介護は管理から見守りへ。認知症やアルツハイマーの人たちだけが住む村から学べること

介護と聞くと、介護する側の苦労をイメージしてしまう人は多いだろう。実際に、近年の日本では、介護をするために仕事を辞めざるをえなかったり、認知症の家族から暴力を振るわれて心を病んでしまう人がいたりするなど、辛い話題が跡を絶たないのが事実だ。

介護している側の人間ばかりが大変。そのようにも感じてしまう介護だが、以前、こんな話を聞いたことがある。
「認知症の人がする徘徊は、不安を解消するために動いている」というものだ。認知症により、時代や時間があやふやになってしまっているのはその通りだが、本人は「会社に行かなくては」「家に帰らなくては」と、目的を持って外に出ていく。この動きを介護する側が「徘徊」と呼んでいるだけで、本人は自分なりに問題解決しようとしているのだという。だからといって外を自由に歩き回るのは難しい…。
実は、そんな「難しさ」を取り除いた仕組みが、オランダとフランスにあるという。

認知症患者とヘルパーだけでできた「夢の街」ホグウェイ

オランダの首都アムステルダムに位置する村「ホグウェイ」は、少しシニアの数が多いことを除けば、他の村と大きな違いはないように見える。実はこの村、規模を大きくした介護老人施設であり、村内にある施設すべてが認定された介護士、もしくはヘルパーなのだという。

少し外に散歩に行きたいという入居者は、一人で外へ出ていく。数時間散歩したのち、若い職員とペアで帰ってくる。買い物に行く先のスーパーで、とある認知症患者がモノを盗んでしまった。それでも、入居費用から後日差し引かれるので問題ない。

via:https://hogeweyk.dementiavillage.com/#NaN

居住スペースは、入居者のかつての暮らしに近いものを選べるよう、4つのテイスト別に分けられている。都会的なURBAN、国際色豊かなCOSMOPOLITAN、オランダの伝統を活かしたTRADITIONAL、ハイクラスな暮らしのFORMALだ。それぞれの棟で、3~4人の入居者と共に暮らしていくのだそうだ。

驚くことに、入居者のほとんどが重度の認知症患者であるにも関わらず、亡くなる数日前までは元気に過ごしているのだそう。認知症になると寝たきりになる、動けなくなるといったイメージは、ホグウェイにはないようだ。

「帰りたい」気持ちを昇華させる緑の箱?アルツハイマー村

フランスのダクスという街にある5ヘクタールもの大きな村。ここが、アルツハイマーの人たちがのびのびと暮らす場所だ。入居者120人に対し、その倍の数ほどの職員とボランティアがケアにあたっている。村の中は、どこにでもありそうなフランスの田舎の風景が広がっている。池があり、家畜がいて、歩くのに不都合そうな砂利道や傾斜もある。利用者の足腰を鍛えるため、あえてこういった障害も取り入れているのだという。

特徴は、居住棟のなかにある、深い緑色の形をした大きな箱だ。大人2人が入れるほどの大きさで、向かい合った座席はどこか列車を彷彿とさせる。

via:https://president.jp/articles/-/61961?page=3

この緑の箱は、入居者の中で「帰りたい」と感じた人が入り、「まるで帰っているかのような」気持ちにさせることで、帰りたいという気持ちを昇華させるためのスペースだ。窓にあるモニターには、走行中の列車から見えるような流れる景色が映り、本当に動いているかのような気持ちになる。ほとんどの入居者は、この映像を見て落ち着くのだという。

我慢せずに暮らせる環境づくり。日本は「地域の協力」からはじめていく

オランダのホグウェイや、フランスのアルツハイマー村のような施設を、日本に作るべきだと思う人もいるだろう。しかし、日本には「村を丸ごと作る」だけの土地がなく、実施することが難しいという。陸続きのオランダやフランスと違い、日本は島国で、その7割程度が山岳地帯。土地を切り開き、村を作り出すことに地理的な制限がある。
そこで、オランダのホグウェイや、フランスのアルツハイマー村の代わりとなる地盤づくりとして、日本では地域ぐるみの支援を広めようという動きがある。

2015年に厚生労働省が提唱した新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)。
そこには、「認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で、自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指す(引用1)」と明言されており、そのために学校や企業で、認知症を知ってもらうための活動が行われたり、90分の講座を受講して得られる認知症サポーターの養成に取り組んだりもしている。
これには、地域でシニアが暮らしやすいように、手すりやスロープを設置するといったハード面での対策も含まれている。

地域の一人ひとりが認知症に対し理解を深め、サポートできる体制づくりは、日本で認知症やアルツハイマー病の方、その家族が暮らしやすくなるための第一歩だと言えるだろう。とはいえ、地域の人たちに無償で理解を求めるだけではカバーしきるのは難しいかもしれない。部分的にでも他国の設備を取り入れたり、日本でも似たような大規模な村づくりを構想するのもひとつの手だろう。

認知症やアルツハイマー病といった名前がついても、その人らしさを尊重して暮らせるような環境づくり。我慢せず、したいことがしたいときにできる環境づくりが、理想論とは言われなくなるような日が来ることに期待したい。

 

参考サイト:

“その人らしく最期まで(後編)~4つの居住スタイル 蘭の「認知症村」”.なかまぁる

https://nakamaaru.asahi.com/article/14713781

“その人らしく最期まで(前編)~日本人初 仏「アルツハイマー村」訪問記”.なかまぁる

https://nakamaaru.asahi.com/article/14712230

引用1:”認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)”.内閣官房

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ninchisho_taisaku/dai1/siryou1.pdf