第8回:国産間伐材(加子母ひのき)を活用した小型ハウス|エコ・フレンドリー
未来住まい方会議をご覧の皆さん、こんにちは。今回は、国産ひのきの間伐材を活用した小型ハウス開発の情報を知り、その開発に関わっていらっしゃる一般社団法人more treesの事務局長である水谷さんにご協力いただき、その現場にお邪魔してまいりました。
加子母ひのきの小型ハウス
向かった先は、岐阜県東部に位置する中津川市加子母(かしも)。 地域内の総面積の94%(11,426ha)が森林という、森林資源が豊富な地域です。
この地域は東濃(とうのう)地域とも呼ばれ、銘木として知られる東濃ひのきの産地です。長野県との県境近くには国有林「神宮備林」があり、伊勢神宮の式年遷宮に使用される木材を供給されており、樹齢数百年を超えるひのきが林立しています。
美しく優れた森林を維持するためには、間伐が欠かせません。日が入らなくってしまった人工林では、痩せた細い木ばかりになり、生態系が崩れるだけでなく土砂災害などが発生する危険につながるとも言われています。
しかし、木々を間引く作業にはコストがかかる上、建築様式が変わり、海外からの輸入材が大量に輸入されることが増えた昨今では、木材の価値が下がり、間伐がされずに放置されてしまうことも多いのが現状です。
そこで、間伐材に付加価値をつけ、有効利用するため加子母で立ち上がったのが、間伐材を利用した3.7坪の「多目的小型ハウス」と、最小1坪の「超小型ハウス」の開発プロジェクト。加子母は他の地域より早くから植林したため、間伐材といえども樹齢が40〜70年あり、充分な強度をもつ木材になります。
最小1坪の超小型ハウスと、3.7坪の多目的小型ハウス
超小型ハウスのプロデュースを担当されたのは、今回の現地取材にご協力いただいた一般社団法人more trees。音楽家の坂本龍一氏が、森づくりを通じて、持続的な地域活性と、長期的な地球環境への貢献を実現させるために立ち上げた組織で、国内では間伐などの森林整備、海外では植林を中心にした森づくりを推進し、森と都市をつなぐ活動を行っています。加子母とは2012年から協定を結び、加子母で産出されるヒノキオイル(精油)を配合したコスメグッズの開発や、現地を訪問するウェルネスツーリズムなどを開催し、森づくりと地域づくりを協働されてきました。
「日本の国土の約7割が森林で、その森林の4割は人工林。その人工林の多くでは間伐が遅れています。そうした背景から、国内では間伐を推進しつつ、海外では植林という活動を続けてきて、間伐の必要性は、一般にも浸透してきたと感じます。
ただ、間伐については、ここにきて”間伐材=廃材と同様の捨てられて同然の木材”という誤解をされていることを時々実感します。もちろん、間伐材には細くて曲がった材もありますが、必ずしもそうとは限りません。
80年サイクルで伐採する森では、60年目に伐った木材は間伐材になりますが、60年サイクルで伐採する森で、60年目に伐った木材は主伐材になります。つまり、育林サイクルが違うだけで、間伐材か主伐材に分かれます。両者に材質の違いはなく、単に方針が違うだけです。
いずれにせよ大切なのは、持続可能な森林から適切に切り出された木材を、適切に使っていくことが重要です。」とmore treesの水谷さん。
設計デザインをご担当されたのは、熊谷有記さん。熊谷さんは飛騨高山にあるオークヴィレッジや、東京と大阪でクリエイティブ・ディレクターをご経験された後、香川にあるご実家の材木屋「山一木材」を継がれました。木の良さを一般の方々にも知ってもらうために、カフェやSHOPを併設した「KITOKURAS」をオープンし、木という素材の面白さや、木のある暮らしのご提案をされています。
今回の設計では、開口部の位置や形状は用途によって選べるようになっており、組立て解体を繰り返し簡単に行えるよう、できるだけ金物を使わず、シンプルながら強度をつくる接合方法にされています。
地元の方へのお披露目会では「外から見た時より、中に入ると思っていたより広い」という感想が多かったというのも頷ける室内の広さ。高速道路のサービスエリアや駅、空港での売店や屋台、離れや茶室としての利用など、様々な用途に合わせることが可能とのこと。ひのきの香りが漂う、こんな売店があったら素敵です。
一方、多目的小型ハウスの設計をご担当されたのは建築家の北畑栄氏。経済性を考慮し、量産と組立てのしやすさにこだわった設計になっています。
「無味乾燥ではない高齢者のための小型ハウスを造れないか?」との思いを抱いていた北畑氏がこの小型ハウスで目指したのは、木の暖かみがあり、五感を刺激する建物。 部材の規格を統一し、状況に応じて大きさが可変できるようになっており、 ケアハウスだけではなく、SOHOや書斎にしたり、子供部屋にしたりと、多目的な用途で使用ができる小型ハウスになっています。
こんな離れや書斎があったら、1日中籠ってしまいそうです。別荘までいかなくとも、こういう小型ハウスがあれば、2地域居住のセカンドハウスとしても充分利用できそうです。
超小型ハウス、多目的小型ハウスともに、来年度からの販売を目指して、部品の種類などを再考し、プロトタイプに改良を加えていく予定とのこと。すでに心地良い空間が出来上がっていましたが、今後がさらに楽しみです。
4世代の木が同居する、加子母の循環する森づくり
これらの小型ハウスで使用されている加子母ひのき。そのひのきが育つ森では、林齢が30年間隔の4世代の木(林齢10年生、40年生、70年生、100年生)が同居する森づくりを目指されています。対象区画にある伐期に適した木を全て切ってしまう「皆伐(かいばつ)」ではなく、山の生態系のため、また次世代のために、一定の基準で樹木を選び、適量ずつ数年から数十年おきに抜き切りして、林内での更新を図る「択抜(たくばつ)」の方針を取られています。
「加子母では、前の世代が植えてくれた木の一部は使わせて貰い、次の世代のために育林しつつ、択抜後には次世代のために植林をして育てています。1本切ったら、3本植える。そうすることによって、どの時代でも、山の雰囲気(林層)が変わらない山づくりをしています。
山づくりは最低30年単位で考えなければなりません。30年ごとに100年生以上の木を出せるような山づくりをしておけば、山に関わる人が世代交代をしても、その時その時、収益が見込めて事業として成り立っていきます。そのためには100年後のために、今からきちんと枝打ちをしておかなければなりません。」
と加子母森林組合長の内木さん。
一般的に人工林では伐採される林齢は40〜50年ぐらい。その伐採林齢を80〜100年まで引き延ばす方法を、長伐期施業といいます。長伐期施業では、下層植生や土壌構造が発達した状態を長く維持できるため、水土保全機能や生物の多様性を維持していくのに有利だと考えられています。こういった長伐期施業の考え方は、加子母森林組合の理念「美林萬世之不滅(びりんばんせいこれをたやさず)」という言葉にも込められています。
100年先をみすえた山づくり、そこからできる木材製品
加子母での山づくりで基本としていることに、「針葉樹と広葉樹の混交林への誘導」というものもあります。現在の日本の人工林の多くは戦後に植林された針葉樹が多くありますが、その多くは手入れが行き届かなくなっている現状があります。また、皆伐後の植林等にもコストがかかるため、伐採後に植林がされていない山も少なくありません。
加子母では、山の頂上付近や林道から遠い山は、針広混交林へ誘導し、広葉樹の山でも同じ林齢の木が密生している山は、活用できる広葉樹を残しながら多様性に配慮した植栽を行い、水源林として整備していくという方針をとられています。
林道沿いの森林は、経済林として優良材を生産する場として整備していき、人の手入れが届きにくい人工林や二次林(自然林が伐採された後または焼失した後に自然に生えてきた樹林)は混交林にしていく。人の生活圏の近くにある里山より、もうちょっと遠かったり奥まったりした所にある森林が、単層林から混交林に移行していけば、山の生物多様性が豊かになるだけでなく、広葉樹の実(栗やくるみなど)を食料とする野生動物が里山まで下りてくることも減り、畑や田んぼを荒らす被害も減っていくのではないでしょうか。
今回の小型ハウスでは、加子母の森の40年生から70年生の木を活用されています。今ある40年生の木の中から、70年生以上の大きな木に育てていく際には、40年生の木の半分は選んで伐採する必要があります。100年サイクルで考えると、間伐(択抜)ということになりますが、主伐と遜色のない木です。先人が植林をし、下草刈りや枝打ちなど手間ひまをかけて育林をしてきた木々。100年先を見据えながら続けてきた森の営み。その営みの一部である木材から完成した小型ハウス。ぜひ山のことも想像しながら、多くの方にその空間を堪能して欲しいと思いました。
関連リンク/問合せ先
一般社団法人 more trees
加子母森林組合