコのユカタン半島でよく見られ、長年地元の人々を雨と太陽の両方から守ってきた。そもそもパラパは、乾燥させたヤシの葉を3重ほどに重ねた三角屋根とオープンな部屋の作りが大きな特徴である。主に注目されているメリットとして「自然換気」「自然光」「湿度」「室温」「耐久性」などが挙げられる。

ヤシの屋根は雨風を防ぎながら屋外の新鮮な空気を取り込み、また熱気も逃がしてくれる。また強い日差しを遮りつつ自然光を取り込んでくれるため、寒すぎたり暑すぎたりする室温の調整もできるのだという。そもそもが丈夫な素材であるため耐久性に優れ、適切にメンテナンスをすることで何年も長持ちしていく。

パラパは持続可能で自然を有効に取り入れる性能に優れているが、そのルックスや無垢材の香りもリゾート感を演出し、リラックス空間の中で過ごすことができる。更に海や自然を身近に感じるのにピッタリな住居なのだ。続いては、パラパを利用した現代の建築にどんなものがるか、メキシコの建築例を見ていこう。

プンタ カリザ ホテル/ホルボックス

https://puntacaliza.com

メキシコはホルボックス島の海岸近くにある「プンタ カリザ ホテル」。
このホテルの大きな特徴は、どの客室もプールに隣接している点である。
建物の中心部にプールがあり、どの部屋からでもアクセスできるのだ。プールから上がった状態でも休める客室は、無垢材で造られたパラパで全ての屋根が茅葺きで覆われている。ホテルで使用されている木材はすべて30年以上前にホルボックス島で植えられたもので、元ある周りの植生や自然を尊重するためにも建設には地元の材料が活用されているのだという。

パラパと海を連想させるプールの存在によって、環境建築と自然とが調和するようにデザインされている。屋外と屋内の空気や気温、雰囲気を調和させることで、ストレスのない完全なリラクゼーション空間を作り出した建築例のようだ。

エル ペルディド ホテル

https://visi.co.za

続いてはメキシコはエル・ペスカデロにある「エル ペルディド ホテル」。こちらも海岸沿いの街にあるホテルだ。
伝統的な建築技術と材料を使用した、版築壁(はんちくかべ)と茅葺き屋根が特徴である。版築壁は砂や粘土などを混ぜたものを固めて作られる。耐火性、通気性、熱を吸収する能力に加えて遮音性にも優れており、サステナブルな建築に適したメリットがあるという。

ヴィラにはむき出しの木材フレームと手作りの木材仕上げ、茅葺きで覆われた木切り屋根、版築壁によって、夏に受動的冷却、冬には受動的暖房ができる構造。ビーチサイドハウスとして家にも住人にもストレスの無いよう、敷地内の温度、降水量、湿度、風、日射入射が細かく計算されているようだ。
地元地域の生活様式を尊重しながらも、現代の技術と知識によって内外の透過性が高くなった建築例である。

“パラパ”がある生活は日本人と海を更に繋げる

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これらの建築例を見てみるとパラパは地元材料を使用し持続可能な材料で造れることでも注目されている。茅葺屋根だけでなく、壁や床なども持続可能な素材を使用することが多いようだ。特に版築壁を使用すれば茅葺屋根の性能をサポートするだけでなく、耐火性や遮音性までも補ってくれる。

今回ホテルを主に取り上げた理由は、ホテル利用者が心身ともにストレスなく過ごせるように利便性だけでなく、リラクゼーション、ウェルビーングな視点からも抜け目なく設計デザインされているからなのだ。パラパのメリットは多々あるが、それらの性能を通して屋外と屋内を繋げるような空間を作り出せるところが大きな魅力。塩害、寒さ、暑さ、湿気などの対策をすれば、ビーチサイドライフも可能になり、環境にも人にも優しい住宅で過ごすことができる。

私たちにとって馴染みがあり、深い安らぎをもたらす茅葺屋根とともに、
心身を癒し、環境へもやさしい、そんな海と共存するビーチサイドの生活を取り入れてみるのはいかがだろうか。

【参考】
ヤシの屋根とわらの屋根:その可能性を探るメキシコの例
ゾザヤ・アルキテクトスは、乾燥したヤシの葉を備えたメキシコのビーチハウス「カーサ・ラ・ヴィダ」の上に立つ
プンタ カリザ ホテル ホルボックス
隠された楽園を発見:プンタ カリザ – 建築と自然が融合する場所
プンタ カリザのブティック ホテルにマヤ建築を様式化
エル ペルディド ホテル
エル ペルディド ホテル、エストゥディオ ALA