お金にたよらず暮らしを豊かに。身の回りのもので音を奏でるジャグバンド

by Nicholas Green

音楽をやりたいと思ったら、楽器を買って音を奏でる。それは自然でありふれた行為だ。
言い換えると、楽器を買えるだけのお金がなければ音楽はできない。そう思っている人は多いのではないだろうか。

私たちの日常と共にある音楽だが、自分自身で音を奏でることのハードルは決して低いものではない。しかし世界には「楽器を買うお金がないのなら、自分たちでつくればいい!」と身の回りのもので音楽を始めた人たちがいるという。

今回は、身の回りにあるもので楽器をつくり、音楽を奏でる「ジャグバンド(Jug Band)」について紹介しよう。

楽器を買うお金がないなら自分たちで楽器をつくろう。ジャグバンドのはじまり

by Shelagh Murphy

1900年代初頭のアメリカ南部。
音楽をやりたいけれど楽器を買うお金がなかった黒人たちが、身の回りにある生活用品で楽器をつくり、音楽を奏ではじめたのがジャグバンドの始まりと言われている。

ジャグバンドの「ジャグ」”Jug”とは、ウイスキーなどの飲み物を貯蔵するための「瓶」のこと。瓶の口に息を吹き込む音を奏でていたことが由来なのだそう。ギター、バンジョー、マンドリンなどのベースとなる楽器に加えて、洗濯だらいに棒とワイヤーを張ってベースのように使うウォッシュタブベース、洗濯板をこすって音を鳴らすウォッシュボードなど、様々な手製楽器がある。

アイディア次第で、身の回りにあるものが何でも楽器になる可能性を秘めているのがジャグバンドだ。生活用品を楽器として使って演奏するのでお金もかからない。どんな環境や状況にあっても、身の回りにあるもので音楽を楽しむことができるのだ。

陽気で明るく、思わず踊りだしたくなるような音楽。みんなで音を奏でるジャグバンド

貧しく楽器を買うお金がなくても、音楽を奏でる楽しみを諦めなかった当時の黒人たち。
彼らにとって、音楽はとても大きな存在であり、単なる娯楽にとどまらない精神的な支えであったことが、ジャグバンドが生まれた時代背景から想像できるだろう。

ジャグバンドが生まれた当時のアメリカ南部では、アフリカから奴隷としてアメリカに渡る黒人たち、またはその子孫がほとんどだった。

ジャグバンドの特徴は、ひとりではなく、何人かと一緒に楽器を奏でることによって、より音が味わい深くなっていくことにある。
そのため、個性的な音を奏でる様々な楽器を演奏する人々によって、一緒に音楽が奏でられることが多い。

そして、ジャグバンドで演奏される音楽は、陽気で明るく、思わず踊りだしたくなるようなもの。みんなで音楽に合わせて踊り、楽しい時間を分かち合う。ジャグバンドはそんな場を簡単につくることができる。


▲アメリカ ケンタッキー州で行われたジャグバンドミュージックフェスティバルの様子

日常の中に豊かさをみつける。ジャグバンドの魅力

by Jade Masri

家の中を見てみよう。音が鳴るものが、身の回りにはたくさんあることに気付くかもしれない。
ジャグバンド奏者は、ホームセンターに行った時に、まるで楽器屋さんに行ったような気持ちになるのだという。

「どんな音が鳴るだろう」と普段と違う視点で身の回りのものを眺めるだけでも、日常が少し楽しくなりそうだ。楽器を買うお金を持っていなくても、音楽を奏でた当時の黒人たちのように、少し見方を変えると、自分の身の回りにあるもので楽しみをつくることができることに気付くだろう。

現代に生きる私たちは、日々を楽しんだり、何かを表現するためにはお金が必要だと思い込んでいることで、日々の暮らしを豊かにするヒントを逃してしまうことがある。お金で得られる豊かさはたしかに存在している一方、決してそれだけが全てではない。

音楽だけににとどまらずに、日々の生活や私たちの心を豊かにする方法を探してみよう。そうすることで、身の回りのもので音楽を始めた黒人たちのように、きっと私たちも、日常の中にある豊かさを見つけることができる。

Via:
acousticmusic.org
cmuse.org
centerforworldmusic.org
a-kimama.com
jazzdiscnote.jp