セカンドライフこそ、もっとあなたらしく。自由な未来へと誘う、シニア漫画のヒロインたち
定年退職によって、課長や部長といった会社での役職を失う。子供の自立に伴って、家庭での役割を奪われてしまう。すると、自分の役割どころか、自分の生きる意味、生きる場所すら失ったように感じ、ひどく落ち込んでしまう…こんな心の病に苦しむ人もいるほどだ。
そんな「何か大きな役割を終えた人」のその後を描くマンガが今増えている。若くして冒険の旅に出るわけでも、サラリーマンが異世界で無双するわけでもない。マンガの主人公は、なんと80代中心のシニア層なのだ。
役職や役割を終えるのは、次を探すチャンス
マンガの主人公の抱える背景はさまざまだ。会社役員を夫に持ち、炊事洗濯から身の回りのお世話すべてをやってきた女性。小説家として一世を風靡したが、80を過ぎて同居する息子夫婦とソリが合わずに悩む女性。夫に先立たれ、娘は外国へ嫁ぎ、3世代住宅に一人で住む女性。100%自分にあてはまるわけではないけれど、どこか親近感を覚えるヒロインたちは、全員80代だ。
全員に共通していたのは、「この歳じゃあ、もうね」という、自分と未来への諦観だ。どの女性も、妻として、母として、職業人として、やるべきことを全うした、はずなのに、どこか空虚でさみしい気持ちになる。マンガの展開を通し、その気持ちを突き詰めた先にあったのは、次のステップに進むこと、挑戦を続けることなのだった。
これまで当たり前にこなしてきた仕事や役割がなくなると、自分の存在価値が揺らぐ。揺らぐのならば、次を見つければいい。それに制限や限界なんてない。そんな「誰もが抱える悩みのその先」を照らすようなシニアヒロインの存在が、今続々と出てきているのだ。
生きるための仕事から、したい仕事へシフトチェンジ
老いたことを逆手に取った生き方もある。”海を走るエンドロール”の主人公うみ子は、65歳。年金が受け取れる年齢であることや、先だった夫が残した貯金、持ち家など、10代や20代よりも金銭的な余裕がある。だからこそ、65歳で映像系の大学に入学する、という決断ができた。
生きるための仕事をこなす必要があった、20代から50代ごろには選べなかった道。「年を取ったから、これくらいしかできない」ではなく、「このタイミングだからこそできること」に注目しているのがポイントだ。これは「シニアでもできる仕事」という従来の仕事観を覆す、大きな動きだといえる。
「シニアであること」が一般化していく流れ
かつて、マンガでシニアを題材とすることは異例で、取り上げること自体が注目される理由にもなっていた。しかし、近年、多様な漫画が続々と出ているなか、良い意味でシニア漫画は普通になってきている。シニア漫画内では、老いを取り上げることはあるが、それ以外の要素を中心にすることが増えているのだ。
“傘寿まり子”は起業や採用の難しさを、”海を走るエンドロール”は映像制作の苦しみをまるっと描いている。そこに、「歳を重ねているから」が言い訳として入ってくることはない。誰が取り組んでも難しく、苦しいことに取り組む人が、たまたまシニアだった…そんな描き方だ。老いを特別視しない流れは、シニア漫画という動きが、新たなジャンルとして人々に定着しつつあることを物語っているといえるだろう。
人生の後半を自分らしく生きる
役職や役割を終え、また次の何かを探す。次の何かは、家族のため、キャリアのため、社会のため、そういった探し方ではなく、「自分が本当にしたいことはなにか」、「自分が一番幸せを感じられることは何か」そんな探し方でもよさそうだ。そう表現すると、定年後や子どもの自立後に訪れる人生が、なんだか急に自由で、ワクワクできるものに見えてくる。
もちろん、仕事でなくても、趣味やボランティアといった形で楽しみを見つけるのもいいだろう。何の制限もない「次は何をしようか」がひしめくシニアライフは、若い時と変わらないくらい充実したものになりそうだ。
参考サイト:
西 炯子”お父さん、チビがいなくなりました”
“https://shogakukan-comic.jp/book?isbn=9784091792976
おざわゆき”傘寿まり子”
https://kc.kodansha.co.jp/title?code=1000028668
たらちねジョン”海を走るエンドロール”
https://landing.akitashoten.co.jp/endroll/
鶴谷香央理”メタモルフォーゼの縁側”
https://comic.webnewtype.com/contents/engawa/