肩書きは一つじゃない。先生であり専門家なフォルケホイスコーレでの働き方 〜「先生×ジャーナリスト」編〜

photo by Nanami Kawaguchi

副業が浸透しパラレルワークをする人が増えている。しかし、あくまでサブの仕事という位置付けであり、自信を持って肩書きとして名乗るには少し気が引けてしまうのではないだろうか。

私はデンマークのフォルケホイスコーレという学校で、「先生」かつ「ジャーナリスト」、「写真家」、「映画ディレクター」と専門性の高い仕事を組み合わせた働き方をする人たちと出会った。彼らの情熱はどちらか一方に傾いているわけではなく双方に向けられていた。
副業にとどまらない、肩書きを複数持つ働き方の可能性を3人の先生へのインタービューを通して伝えたい。

新しいことへの出会いと挑戦。フォルケホイスコーレ流の学び方

photo by Nanami Kawaguchi

フォルケホイスコーレとは北欧独自の教育機関。デンマーク人の教育、哲学者であるグルントヴィが「すべての人に教育を」というコンセプトのもと創設したことが始まりだ。
アート、スポーツ、福祉、哲学など特定の分野に特化した学校が多い。しかし、入学試験や成績評価はなく、大学進学前に自分の興味を探求したい若者や人生半ばで新しいことに挑戦したい人など、あらゆる方面に門戸が開かれている。
それゆえ、フォルケホイスコーレの先生は高い専門性はもちろん、教育者として生徒を育む心意気も必要とされる。

現役のラジオジャーナリスト Esben Kvist Lundさん

photo by Nanami Kawaguchi

第一回目はOdder Hojskoleで「ジャーナリズム」、「コミュニケーション」、「Podcasts」の授業を担当するラジオジャーナリスト、Esben Kvist Lundさん(取材時28歳)の働き方を紹介していきたい。

Esbenさんは高校卒業後、将来何がしたいのか分からず3年間のギャップイヤーを取得。旅をしたり、自身もフォルケホイスコーレに通ったりする中でメディアについて学ぶことを決めた。
大学の専攻と仕事が直結しやすいデンマークでは、多くの人が将来についてじっくりと考えるためのギャップイヤー(余白期間)を過ごす傾向にある。

photo by Nanami Kawaguchi

悔しくも高校の成績が希望する大学に届いていなかったが、実用的にジャーナリズムが学べる専門学校に通うことにした。
在学中に1年間の国営放送局でのインターンを経て、同じ職場に就職。元々ラジオを聞くことが大好きだったためラジオジャーナリストの道を選んだ。

フォルケホイスコーレの仕事に出会ったのは、ジャーナリストの先生を募集する求人を偶然兄が教えてくれたことだ。教育についての知識と経験はなかったが挑戦することを決め、見事合格。2022年の秋からフォルケの先生とフリーのジャーナリスト、二足の草鞋を履いて働き始めた。

やりくり上手に働き方をカスタマイズ

「こんな多忙そうな仕事をどう両立しているの?」という疑問が浮かぶのではないだろうか。詳細を聞いてみると、意外と難しくはなさそうだ。

現在の主な収入源はフォルケの先生。デンマークではフルタイムの仕事は1週間で37時間勤務が基本だが、Esbenさんはフォルケでの仕事を全体の65%程度(約24時間)に抑えている。勤務は曜日固定のため、授業がない日にラジオ局から受けた仕事をこなす。

業務内容は取材の許可取り、他の取材者のサポート、音声の編集など。メインで取材をするというよりは時間を問わずできるサポート業務が多い印象だ。
しかし、今まで「ロード・オブ・ザ・リング」の著者や政治家など著名人へのインタビューも担当したことがあり、普通はできないような体験ができることに魅力を感じているそうだ。

楽しむ秘訣は良い塩梅

photo by Nanami Kawaguchi

仕事は好きかと問うと、彼の答えは「もちろん!」だった。特に今の働き方はバランスが気に入っていると言う。
ラジオジャーナリストとしてフルタイムで働いていた頃は、日々のタスクや締め切りでストレスを多く感じていた。しかし、フォルケホイスコーレの先生という新たなエッセンスを加えたことで、自分の専門性を活かしながら余裕のある働き方を実現させた。

日本では専門性が高い職種ほど「こうあるべき」という固定観念が強すぎるのかもしれない。それぞれができることを活かして仕事を分け合うことによって、ストレスレスかつ幅広い仕事に挑戦できる可能性が広がりそうだ。

[参考]
・一般社団法人IFAS フォルケホイスコーレとは

フォルケホイスコーレとは