好きな場所でくつろぐ贅沢。パリの公園から世界に広がる「リュクサンブールの椅子」
「あなたにとっての贅沢なくつろぎを感じられる場所は?」
そう問われたとき、あなたならどう答えるだろう。お気に入りのソファの上や、通いなれたカフェの一席、日常を忘れて作品に没頭できる映画館の椅子など、さまざまな答えが考えられる。
座る場所を自分で選ぶことは、規模の大小にかかわらず、自分の意思を尊重できる贅沢な時間だと言える。憧れの景色を備えた一戸建てを構えたり、ベランダにある日当たりのよい場所に折りたたみいすを広げたり…ボリュームは違えど、好きな場所でくつろぎたいという想いは共通している。
十人十色の多様な回答が得られそうなこの問いに対し、多くの人が「公園」と答えるであろう国が、フランスだ。フランスの人々にとっての公園とは、子どもが遊ぶ場であるのはもちろん、大人が憩いを求めて、歩き、彷徨い、くつろぎのひとときを過ごすための場所でもあるというのだ。はたしてフランスの公園にはどんな特徴や仕掛けがあるのだろうか。
ほっと一息つける場所としての公園
フランスの公園を代表する場所に、パリ6区に位置するリュクサンブール公園がある。パリ市内では6番目に大きな公園で、約22ヘクタールもの広大な面積を誇る巨大庭園だ。園内は季節の花々や小川、そしてもちろん子どもたちが遊べる小さな遊具などがある。なかでも目を引く存在が、突如あらわれる緑色の椅子だ。この椅子は1923年に公園内に設置されたもので、以降、伝統的な工房によって、公共向けにも一般向けにも生産されている。
注目すべきは、リュクサンブールの椅子がもつ、カーブを主とした美しいデザインだ。誰もが座りやすく、ゆったりとくつろげる形を求め、生産元の工房は試行錯誤を繰り返してきた。
友人と面と向かい合って話すための直角の椅子、あたたかな日の日差しをたっぷり浴びるために上向きに設計した椅子、小さな子どもがおままごとに使えるような椅子…抗UVコーティングにより、屋外に設置してもその魅力を保ち続けるリュクサンブールの椅子は、リュクサンブール公園をはじめ、パリのあらゆる公園に見られる「ごくごく普通の椅子」になっている。
座りたい場所に、椅子が合わせてくれる
この緑の椅子、昨日と今日では置いてある場所が違う。日本のように、椅子と机が一体型になったタイプのものや、地面に固定されたベンチ型のものとは異なり、なんと「自分が座りたい場所に好きに動かしていい椅子」なのだ。
公園を見渡すと、椅子が置いてある場所は統一されておらず、まるで散らかした後の遊び場、休み時間に入った後の教室の椅子のようなありさまだ。ただ、敷地内に散りばめられた椅子にあるのは「ここに座っていた誰か」の軌跡であり、不思議と悪い気持ちはしないのが面白いところでもある。輪になって置かれた椅子たちからは、誰かが楽しくおしゃべりしていた様子が、視界一杯に青空が広がるスポットに、真横に2つ並べられたデッキスタイルの椅子からは、手をつないで語りあうカップルの姿が浮かび上がってくる。
世界に広がるリュクサンブールの椅子
リュクサンブールの椅子の魅力に取りつかれているのは、パリ市民だけではない。オランダのアムステルダム動物園や、アメリカのハーバート大学の屋外スペース、ニューヨークのブルックリンブリッジパークなどに導入されており、パリから世界に座る楽しみを届けているのだ。
置かれた椅子や、決められた位置にある椅子に座るだけでなく、たまには自分が決めた好きな位置に座るのもいいだろう。キャンプ場やピクニックのような非日常でもいいし、いつも座っているオフィスチェアや、キッチンの椅子の配置を変えてみてもいい。椅子の種類は違っても、好きな場所で過ごす贅沢を味わうのに過不足はないはずだ。
決められた場所に決められたものがある、その安心感はもちろん大事だが、たまには「こんなところにこんなものが」という意外性を味わってみたい。それは、住む人の気持ちによって場所が変わるタイニーハウスや、座る人が望むあたたかさ・景色を備えた場所に置きなおすリュクサンブールの椅子にも通ずる視点だ。
参考サイト:
`L’histoire des chaises iconiques du jardin du Luxembourg à Paris`,actuParis,
`La chaise “Luxembourg”, itinéraire de la plus parisienne des assises`,Marie Clair maison
https://www.marieclaire.fr/maison/chaise-luxembourg,1143381.asp